空き家問題は悪化の一途をたどるのか? ~現状評価と今後の課題~

戸建て住宅を中心に、地方都市において空き家が増えている。総務省の調査によると、総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.6%だ。ただ実際は、数値が示すほど深刻な問題ではない。一方で2014年に「空き家等対策の推進に関する特別措置法(空き家法」)が成立するなど種々の対策が講じられており、空き家問題への対応は着実に進んでいる。今後は大都市で分譲されたマンションの老朽化と、住民の高齢化によるさらなる空室増加の抑制が課題となろう。

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図表1:空き家と空き家率の推移

空き家問題は過度に悲観視されている

空き家問題は過度に悲観視されている

人が住んでいない空き家の増加が社会問題になっている。その背景には、政府が発表する空き家の高い数値にメディアが敏感に反応し、その数値が一人歩きして不安を醸成している傾向が見てとれる。

具体的には、5年ごとに総務省が行う「住宅・土地統計調査」の影響が大きい。直近の調査年である2018年の調査結果によると、全国に空き家は849万戸も存在し、5年前(2013年調査)の820万戸から29万戸増加した。ただし、2013年調査の5年前(2008年調査)からの増加数63万戸と比べると増加ペースは減速している。

しかしながら、849万戸という絶対値がハイライトされている。一方で総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.6%であり、5年前の13.5%からほぼ横這いではあるものの、高い水準が続いている。

今後2030年代には空き家率が20%を超えて30%に近づく可能性がある、という調査機関の予測がしばしばメディアに引用されたことで、この問題が悪化の一途をたどっている印象をもつ人が増えていると思われる。

実際の空き家率は……?

実際の空き家率は……?

実は、総務省の住宅・土地統計調査(2018年)で示される空き家率は、地方自治体が独自に調査して公表する空き家率と比べてかなり高い。

例えば東京都杉並区が2018年に調査した「空き家実態調査報告書」によると、杉並区の空き家率は0.69%であり、住宅・土地統計調査での杉並区の空き家率の8.6%とは大きな開きがある。

杉並区の調査では「共同住宅及び長屋は1戸でも居住が認められる場合は、空き家候補としない」など、住宅・土地統計調査とは空き家の定義がやや違う。そのため、単純な比較はできないが、それでも両者の数値の差は大きい。

また、東京都板橋区が2019年に調査した「空き家利活用実態調査報告書」によると、板橋区の集合住宅などを除いた空き家率は1.9%であった。これも算出方法の違いにより単純比較はできないが、住宅・土地統計調査での板橋区の10.9%の空き家率の数値とは大きな開きがある。

さらには、首都圏を中心に賃貸住宅を運用するJ-REITであるアドバンス・レジデンスと日本アコモデーション・ファンドの2022年12月末の賃貸住宅の空室率はそれぞれ3.7%および3.4%であり、住宅・土地統計調査の借家の空き家率18.5%よりも大幅に低い。

これらの事例は、住宅・土地統計調査の空き家率が、実態よりもかなり高く出ている可能性を示唆している(※1)。つまり、空き家問題は地域差はあるものの、全体としてはまだメディアが報じるほど深刻な問題にはなっていない可能性が高いと思われる。

(※1)この点の検証は、宗健(2017)「住宅・土地統計調査空き家率の検証」に詳しい

図表2:空き家の利用現況別タイプ

空き家増加を放置してよい訳ではない

総務省の住宅・土地統計調査は、空き家の数値が過大に出ている可能性が高いにしても、同じ調査方法で長年続けている調査であり、この調査が示す空き家の増加トレンドは、対応すべき社会問題として認識すべきだろう。

実際のところ、人口減少地域である山梨県の空き家率は全国平均の13.6%を大きく上回る21.2%で、空き家対策が喫緊の課題であることは確かである。

住宅・土地統計調査の空き家は、「賃貸用住宅」、「売却用住宅」、「二次的住宅」、「その他の住宅」の4種類に分類される。賃貸用住宅や売却用住宅は、まだ借り手や買い手が見つからずに空室もしくは空き家になっている住宅だが、これらは時間がたてば借り手が入居もしくは買い手が利用、管理するため問題は少ない。

二次的住宅は別荘のように普段は人が住んでいない住宅だが、これも所有者が利用、管理する。問題はその他の住宅の空き家で、これが空き家全体の41.1%を占める。その他の住宅の空き家には、住む人がいなくなった後に管理がされていない空き家が含まれていると考えられる。このような空き家を放置すると、景観の悪化や建物の倒壊、火災発生、犯罪の誘発、ゴミの不法投棄などのリスクが高まってしまう。

対策はすでに打たれている

空き家対策は当初、自治体が条例の制定などにより問題がある空き家の解体を進める一方、利用可能な空き家の利用促進を進めてきた。

しかし、固定資産税の課税情報の内部利用などは条例だけでは対応できない。そこで国として空き家対策により積極的に対応する目的で、「空き家等対策の推進に関する特別措置法(空き家法」)が2014年に成立し、2015年から施行された。

これにより、管理不全な空き家の自治体による敷地内への立ち入り調査が出来るなど、空き家対策は執行面で前進した。さらに、適切に管理されていない空き家を「特定空き家等」に指定して、助言・指導・勧告・命令・行政代執行を行うことができるようにもなった。空き家法の成立以降も、国や自治体レベルで種々の対策が打たれている。

図表3:空き家の取得方法

空き家に加えて所有者不明土地問題も浮上

国土交通省の「令和元年空き家所有者実態調査」によると、空き家は相続によって取得するケースが54.6%で最も多い。相続人は空き家を相続すると、将来にわたる管理コストや税負担の重さを意識して、物件の売却を志向するケースが多い。

しかし、その物件の立地条件が悪ければ買い手がつく可能性は低い。自治体に寄付したいと考えても、自治体は行政目的で使用する予定のない土地の寄付を受けることはできないため、相続人がその空き家を抱え続けることになる。売れない空き家を相続しても登記をするインセンティブが働かないため、相続未登記が繰り返されるとその土地は所有者不明物件となる。

そこで現在は、空き家問題に加えて「所有者不明土地問題」がもう一つの社会問題となっている(※2)。国土計画協会の2017年12月の発表では、現存する所有者不明土地は九州よりも広い約410万haにもおよぶ。
(※2)相続登記義務化のインパクトとは?

空き家の管理・解体コストを誰が負担するか

今後多くの人が亡くなり相続未登記が増えれば、所有者不明土地も増加していく。

そこで2021年4月に、「民法等の一部を改正する法律」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立した。この改正で相続登記の義務化が2024年4月からスタートするのに先立ち、使い道のない土地を国が引き取る「相続土地国庫帰属制度」が今年2023年4月からスタートする。

空き家になった実家などを相続した場合、法務大臣が承認すれば土地の所有権を国に帰属させることができる。ただし建物は自費での解体が求められるのに加えて、審査手数料と10年分の土地管理費相当額の負担金も支払わなければならず負担は大きい。

負担の大きさゆえに、空き家の建物の管理・解体コストを誰がどの時点でどのように負担するかは今後の課題だ。現段階では、建物滅失権取引制度の創設案(※3)や建物の解体費用の固定資産税による事前徴収案(※4)などの提言がある。

なお十分に使える建物がある一方で相続する子供がおらず、また買い手不在で売却も出来ず、それでも現在の住まいを処分したいというケースも少なからずある。その場合、相続土地国庫帰属制度は使えず自治体に土地や建物を寄付もできない。

その際は自治体と地域のNPO法人(特定非営利法人)が共同で一般社団法人を設立すれば受け皿になるとの提言がある(※5)。さらに、所有権を放棄できる一般ルールを明確にしておくのが望ましいとの議論もある(※6)。

(※3) 宗健(2014)「空き家率の推定と滅失権取引制度」
(※4)(※6)米山秀隆(2022)「空き家対策のこれまでとこれから―人口減少時代の住宅・土地制度とは―」
(※5) 宗健(2021)「空き家解消を後押しするか 知られざる3つの解決法」

大都市マンションの空室増加が今後のリスク

現段階では、空き家問題は人口減少が続く地方都市で顕著である。

しかし、今後首都圏を含む大都市圏で、分譲マンションの空室が新たな空き家問題として浮上してくる可能性がある。マンションの大量供給が始まったのは1970年代であり、この時期に供給されたマンションは既に築40年を超えており、建物の老朽化が進んでいる。
また住民の高齢化も進んでおり、今後高齢の住民が多数を占める分譲マンションの増加が予想される。そうなれば頻繁に相続が発生する一方、相続未登記や長期間空室で放置される住戸が増加する。

さらに修繕・管理費の未納が多発する結果、修繕・管理が滞って建物の老朽化が加速し、多くの住民が転居して空室が増え、マンション内の治安は悪化し、そして……という悪循環に陥る可能性が増す。

所有者の意思決定が比較的容易な戸建住宅や賃貸住宅と違い、所有者が複数にわたる分譲マンションで建替えの合意を得るのは容易ではない。2014 年に空き家法が成立しているが、現在の空き家対策は戸建住宅がメインとなっており、分譲マンションでの空室増加への対応は薄い。深刻な社会問題となる前の対応が必要と考えられる。

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