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データセンターに大量の資金が流入 最新の動向を解説
データ処理の専用施設であるデータセンターに、大量の資金が流入している。最近のDX(Digital Transformation)の個人の生活やビジネスへの浸透度合いは、コロナ禍を経て加速している。今後IoTや生成AI、更には自動運転などの普及や進化・進展が予想される中、これらの用途の拡大に必要不可欠な機能であるデータセンターの需要が伸びるのは疑いない。
需要の伸びが見通せる中、日本では国内外のIT事業者から大量の資金が流入しているのみならず、不動産投資マネーがデータセンター市場に流入し、多くの新築のデータセンターの開発が進んでいる。特に関東と関西では建設ラッシュの様相を呈しており、市場はやや過熱気味だ。
最近のデータセンター市場の動向をまとめた。
クラウドの拡大により世界のデータセンター市場は急成長
世界のデータセンターシステムの市場規模(支出額)は2023年に2,160億USドルと推定され、10年前の2013年の1,400億USドルから50%強増えた(令和5年版情報通信白書:原出所はStatista(Gartner))。
データセンターが提供するサービスは、大別してクラウドとコロケーションの二つに分かれるが、最近のデータセンター市場の成長は、クラウドサービスの拡大によるところが大きい。すなわち“ハイパースケール”と呼ばれるクラウド事業者向けの大型のデータセンターの需要が急速に拡大している。
オンプレミスからクラウドへの移行が進む
クラウドコンピューティング、または単にクラウドとは、クラウドサービスを行う事業者が、データセンター内に事業者が調達したサーバーなどの機器やソフトウェアを用いてIT環境を構築し、事業者から企業へのインターネット上のサービスとしてオンデマンドで提供されるやり方でのコンピューターの利用形態を意味する。
クラウドサービスには、サーバーなどのインフラ機能を提供するIaaS(Infrastructure as a Service)、開発環境=プラットフォーム機能を提供するPaaS(Platform as a Service)、メール機能などのソフトウェア=アプリケーションだけが提供されるSaaS(Software as a Service)の3種類がある。また個々の利用者に専用で構築されるプライベートクラウドと、複数の利用者が同じ環境を共有するパブリッククラウドとに分類できる。
従来、企業がIT環境を構築する際には、企業が自ら調達したサーバーなどの機器にOSやソフトウェアを装備して自ら運営・管理する“オンプレミス(on-premises)”が一般的だった。
一方クラウドでは、企業が自ら機器やソフトを調達して環境を構築する必要はないため、企業のITシステムは保有から利用に移行し、保守管理も不要となる。初期投資コストや、運用・管理の負荷やコストが高いオンプレミスのシステム環境からクラウドに移行したいと考える企業が増えている。
オンプレミスへの回帰の動きも
ただし企業の中には、“オンプレミスへの回帰”の動きも一部にみられる。これは、一度クラウド(主にパブリッククラウド)に移行したシステムを、再びオンプレミスに戻すことを示す。この動きは日本よりクラウドの活用が進んでいるアメリカで始まり、現在は日本の企業にも見られる。
これらの企業がオンプレミスへ回帰する理由は、そのままクラウドが抱える課題に重なる。すなわち、セキュリティー面の不安、処理パフォーマンスの低下、想定を上回るコスト、インフラの運用・管理を事業者に任せるため利用者の責任でコントロールできないという不自由さ、などの課題がクラウドにはある。
それでもクラウドには、初期投資コストの大幅な低減をはじめとして、多くのメリットがある。またパブリッククラウドの課題の一部はプライベートクラウドで対応できるし、クラウドとオンプレミスを組み合わせて双方のメリットを享受できるように構築する方式であるハイブリッドクラウドに移行するという選択肢もある。オンプレミスからクラウドへの大きな流れは変わらないだろう。
需要の拡大は続く
2020年のコロナ禍以降、在宅勤務やオンライン授業、eコマース、さらには遠隔診療など、コロナ禍をきっかけとして、インターネットを利用する様々なサービスが、社会で急増した。これらサービスの拡大を背景とするトラフィックの急増により、データセンターの需要はハイペースで増加した。
一方現在普及が進んでいる5G(第5世代移動通信システム)は高速大容量通信が可能なため、5Gの利用者の使うデータ通信量は、4Gの利用者のそれより多くなると見込まれる。
またIoT(Internet of Things: 家電製品・車・建物など様々な「モノ」をインターネットに接続する技術やシステムの総称)や生成AI(Generative Artificial Intelligence:与えられたデータやパターンから新たなデータを生み出す=生成することができるAI)などの新用途の進展によって、データセンターの需要は今後もハイペースで増加すると予想される。
さらに長期では、自動運転車の本格的な普及は極めて大量のデータを生成すると予想され、データセンターの存在も更に重要性を増すと考えられる。
新設のデータセンターの開発が進む
伸びる需要に対応して、供給面では新設のデータセンターの開発が進んでいる。主役は世界のクラウドサービスのトップ3社のAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure(Azure)、Google Cloud Platform(GCP)だ。
Canalysの調査では、この3社のクラウドサービスの2023年第2四半期の世界シェアは、3社合計で65%にもなる(Canalys August 10 2023:AWS 30%、Azure 26%、GCP 9%)。
日本のデータセンター市場でも、この3社の存在感は大きい。AWSは、2023年から2027年までの5年間に日本で2兆2,600億円投資すると発表した(会社公表2024年1月19日)。一方Azureは日本でデータセンターを拡充し、2年で29億USドル(約4,400億円)を投じると報道された(日本経済新聞 2024年4月10日)。
またGoogleは2021年から2024年までの間にデータセンターを含めて7億3,000万USドル(約1,100億円)のインフラ投資を行う(会社公表2022年10月6日)。これら3社に猛追しているのがOracleだ。Oracleは2024年から10年間で計80億USドル(約1.2兆円)超を投じ、日本でデータセンターを増設する(日本経済新聞 2024年4月18日)。
この他クラウドサービス事業者ではSalesforce、データセンター専業のEquinix、などの外資が日本でデータセンターを開発している。
国内勢では、クラウドサービス事業者のIIJ、通信事業者のNTT、KDDI、オプテージ、ITサービスのNEC、日立製作所、SCSK、DC専業のアット東京、さくらインターネット、などが日本でデータセンターを開発している。
不動産マネーがデータセンター市場に流入
これらIT関連の事業者に加えて、不動産デベロッパー、特に物流施設を開発する不動産デベロッパーがデータセンター市場に参入する動きが、5~6年ほど前から日本で顕著になっており、不動産マネーが本格的に日本のデータセンター市場に流入している。
外資の不動産デベロッパーで早くから日本でデータセンター開発に着手したのはGoodmanで、2019年に千葉県印西市の千葉ニュータウン内の自社保有土地にGoogleのデータセンターを誘致した。このほか外資では、これまで物流施設を開発してきたGLPやESRなどがデータセンターの開発をスタートさせた。
ー方国内勢では、大和ハウス工業が千葉ニュータウン内に約27万㎡の土地を確保し、14棟のデータセンターの開発を進めている。三井不動産もデータセンター事業の強化の方針を長期経営方針に掲げている。
短期的には市場は過熱気味
IDC Japanが発表したデータセンター投資予測によると、国内の“事業者データセンター(顧客へのサービス提供のためのインフラとして建設されるデータセンター)”の新設および増設投資は、2023年は前年比16.4%増の3,222億円となる見込みだが、2024年は2023年の約1.55倍となり5,000億円を超える。また2024年から2027年は毎年5,000億円を超える投資規模が続く(IDC Japan プレスリリース:2023年8月22日)。
これは、クラウドサービス向けのハイパースケールデータセンターの建設が、東京・大阪の郊外で拡大しているためだ。東京の郊外では、以前よりデータセンター建設が盛んな千葉県に加えて東京の西部での建設が増えている。
大阪の郊外では、京都府でもハイパースケールデータセンターの建設が進められている。拡大する需要を見込んで不動産投資マネーがデータセンター市場に大量に流入しており、特にハイパースケールデータセンターの供給増は顕著だ。
新規参入する企業も増えている。長期的に需要は伸びるだろうが、短期的には供給過剰の懸念も残る。市場は過熱気味だ。
エッジコンピューティングも拡大中
世界のエッジコンピューティングの市場規模は2023年に110億2,000万USドルと推定され、2030年までに416億USドルに、年率平均20.9%で成長すると予測されている(Fortune Business Insights:2024年4月22日)。
エッジコンピューティングのエッジは、スマートフォンや工場の製造設備などのIoTデバイスやその周辺を指す。エッジコンピューティングとは、データ処理を行うサーバーを、エッジ=IoTデバイスそのものやその周辺に分散配置させるネットワーク構築技術のことを言う。データ処理をエッジサーバーで行った上で、必要なデータのみをクラウドに送ることで通信量を抑え、ネットワークの負荷を軽減させることができる。
またデータをクラウドに送らずにエッジサーバーで処理することにより、レイテンシー(latency:ネットワーク通信で生じる遅延時間)を低減し迅速かつリアルタイムの分析が可能になる。
エッジコンピューティングは、IoTの時代の重要技術として注目されている。従来のIoTシステムでは、クラウドへのデータ送信に数ミリ秒の遅延が発生することがある。遠隔医療や自動運転などの分野では、わずかな遅延でも重大な問題を引き起こす可能性が高い。エッジコンピューティングでは、レイテンシーを抑える設計がされておりIoTとの親和性が高い。
グリーンデータセンターに向けて
データセンターは、膨大な電力を消費する。そして最近は新設されるデータセンターの開発数の増加により消費電力が急増している。
これに対して、サステナビリティーの観点からデータセンター開発に対する環境規制を実施する国や地域もある(アイルランド、ドイツ、シンガポールなど)。
日本でもデータセンターによる消費電力は急増している。IDC Japanの予測によると、日本国内に設置されるデータセンター内のIT機器を稼働させるために提供される電力容量(ITロード)は、2023年末時点の2,021メガVA(ボルトアンペア)から2028年末には3,470.9メガVAへ、年平均11.4%のペースで増加する(IDC Japanプレスリリース:2024年2月15日)。
大きな電力を消費するハイパースケールデータセンターの開発が急拡大していることが、電力消費量の増加に拍車をかけている。また生成AIの利用に関心が高まりAIサーバーの導入が進んでいるが、AIサーバーは一般的なサーバーよりも消費電力が大きい。
そこでデータセンターにもハイレベルの省エネ対策が求められている。グリーンデータセンターとは、最適なエネルギー効率を実現し、環境への負荷を最小限に抑えたデータセンターを指す。
データセンターをグリーン化するには電源・照明・冷却設備などファシリティー面の省エネ、IT機器の省エネ、再生可能エネルギーの活用などが挙げられる。ファシリティー面で最も電力を使用するのが冷却設備だ。データセンターでは従来、サーバーに冷風を当てる空冷方式が主流だ。
現在の方式に代わる冷却方式に向けての技術開発が求められている。
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