クロスボーダー案件やMBOが活発―2025年7~9月期のセクター別M&A動向 ――インダストリアルズ、コンシューマー、TMT・運輸・ビジネスサービスセクター

2025年9月までの日本におけるM&Aは、件数・金額ともに過去最高水準で推移している。大型のクロスボーダー案件や非公開化を目的としたMBO(Management Buyout)など、企業の戦略に応じた様々な動きが見られる。
本稿では、7~9月の直近四半期のセクター別M&A動向について、当社M&Aアドバイザリー部のセクターリーダーがレポートする。

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市場動向サマリー ―堅調な日本株 素材・エネルギーが上昇

2025年第3四半期(7~9月)の日本の株価は懸案となっていた日米関税合意が成立した結果、堅調な推移を続け、9月下旬には日経平均株価が史上最高値を更新した。セクター別で見ると、直近では素材、エネルギーなどが上昇している。

EV/EBITDAで見ると、ヘルスケア、コミュニケーション、公益セクターが比較的高いマルチプルとなっている。また、26年度に向けては、各セクターでEBITDAの増加が期待されており、特にヘルスケアセクターにおいて顕著だ。

図表1_セクター別株価動向

図表2_セクター別バリュエーション
出所:Capital IQを元にFMI作成 セクター分類はGICSによる

M&Aの動向 ―インダストリアルズで活況、「同意なき買収」が増加

2025年1月から9月までの日本におけるM&Aは、件数・金額ともに過去最高だった前年同期を上回る状況で推移している。円安傾向の中でもIN-OUT案件数は昨年と同程度で推移しており、大型案件がけん引したことで金額ベースでは大幅な増加となっている。

7~9月期は、金額面では(金融を除いて)インダストリアルズセクターが、件数においてはコンシューマーリテール系やITセクターが活況であった。PEファンドによるトランザクション数も同様の傾向が見られる。

図表3_2025年第3四半期M&A動向
出所:Mergermarketを元にFMI作成

図表4_2025年第3四半期PEファンドによるトランザクション数
出所:Capital IQを元にFMI作成

また、投資ファンドや海外企業による大規模な「同意なき買収」案件もあり、直近では芝浦電子を巡る台湾のヤゲオの取組みが話題となった。企業は一層の資本効率改善や企業価値向上を求められていると言える。

同意なき買収

買い手 対象会社 概要
エフィッシモ・キャピタル・マネージメント ソフト99コーポレーション ソフト99取締役はMBOによる非上場化を目指したことに対して、エフィッシモがTOBを開始。9月25日、ソフト99はエフィッシモによるTOBへの反対意見を表明
牧寛之氏(バッファロー社長) BASE 牧氏によるTOBに対し、BASEは5月15日反対意見を表明。牧氏は有効期限を8月まで延長し、結果約21%を保有する筆頭株主となった
ヤゲオ 芝浦電子 2月に開始されたヤゲオのTOBに対し、ミネベアミツミがホワイトナイトとして参戦したが、9月12日同社が撤退。同月16日、芝浦電子はヤゲオTOBへの賛同意見を表明

出所:レコフデータよりFMI作成

インダストリアルズセクターの主なM&A案件

今期の大型案件としては、欧州のファンドEQTによるフジテックの買収が挙げられる。EQTは日本を最重要戦略市場のひとつだとしており、他ファンドも含め、今後も海外からの積極的な投資が予想される。
一方、三菱電機による米セキュリティー企業Nozomi Networks買収のように、日本企業による海外企業の大型買収のケースも出てきており、引き続きこうした動きも活発化していくだろう。

また、太平洋工業は非公開化を目指すMBOを実施しているが、それに対しエフィッシモ・キャピタル・マネージメントが同社株式の取得に動いた。MBOを目指す企業は今後も増えると見込まれるが、手続きや価格の公正性に関してより慎重な対応が求められてきている。

2025年第3四半期M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件)

買い手 対象企業 形態 金額(百万円) マーケット
EQT運営ファンド フジテック 買収 407,820 OUT-IN
ソフトバンクグループ(SBG) インテル 資本参加(約2%) 294,900 IN-OUT
テルモ オルガノックス 買収 222,900 IN-OUT
三菱電機 Nozomi Networks Inc. 買収 130,260 IN-OUT
太平洋工業現経営陣 太平洋工業 買収 113,367 IN-IN
ソニーグループ バンダイナムコホールディングス 資本参加(2.5%) 68,000 IN-IN
豊田合成 芦森工業 買収 18,026 IN-IN
ウシオ電機 産業・エンターテインメント用ランプ事業承継会社 買収 15,200 IN-OUT
エフィッシモ・キャピタル・マネージメント 太平洋工業 資本参加(11.5%) 14,822 OUT-IN
オアシス・マネジメント・カンパニー カシオ計算機 資本参加(5.2%) 14,653 OUT-IN

注:買い手、対象企業のいずれかが該当セクター(機械、電機、輸送用機器、精密、その他製造/東証33分類)に含まれるものを抽出。金額は、公表案件ベース

その他PEファンドなどによる案件

買い手 対象会社 売り手 金額(百万円) 公表日
T Capital Partners Co., Ltd.; T Capital VI FCホールディングス FCホールディングス 9,550 8/6
牧寛之氏(バッファロー社長) BASE 牧氏によるTOBに対し、BASEは5月15日反対意見を表明。牧氏は有効期限を8月まで延長し、結果約21%を保有する筆頭株主となった 7,275 7/24

出所:レコフデータ、Capital IQよりFMI作成

コンシューマーセクターの主なM&A案件

今四半期は、ベインキャピタルによるヨーク・ホールディングスの買収やトライアルホールディングスによるKKR及び米ウォルマートからの西友の買収など、スーパー業界での大型案件があり、その行方が注目される。
ドラッグストア・調剤薬局業界においても、アドバンテッジパートナーズによる日本調剤の買収など、近年の再編の動きは継続すると予想される。

また、マンダムのMBOに対する旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスによる株式取得やバリューアクト・キャピタルによる宝ホールディングス株取得など、他セクターと同様に非公開化やファンドによる投資の動きが見られる。

2025年第3四半期M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件)

買い手 対象企業 形態 金額(百万円) マーケット
ベインキャピタル ヨーク・ホールディングス(イトーヨーカ堂、ヨークベニマルなど持株会社) 事業譲渡 814,700 OUT-IN
トライアルホールディングス 西友 買収 382,600 IN-OUT
豊田通商アメリカ(TAI) ラディウス・リサイクリング 買収 134,400 IN-OUT
アドバンテッジパートナーズ 日本調剤 買収 117,762 IN-IN
CVCキャピタル・パートナーズ マンダム 買収 79,316 OUT-IN
アインホールディングス NSSK-WW(クラフト持株会社) 買収 59,100 IN-IN
宇佐美鉱油 フジ・コーポレーション 買収 51,489 IN-IN
MISUMI Investment USA Corporation Fictiv 買収 51,200 IN-OUT
バリューアクト・キャピタル・マネジメント 宝ホールディングス 資本参加(10.1%) 45,619 OUT-IN
エア・ウォーター 歯愛メディカル 買収 38,866 IN-IN
亀田製菓 TH FOODS, INC.(亀田製菓、三菱商事グループ折半出資会社) 買収 32,044 IN-IN
ポラリス・キャピタル・グループ DDグループ 買収 31,054 IN-OUT

出所:レコフデータ、Capital IQよりFMI作成

TMT・運輸・ビジネスサービスセクターの主なM&A案件

TMT(テクノロジー・メディア・情報通信)セクターでは、ソフトバンクがOpen AIやインテルといったAI・半導体関連分野に引き続き大型の投資を行っている。また、NTTドコモは住信SBIネット銀行を連結子会社とするなど、通信分野以外での事業拡大を進めている。

運輸セクターにおいても、商船三井や郵船ロジスティクスなどが欧州市場への継続投資戦略の中で過去最大の大型案件を公表している。
航空機リースのSMBCアビエーションキャピタルは、住友商事および投資ファンド2社と共に米国大手のエアリースを買収し、業界首位に迫るシェアとなった。コロナ以降の旅客需要回復を背景とした攻めの姿勢がうかがわれる。

2025年第3四半期M&A金額順(下線はPEファンドなど関与案件)

買い手 対象企業 形態 金額(百万円) マーケット
ソフトバンクグループ(SBG) OpenAI Global, LLC(OpenAI孫会社) 資本参加 4,485,600 IN-OUT
ソフトバンク・ビジョン・ファンド2 OpenAI 資本参加 328,944 IN-OUT
住友商事、SMBCアビエーションキャピタル、アポロ・グローバル・マネジメント、ブルックフィールド・アセット・マネジメント エアリース 買収 1,087,800 IN-OUT
ソフトバンクグループ(SBG) アンペア・コンピューティング 買収 973,000 IN-OUT
ブラックストーン・グループ運営ファンド テクノプロ・ホールディングス 買収 507,918 OUT-IN
NTTドコモ 住信SBIネット銀行 買収 420,396 IN-IN
ソフトバンクグループ(SBG) インテル 資本参加(約2%) 294,900 IN-OUT
商船三井 LBCタンク・ターミナルズ 買収 260,500 IN-OUT
郵船ロジスティクス(ヨーロッパ) モビアント・インターナショナル[ウォルデングループ] 買収 210,000 IN-OUT
大成建設 東洋建設 買収 160,137 IN-IN
三菱電機 Nozomi Networks Inc. 買収 130,260 IN-OUT

注:買い手、対象企業のいずれかが該当セクター(建設、出版・印刷、運輸・倉庫、通信・放送、ソフト・情報、サービス/マール40分類)に含まれるものを抽出。金額は、公表案件ベース

その他PEファンドなどによる案件

買い手 対象会社 売り手 金額(百万円) 公表日
ジャパン・アクティベーション・キャピタル オムロン オムロン 非公表 7/7
アクセンチュア SI&C ベインキャピタル 非公表 8/27
丸の内キャピタル スマートキャンプ マネーフォーワード 非公表 9/19

出所:レコフデータ、Capital IQよりFMI作成

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