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特定エリアに集中出店、「ドミナント戦略」とは?メリットや事例を解説
ドミナント戦略は、特定の地域に出店を集中させることで、国内をに独占状態にするマーケティング戦略です。飲食や小売のチェーン店が六本的に店舗を展開する手段として知られています。今回は、ドミナント戦略がもたらすメリットや実際の企業事例、裏に潜むデメリットまでを解説します。
ドミナント戦略とは?期待できるメリットについても
ドミナント戦略とは、主に小売業がチェーン展開をする場合に、特定の地域に出店を集中させることで、商圏内を実質的に独占状態にするマーケティング戦略です。
「ドミナント(dominant)」は、「支配的な」「優勢な」という意味で、集中的に出店する特定の地域を「ドミナントエリア」と呼びます。
経済・金融などの分野に強いシンクタンクであるニッセイ基礎研究所の研究は、ドミナント戦略に以下のような効果があると指摘しています。
コストを削減する効果がある
特定の地域に出店することで、主に物流・広告・商圏調査・店舗巡回の四大コストを削減する効果が期待できます。
なぜ物流コストが削減可能?
小売店で扱う商品は、メーカーや卸売業者から直送するより、地域ごとに設けた配送センターに集中することで、効率よく配送することが可能となります。そこで、店舗を特定地域に集中することで配送センターの設置効果を最大限に発揮できるため、物流コストを削減できるのです。
なぜ広告コストが削減可能?
広告のためにチラシやテレビCMを打つ場合、特定地域に店舗数を集中させるほど、1店舗あたりのコストが下がります。
なぜ商圏調査コストが削減可能?
小売店を新規出店する場合、対象の地域(商圏)に住む消費者の属性(年齢や所得状況、家族構成など)を調査し、最適な場所を決めることになります。特定の地域に店舗を集中させていれば、既存店舗がストックしている情報を流用できるため、商圏調査のコストを節約することができます。
なぜ店舗巡回コストが削減可能?
フランチャイズ展開をしている小売店では、本部のスーパーバイザーが店舗を巡回し、商品の説明や効果的な陳列について監修・指導するのが一般的です。店舗が集中している地域であれば、店舗ごとの距離が短いため、店舗巡回のコストを削減できます。また、スーパーバイザーにとっては、担当店舗が集中することで、指導の効率化やレベルアップが図れる効果も期待できます。
知名度向上につながりやすい効果がある
特定の地域で多くの店舗を展開していると、消費者の目にとまりやすく、知名度向上につながりやすい効果があります。
知名度が向上し、ブランドイメージを確立できれば、顧客のロイヤリティ(商品やブランドへの愛着)向上、ひいては集客率と売上アップが期待できるでしょう。
労務管理の観点では、知名度向上やブランドイメージの確立によって従業員のモラルアップが期待でき、優秀な人材を確保しやすいという見方も可能です。
利益を独占することができる
特定の地域内で高いシェアを獲得していると、必然的にその地域の利益を独占可能です。また、価格競争を考慮することないため、独占力の行使によって高い販売価格の設定ができます。
ライバル店の新規参入を阻止することができる
ある地域に他の企業より先行してドミナント戦略を仕掛けた場合、ここまでに挙げたような効果を先取できます。すなわち、すでにブランドイメージの確立や利益の独占がされた状態の地域に対し、ライバル店は簡単に新規参入できないのです。
ただし、業態や規模が異なる場合は、この効果が必ず発揮されるとは限らない点には注意が必要となります。
実際に企業が実施したドミナント戦略の代表例
ドミナント戦略を採用する企業の代表例として、コンビニチェーンの大手であるセブンイレブンが挙げられます。
まずはセブンイレブンの展開状況から、全国的に行うドミナント戦略の具体例を見ていきましょう。続けて、一部の地域に限定して展開するドミナント戦略の例もご紹介します。
セブンイレブンは国内に2万店以上を展開
セブンイレブンは創業当初からドミナント戦略を採用しており、1974年に設置された第1号店である豊洲店を中心に、当初は東京都江東区に集中した店舗展開を行ったのがルーツとされています。
このように、セブンイレブンは都道府県といった広域を単位とするのではなく、市区町村といった狭い範囲をドミナントエリアとして設定し、集中出店を繰り返してきました。
その過程で独自の専用工場を設置し、販売時間帯に合わせた計画的な配送や、新鮮で品質の高い商品の提供を可能としています。
こうした戦略の積み重ねから営業収益を伸ばしていき、現在では国内の全都道府県に店舗を構え、合計で2万店以上を展開する規模にまで成長したのです。
「さわやか」(静岡県)、「ラッキーピエロ」(北海道函館市)にみるドミナント戦略
ドミナント出店を繰り返し、全国規模にまで成長したセブンイレブンとは異なり、一部の地域に対してのみドミナント戦略を続ける企業例もあります。
例えば静岡県に拠点を構えるさわやか株式会社が展開する「炭焼きレストランさわやか」は、「地域一番店」のスローガンを掲げ、静岡県内にのみ店舗を展開しています。
人気商品である「げんこつハンバーグ」の質や、販促に頼らない口コミによる集客が特徴で、県民の間では非常に知名度が高く、県外からの来客もあるほどの人気を獲得しました。
もうひとつの例として、北海道函館市にのみ展開するハンバーガーチェーン「ラッキーピエロ」が挙げられます。函館市でしか食べられない希少性や、ボリュームのあるハンバーガーのインパクトが注目を集め、地元の方や観光客にも人気なご当地グルメとしての称号を得たのです。
いずれの事例も、特定地域の固定客の獲得や、地産地消による流通コスト削減を狙っており、有効なドミナント戦略と言えるでしょう。
共食い状態に?ドミナント戦略のデメリット
集中的な出店からさまざまな効果が期待できるドミナント戦略には、失念してはならないデメリットも存在します。
主に考えられる3つのデメリットについて見ていきましょう。
災害リスクや人口減少リスクが集中
店舗を集中展開したドミナントエリアに対し、災害などの環境的な変化や人口減少といった社会的な変化が起きるリスクがはまず考えられます。
地理的なリスクの分散ができないため、一度問題が起きてしまうと、経営状況が悪化するおそれがあります。
他エリアへの展開が遅くなる
ひとつのドミナントエリアが飽和状態になれば、新たに別のエリアへ店舗を展開していくことになります。
その場合、商圏に関する情報が少ない状態からスタートするため、一時的に調査コストが増え、店舗の展開スピードが落ちる可能性が高くなりますいです。
場合によっては、店舗の展開自体がうまくいかず、ドミナントエリアが完成しないケースもあり得ます。
つまり、ドミナント戦略を採用する場合、エリア開拓を素早く正確に見極め、実行する必要があるのです。
レッドオーシャンを引き起こす可能性も
レッドオーシャンとは、参入企業が多く、競争が激化した既存市場です。こうした市場では差別化が難しいため、激しい価格競争に発展する可能性が高いとされています。
ドミナント戦略は、成功すればライバル店の新規参入を防ぐことができます。しかし、一度参入を許してしまうと、同業種間のみならず、他業種とも顧客の奪い合いに陥る可能性があります。
つまり、ドミナント戦略は中途半端に終わると、その商圏内でレッドオーシャンが発生する可能性があるのです。
例えば、全国的に展開されるコンビニチェーンはレッドオーシャンになりやすいとされます。2019年末には全国のコンビニ店舗数が2005年以降初めて減少に転じており、市場が飽和状態ではないかとの見方があるほどです。
関連記事:ブルーオーシャン戦略とは?効果的な活用法と最新事例を紹介
ドミナント戦略の今後はどうなるのか
ドミナント戦略は、特定の地域に集中的に出店することで、各種コストを削減したり、知名度やブランドイメージを向上させるなどのメリットがあります。
メリットと表裏一体になるように、集中的な出店は災害リスクや人口減少リスク、商圏内での競争が激化するリスクなどに弱いというデメリットもありました。
事業を取り巻く環境が常に変化する中でドミナント戦略を成功させるためには、ターゲットや競合他社、商圏に対して綿密な調査をして、エリアを見極めることが重要と言えるでしょう。
<参考>
チェーンストアにおけるドミナント出店戦略の経済分析
今、さらなる「近くて便利」へ。進化の原動力を読み解く5つの視点。(2018年6月) | 企業情報
国内店舗数|セブン‐イレブン~近くて便利~
会社情報|げんこつハンバーグの炭焼きレストランさわやか
函館ラッキーピエロ
コンビニ店舗数、初の減少…大手は新規出店抑制に : 経済 : ニュース
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