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ゼネコンによる施工不良やデータ改ざん、背景に短工期や人手不足の問題
ゼネコンの品質管理や施工管理にゆるみが生じ、大きな損失をもたらしている。大成建設は最近、札幌のビル建築の施工不良をめぐって約240億円の損失を計上した。このような事例は、大成建設のみならず、どのゼネコンにも起こりうることだと考えられる。背景には、工期の短縮化と慢性化した人手不足という問題がある。このような状況下で、来年度から時間外労働の上限規制が始まる。
施工不良で240億円の損失を計上
大成建設は今年4月17 日、施工中の「(仮称)札幌北1西5計画」 で鉄骨建方等の精度不良が見つかり、建て直し工事の関連費用が約 240 億円に上る、と公表した。
240億円には、既に15階まで立ち上がった躯体(くたい)の解体・撤去費用、再施工にかかる費用および引き渡しの遅延に伴い発注者のNTT都市開発に支払う違約金28カ月分が含まれる。(日経XTEC 23年4月28日)
「(仮称)札幌北1西5計画」は、地下1階・地上26階建ての北棟と、地下2階・地上7階建ての南棟から成る延べ面積約6万m2の複合施設。北棟の3~16階はオフィス、17~26階にはホテル「ハイアット セントリック 札幌」が入居する予定。
当初は2024年2月の竣工予定であったが、建て直しに伴い28ヶ月の工期延伸が必要となり、竣工は26年6月末に延期された。
工期遅延を恐れ、データ改ざん
この施工不良が発覚した経緯は、会社公表やメディアの報道からまとめると次のようになる(会社公表23年3月16日、日経XTEC 23年3月22日、東洋経済 23年4月5日、日経産業新聞 23年5月18日)。
事の発端は、発注者であるNTT都市開発の担当者が23年1月5日に現場を巡回したことに始まる。この担当者は、鉄骨柱の接合部のボルト穴がずれているのを発見して違和感を覚え、大成建設の現場事務所に指摘した。指摘を受けて、同社札幌支店の品質管理部門が鉄骨の全数調査を実施することになった。
現場事務所は当初、工事監理者の久米設計に対し、鉄骨柱の傾きもスラブ厚も問題ないとする資料を提出していたが、この内容は改ざんされたものだった。
同社の品質管理部門が鉄骨の全数調査を実施すると、実測値と現場事務所が資料に記載した「計測値」との間に差異があることが明らかになった。
全数調査の結果は、鉄骨の使用部分計754カ所のうち77カ所で、契約で定めた柱の傾きの限界許容差を平均4mm、最大で21mm超過していた。スラブ厚の不足も、570カ所のうち245カ所が平均で6mm、最大で14mm、基準より薄かった。
鉄骨の建て方は通常、柱の傾きや階高などを測定器で確認しながら進める。誤差が生じた場合は、ワイヤロープなどを用いて修正を行い、誤差を解消する。だが、この現場では、改ざんされた計測値に基づき誤差がないと判断され、修正が行なわれていなかった。
計測値を改ざんしたのは、同社の工事課長代理だ。この社員はヒアリングに対して「作業のやり直しが生じ、工期が遅れることを恐れた。数ミリ程度のずれであれば、品質上問題ないと考えた」と話している。
品質管理は、実質的にこの社員に任せきりになっており、チェック機能が働いていなかった。
大成建設に限った問題ではない
大成建設は、このほかにも、世田谷区役所新庁舎建設工事の工期遅延(会社公表23年6月9日)、外環道京葉ジャンクション(JCT)での設計ミスによる鉄筋不足(日経XTEC 23年5月24日)などの問題が明らかになっており、いずれも相応の追加コストを負担するであろうことが推測される。
このように書くと、最近、建設市場で目立つ施工不良や工期遅延の実例が大成建設に集中しているように見える。そのため、これらの施工トラブルが起きた原因は、大成建設の社内の施行管理体制や品質管理体制の不備にあるのであり、大成建設固有の問題であるという見方もあろう。
確かに、札幌のビルの事例をみると、品質管理を含む大成建設の施行管理には、再点検と改善が必要と思われる。現場スタッフの再教育も必要だろう。
さらに、施工不良を最初に発見したのが発注者の担当者であることを考えると、本来なら設計図書通りに施行されているかをチェックするはずの工事監理者の機能を再考する必要もあろう。
とはいえ、札幌のビル建設で起った施工不良やデータの改ざんは、大成建設に限ったことではなく、どのゼネコンにも起こりうることだと考えられる。この問題の根本には、建設業を取り巻く事業環境の急速な変化があり、そのしわ寄せが建設現場に集中する可能性が高いからだ。
のしかかる工期短縮のプレッシャー
2000年代以降、建設投資の減少に伴う受注競争の激化の中で、ゼネコンは価格競争のみならず、短工期を差別化要因として他社と競合することが多くなったと考えられる。
特に民間建築工事では、発注者の事業計画上、短工期は大きなメリットがある。発注者の短工期の要請に応えようと、ゼネコンは努力する。もちろん、その努力には最新の施工技術の実用化など、技術的な裏付けがあるのは言うまでもない。
しかし短工期を実現した新技術も、次からは当たり前の技術として扱われ、更なる短工期を求められるのが現実である。
発注者からゼネコンへの短工期の要求は次々と高くなり、ゼネコンはそれに応えるべく施工技術を新たに開発するが、最後は現場の人間が長時間労働を強いられ、短工期を何とか実現してきたのが実情ではないかと考えられる。
最近の大手ゼネコンの受注を見ると、都心の大型の再開発プロジェクトがよく目に付く。これらのプロジェクトは賃貸オフィスや商業店舗、ホテル等の収益物件から成る複合開発であるケースが多く、ゼネコンに短工期が求められるのは想像に難くない。
そのプレッシャーが過度に現場に集中していないかを検証してみる必要があろう。データの改ざんを行なった大成建設の工事課長代理が、動機について「作業のやり直しが生じ、工期が遅れることを恐れた」とコメントしていることが、いかに工期短縮のプレッシャーを現場が受けているかを端的に現していると思われる。
加速する人手不足
一方で、建設労働者の減少には歯止めがかからない。中でも、鉄筋工などの技能労働者は、1997年のピークの464万人から2022年は305万人に34%減少した。
また建設業は他産業と比べて高齢化が進んでいる。全就業者数の中で55歳以上の就業者の占める割合は、全産業平均の31.5%に対して建設業は35.9%。
29歳以下の就業者の占める割合は、全産業平均の16.4%に対して建設業は11.7%(日建連 建設業デジタルハンドブック)。生産体制が現状のままであれば、人手不足はますます深刻化することになる。
時間外労働の上限規制、施工品質を毀損するリスクに注意
慢性的な人手不足が続く中、2024年4月からは改正労働基準法の施行で、時間外労働の上限規制の適用が始まる。労働時間圧縮のしわ寄せが、施工品質に及ぶリスクがある。
中期的には、BIM/CIMのフル活用を含むDXの推進、施工の機械化・自動化の更なる推進、技能労働者の多能工化などを進めてゆくこととなろう。
ただし今すぐにやらねばならないことは、発注者との間で、適正な工期の合意を得ることだろう。受注競争に勝つために“野心的”な工期設定をすれば、結局現場にしわ寄せがきて品質が毀損するリスクが高まる。
時間外労働の上限規制が、建設工事の量と質にどのような影響を及ぼすかを、注意深く見てゆく必要がありそうだ。
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