「優越的地位の濫用」とは?公正な取引を阻害する違法行為

国家が市場経済をコントロールする法の総称として、「経済法」という概念があります。そのひとつである「独占禁止法」は、公正かつ自由な競争を促進する目的で制定されました。 本稿では、独占禁止法が不公正な取引として定める「優越的地位の濫用」という行為について、法定義や要件、摘発事例から対処法までを解説します。

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優越的地位の濫用とは?

「優越的地位の濫用」とは、『私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(通称:独占禁止法)』第2条第9項第5号で定められた「不公正な取引方法」の一種です。

不公正な取引方法は、同法第19条で「用いてはならない」と明記されているため、すなわち法律違反行為です。

摘発されれば、行政処分や損害賠償等の民事責任を負う可能性があります。

優越的地位の濫用を構成する要素は以下の3点です。

  • 取引関係にある者のうち一方が優越的地位にある
  • 取引は正常な商慣習(※)に照らして行われている
  • 優越的地位にある者が相手方に不当に不利益を与える

※各業界において通常行われる範囲での経済行為

ちなみに優越的地位の「優越」の基準は、絶対的ではなく相対的と解釈されています。

あくまで当事者間での取引依存度や市場での地位の優劣などを考慮するのが通例です。

優越的地位の濫用は、「取引する商品やサービスの相場は常識の範囲内に収まっているが、自分の立場を利用して相手に不利益を与える行為」とまとめられます。

どのような行為が濫用に当たるのか

独占禁止法第2条第9項第5号は、濫用に該当する行為類型を「イ・ロ・ハ」の3種に分類しています。

それぞれの内容を簡潔にすると、以下のようになります。

  1. 取引と無関係で相手方にメリットのない製品・サービスを買わせる行為
  2. 勝手な都合で相手方の経済上の利益(金銭・サービス・知的財産・人員など)を要請する行為
  3. 正当な理由のない商品受領拒否・返品や支払遅延などで相手方が不利になるような取引条件に変更する行為

いずれも、相手が拒否できない状況がある上で行われるため、公正な取引を阻害する悪質な行為です。

公正取引委員会をはじめとした第三者機関が定期的に実態調査を実施していますが、残念ながらこうした濫用行為は実態として横行していることが明らかになっています。

優越的地位の濫用に対する課徴金

独占禁止法では、違反行為抑止のための措置として、違反事業者に対して金銭的不利益を課す課徴金制度が設けられています。

制度が導入された昭和52年当初は「不当な取引制限(カルテルの形成など)」のみを対象にしていました。

その後、平成21年に独占禁止法が改正され、優越的地位の濫用にも課徴金が課せられるようになります。

優越的地位の濫用に対する課徴金の計算式は、以下の通りです。

違反行為の相手方との取引額×算定率(1%)=課徴金

上記計算式の取引額は、濫用行為の開始日から終了日までを算定期間(最大上限3年間)とする合計値となります。

算定率の1%は一律で決められており、軽減算定率や加重算定率は設定されていません。

他の違反行為と異なり、課徴金減免制度が導入されていない点や、過去10年間に2度違反行為をしている条件が求められない点といった独自の特徴もあります。

優越的地位の濫用と認定された事例

優越的地位の濫用と認定された不公正な取引事例をご紹介します。

無償での従業員派遣要請

ある大手小売業者のA社は、納入業者であるB社に対し、自社が取扱う商品の陳列や販売の作業を行わせるためB社の従業員を派遣させていました。

問題となったのは、A社が上記派遣を無償で要請していた点です。

加えて、販売期間中に売れ残った商品を、正当な理由も損失補償もなくB社に返品していました。

これに対しB社は、A社との取引に依存していたために、要請を拒否することができなかったのです。

この手の事例は小売業界で摘発が多く、濫用行為の排除措置に加え、中には億単位にのぼる高額の課徴金納付を命じるケースが相次いでいます。

融資を引き換えとした金融商品の購入押し付け

2005年に、都市銀行が公正取引委員会に摘発された事例があります。

同行は、融資先に「当行の金融商品を購入しなければ融資をしない」といった旨の条件を提示し、半ば強制的に購入を押し付けていました。

この事例では、優越的地位の濫用に加え、コンプライアンスよりも収益獲得を優先した経営姿勢や、金融商品販売法上の説明義務違反といった問題点が浮き彫りになりました。

事態は金融庁の目にも留まり、その金融機関は違反行為の排除措置のみならず、半年間の一部金融商品の販売勧誘停止などの行政処分を受けたのです。

「送料無料」の出店者負担

ECモール運営会社は2020年2月、同社が運営する通販サイトにて消費者が税込み3,980円以上購入した場合、”出店者負担”で”自動的”に「送料無料」とする方針を公表しました。

公表当時、公正取引委員会は優越的地位の濫用に当たる疑いがあるとして、楽天に対する緊急停止命令の申立てを東京地方裁判所に対して行いました。

その後、楽天は出店者が送料無料とするか否かを自らの判断で選択できるようにする旨を公表し、緊急停止命令の申立ては取り下げられています。

ただし、委員会によれば本件に関する審査は継続されているとのことです(2020年3月10日時点)。

優先的地位の濫用にどう対処すべきか

大口の取引先から一方的に負担を押し付けられる企業は、ただちに然るべき対処をとらなくてはなりません。

まずは、公正取引委員会と商工会議所が運営する「独立禁止法相談ネットワーク」を窓口に利用しましょう。

独占禁止法や下請法に関する様々な相談は、公正取引委員会の本局及び地方事務所・支所で受け付けています。

また、法的アドバイスや民事訴訟による対応を求める場合、独占禁止法や競争法に強い法律事務所に相談するのも有効です。

行政と立法の両面から対応し、優越的地位の濫用に対抗しましょう。

私的独占のない公正な取引確保を

第一に、優先的地位の濫用は「公正な取引を阻害する違法行為」と強く認識すべきです。

濫用行為が摘発されれば私的独占が差し止めされるだけでなく、場合によっては高額な課徴金の支払いを命じられます。

とりわけ優位な立場をとりやすい大企業は、相手方に一方的な負担を求める態様の取引をする場合、一度弁護士など専門家の見解を確認すべきでしょう。

公正取引委員会は継続的に取引の実態に関する調査活動を実施していますが、被害者側から積極的に助けを求めることも大切です。

<参考>
「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)」公正取引委員会
「優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」公正取引委員会
「優越的地位の濫用に関する実態調査」公正取引委員会
「独占禁止法改正法の概要」公正取引委員会
「優越的地位の濫用に関する問題」中本総合法律事務所
「大規模小売業者による従業員等の人件費を納入業者に負担させる行為」公正取引委員会
「三井住友銀行事件ー金融機関の独占禁止法違反」御池総合法律事務所
「(令和2年3月10日)楽天株式会社に対する緊急停止命令の申立ての取下げについて」公正取引委員会
「送料無料ラインガイド」楽天株式会社
「独占禁止法相談ネットワークを ご利用ください!」政府広報オンライン

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