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アドバンテージマトリクスとは?戦略を立案するには業界特性の把握から
ビジネスの世界では、扱う商品やサービスの種類ごとに複数の業界が存在します。市場競争で効果的な戦略を立案するためには、自社が属している業界特性の把握が重要です。 経営学には、特定の指標を設けることでその業界の特性を絞り込む分析手法がいくつかありますが、そのひとつが「アドバンテージマトリクス」というフレームワークです。 本稿では、アドバンテージマトリクスの概要や、マトリクスによって分類可能な4つの業界特性を解説することで、戦略立案の方向性を掴むための考え方についてご紹介します。
アドバンテージマトリクスとは?
アドバンテージマトリクスとは、競争上の優位(アドバンテージ)をヒントに業界の特性を把握し、経営に生かすためのフレームワークです。
1981年にボストンコンサルティンググループ(BCG)が提唱した概念であり、プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)同様にマトリクスを用いた分析を行います。
「競争要因(戦略変数)」と「優位性構築の可能性」の2軸によって業界を4つのタイプに分類し、それぞれの売上規模とROA(Return On Assets:収益性)の関係から事業特性を把握するのが特徴です。
まずは「競争要因」と「優位性」の定義を明確にしておきましょう。
関連記事:プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)とは?経営資源の分配を最適化する経営手法を解説
競争要因とは?
競争要因とは、戦略策定の際に企業が意思決定しなければならない要素です。
例えば外食業界においては、店舗立地や価格帯、ターゲットやサービスなどが競争要因として挙げられます。
競争要因が多くなると勝ち負けが決まりにくくなり、競争は激化すると考えましょう。
優位性とは?
優位性とは、他社には真似できず、かつ市場ニーズが自社の商品やサービスに向くような差別化ができている要素です。
優位性が構築できれば売上が上がりやすくなり、競争に勝てる可能性が上がります。
したがって、優位性構築の可能性が高い業界は、差別化しやすい競争要因のある環境だと言えます。
アドバンテージマトリクス4つのタイプ
続いて、アドバンテージマトリクスにおける4つのタイプをひとつずつ見ていきましょう。
自社の事業がどのタイプに位置付けられているかを認識することにより、とるべき戦略の基本的方向性が明らかとなります。
それぞれの事業(売上)規模と収益性の相関や、属する事業の代表例を絡めて解説します。
特化型事業
特化型事業とは、競争要因が多く存在する一方、特定の分野で独自の地位を築くことで優位性の構築が可能なタイプの事業です。
事業規模と収益性には相関がなく、戦略次第で高い収益を出す可能性を秘めています。
特化型事業に該当する業界例は、雑誌や医薬品など、分野ごとに強いプレイヤーがいる業界や、マーケット領域の棲み分けができている欧州自動車業界などが挙げられます。
規模型事業
規模型事業とは、競争要因はほとんどなく、競合が少ないため規模を増やして収益が挙げられるタイプの事業です。
生産量・販売量アップに相対してコストダウンが見込める「規模の経済」効果によって優位性を構築可能な事業とも言えます。
競争要因を唯一挙げるとすれば、「事業規模」です。シェアが大きいほど収益が見込めるため、事業規模と収益性は明確な比例関係にあります。
規模型事業に該当する業界例は、少数の大企業が占めるコンピューター業界や日本の自動車業界などが挙げられます。
分散型事業
分散型事業とは、競争要因が多く競争が激化しやすい中で、優位性構築が難しいタイプの事業です。アメリカの経営学者であるM.ポーターは、これを「多数乱戦業界」とも呼んでいます。
特化型事業と同様に事業規模と収益性に相関はありませんが、規模の経済が働きにくく、他社との差別化も難しいため、業界内で突出する機会を掴みにくいのが特徴です。
分散型事業に該当する業界例は、小中規模の外食業界や個人商店といった零細小売業界、アパレル業界などが挙げられます。
手詰まり型事業
手詰まり型事業とは、競争要因も少なく優位性も構築しにくい、つまり企業間格差がほとんど生まれなくなったタイプの事業です。
たいていは中小以下の企業が淘汰され、残った大企業も規模の経済効果が限界に到達している状態を指します。
規模をいくら拡大しても収益性が上がらないため、事業規模と収益性は悪い意味で相関しません。
材料を安く調達したり生産性を上げるなど、コストを下げるアプローチでしか生存は図れないでしょう。
手詰まり型事業に該当する業界例は、市場が成熟し切ったとされるセメント業界や鉄鋼業界などが挙げられます。
事業の構造転換によって収益性がアップする可能性も
事業は、必ずしも一定の業界分類に属するとは限りません。
例えば、市場のライフサイクルを考えた場合、規模型事業は市場が成熟するにつれて、コストが横並びになる手詰まり型事業へと転換します。
これは収益性が下がる消極的な例ですが、望ましいのはその逆です。
一般的に収益を出しにくいのは分散型事業と手詰まり型事業とされるため、自社の事業がこれらに分類される場合、特化型事業や規模型事業へ転換を図ることが重要となります。
構造転換の鍵となる「V字カーブ」
収益性がアップする方向で構造転換を図るには、「V字カーブ」という現象が鍵となります。
V字カーブは、縦軸に収益性、横軸に事業規模を設定するグラフを見たとき、事業規模が小規模もしくは大規模の場合に収益性が高く、中規模になると収益性が落ちる傾向のことです。
分散型事業に分類される外食業界を例に、各規模ごとの傾向を見てみましょう。
まず、個人経営で裁量の広いカフェや居酒屋のような小規模事業の場合、事業維持や管理・教育に必要なコストを低く抑えやすく、相対的に収益性を高めることができます。革新的なブランディングに成功すれば、特化型事業へ転換させることも可能です。
次に、法人化やチェーン展開によりある程度規模を拡大した中規模事業になると、コストが高くついてしまい、かえって収益性が下がりやすくなります。
そして、セントラルキッチンを持つような大手ファミリーレストランなどの大規模事業は、規模の経済効果を得られるレベルまで拡大しているため、規模型事業へ転換を図るチャンスが得られます。
アドバンテージマトリクスで自社事業の現在地を確認
アドバンテージマトリクスは、まず現状の業界分析から始まり、自社事業の現在地を知るために役立ちます。
分析結果によっては、「どうしたら収益性を上げられるのか」という観点を持ち、適切な方向へ経営の舵を切っていくのが理想です。
自社事業が収益性の低い事業分類にあったとしても、コスト削減や規模の拡大、ブランディングといった競争を勝ち抜くための戦略立案を粘り強く行って行きましょう。
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