企業が迫られる脱炭素の難題 サプライチェーン排出量可視化の現実解とは?

2023年3月20日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が6次統合報告書を公表した。報告書では「パリ協定の目標達成のために、温暖化ガス(GHG)排出量を2035年に19年度比で60%減らす必要がある」との目標も示された。企業にとっては、事業活動を維持・拡大しながらのGHG排出量削減という難題に、より真剣に取り組む必要に迫られている。

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サプライチェーン全体の排出量「まず可視化」に落とし穴

サプライチェーン全体の排出量「まず可視化」に落とし穴

GHG排出量の削減には、(1)排出量の可視化(2)削減目標の設定(3)アクションプラン策定・実行の3つのステップを踏むことが必要だ。

徐々にこうした方法論についての認識も広がってきており、自社のGHG排出について、アクションプラン策定に踏み込める企業が増えてきているのは喜ばしいことだが、これは直接排出(Scope1)と間接排出(Scope2)に限った話だ。サプライチェーン排出(Scope3)に関しては、可視化のステップまでは進むものの、そこから先には進めない事態が散見される。

これはサプライチェーン排出量の可視化について、自社だけである程度完結するScope1、2と同じ方法論で取り組んでしまっているのが原因だ。

サプライチェーン排出量も、一見すると、自社の業容(活動量)に定められた排出原単位を掛け合わせることで、ほとんどの試算が可能なように見える。ここが落とし穴になる。

活動量はあくまでも結果であり、測定対象期間における事業活動が終わった時点で確定する。そのため、(当たり前だが)事業活動を拡大していくにつれ、排出量も増加することになる。

排出量が多いのはどの取引先との、どんな取引かがわからないので、原因分析も対応策も作れない。多くの企業担当者が「まず可視化」という大号令のもと、形式的対応を優先するあまり、成長を希求すればGHGが削減できない、という論理矛盾の袋小路に陥っているのだ。

既にコロナ禍当時に測定したScope3が、足元の事業活動拡大にあわせて、増加傾向にある企業が出ているのは、その証左と言えよう。

より現実的なデータ取得方法で「減らせる構造」に

より現実的なデータ取得方法で「減らせる構造」に

フロンティア・マネジメントでは、サプライチェーン排出量可視化の現実解として「ハイブリッド方式」を提唱している。

これは取引先からの1次データと、一般的な排出原単位など固有の活動以外からの2次データを組み合わせることで、「減らせる構造」を実現するという手法だ。

1 スクリーニングによる簡易全体把握
まずはサプライチェーン排出量測定対象である15あるカテゴリのそれぞれが、どの程度GHGを排出しているのか概算をする。

業界の特性などを考慮する必要はあるが、ここまでは活動量と排出原単位を掛け合わせる方法と大きく変わらない。

ただ、この段階で捕捉した排出量は開示せず、「自社として注力すべきカテゴリの特定」段階に過ぎないと位置づけることがポイントだ。

2 自社にとってのホットスポットに絞ったハイブリッド方式
注力カテゴリを特定できたら、1次データの取得に取り組んでいく。

取引先の協力が不可欠だが、全取引先にデータ照会をする必要は全くない。取引の構成比率が高い重要な取引先に絞って、1次データの提供を依頼すればいい。まずは事業への影響度を鑑み、8割程度を目標にする企業が多いようだ。

1次データの取得方法は、(1) 組織単位での取得と、(2) 製品単位での取得という2種類が存在するが、取引先に全社のGHG排出量を聞き取り、調達量や調達金額で按分する組織単位での取得が一般的だ。

温対法による報告対象企業に限らず、半導体や自動車関係など、グローバル競争に晒されている企業のサプライチェーンを担うサプライヤーでは特に、自社のGHG排出量を把握している企業が増えている。

またGHG排出量に占めるScope1(自社の直接排出)の構成比が大きい運輸業界では、取引先向けに個社別データを提供するなど、積極的に開示する企業も出始めており、これを活用しない手はない。

取引先に対し、自社の製品別のGHG排出量の開示を要請することも理論上可能だが、負担が大きすぎる。

今後データ活用技術の進歩と、欧州で先行するLCA(ライフサイクルアセスメント)関連政策により、将来的には製品別の測定が必要になるだろうが、実務的には組織単位での取得が取り組みやすい。

1次データと2次データの組み合わせにより、取引先の削減努力を自社でも取り込むことができ、「減らない構造」から「減らせる構造」に転換できる。

もはや許されない「形式だけ」の排出量算定

足元では、サステナビリティ基準を国際的に統一する動きが進んでおり、国際財務報告基準を開発したIFRS財団が、2021年11月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を発足し、2022年3月に公開草案が開示されている。

国際的な規範となることが期待されている本基準によると、「GHG排出量の算定において、取引先からの情報提供を省略する場合は、その旨と理由の開示が必要」になる。形式だけのGHG算定は、今後開示基準としても許されなくなる。

削減目標の設定やアクションにつながらない「減らない構造」を温存せず、次のステップに踏み出す企業を1社でも多く増やすことを通じて、脱炭素という巨大な課題に貢献していく所存だ。

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