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木材不足と価格高騰 「ウッドショック」を機に林業再生を
住宅業界が慢性的な木材不足による“ウッドショック”に見舞われている。2020年後半から顕著となり、木材価格が高騰している。値上げや着工の遅れが相次げば、調達力の弱い中小工務店に大きな影響が及ぶ可能性がある。
木材不足「ウッドショック」とは
世界的に住宅需要が増加していることで、木材の品不足と、それにともなう価格高騰を指す。最も大きな要因は、コロナ禍で家にいる時間が増え、米国を中心に住宅の新築や改築が増えていることだ。また、中国でのインフラ整備や製造業が活発なのも、需要増加を支えている。
木材不足 住宅メーカーへの影響は?
▲出所 農林水産省 木材流通統計調査 木材価格(令和3年5月)
建設現場では木材の供給の遅れによる着工や施工の遅れの懸念が顕在化している。住宅用の木材は輸入品が多くを占めるが、輸入価格は高騰した後、高止まりが続いている。
農林水産省の統計によれば、住宅の構造材に使われる「米まつ平角」の卸売価格は2021年5月に1㎥あたり83,100円となり、前年5月の同64,600円と比べて30%近い高値となっている。
これに対応して、大手住宅メーカーは、木造住宅の価格の値上げに踏み切っている。今のところ値上げ幅は建築コスト全体の1%程度にとどまっているが、今後も値上げや着工の遅れが続けば、特に大手住宅メーカーと比べて調達力が劣る地場の中小工務店の経営への影響は深刻だ。
国内の戸建住宅の大半の施工はこれら中小工務店が請け負っているため、住宅市場全体が冷え込むリスクがある。
世界的な木材不足の背景は?
日本での木材の需給逼迫と価格高騰の背景には、いくつかの要因がある。
最も大きな要因は、 米国を中心とする世界的な住宅需要の盛り上がりである。
米国では、コロナ禍で増加する在宅時間を背景に住環境の良い郊外に移住したり既存の住宅をDIYでリフォームする動きが顕在化し、これにより住宅需要、ひいては木材需要が増加した。
過去最低水準の住宅ローン金利と過去最高の株価水準がこの動きを加速させていることはいうまでもない。
中国でも木材需要が増加している。コロナ禍から早めに抜け出た中国では、インフラ整備や製造業の生産が活発で木材需要を支えているほか、中国から主として米国向けに輸出する際に部品や製品を運ぶのに使う梱包材やDIYの製材品用の木材需要が増加している。
これら米国と中国を中心とする需要の増加に加えて、コロナ禍での世界的な“巣ごもり需要”の増加でコンテナ物流が大きく増加し、コンテナ不足や港湾の労働者不足が顕在化するという供給の制約要因が重なる。
円安と日本の存在感低下
更に日本固有の要因として、年初からの円安傾向により、輸入木材の価格高騰に拍車がかかるという要因が加わる。またここ2年での国際的な木材の流通市場での日本の存在感の低下により、世界的な需要の急増局面で日本に品物が回りにくいという側面もあるようだ。
国産材の供給増加は期待薄
一方、輸入材の供給が制約され価格が高騰していることに対して、国産材の供給が増加して輸入材の供給不足を補い、価格の安定化を担う状態にはなっていない。
その背景には、 米国での住宅需要の急増は「将来の需要の先取り」との側面もあるため、国産材の市場関係者の間には、木材全般の現在の高水準の需要と価格の継続性について懐疑的な見方が少なくないという事情がある。
むしろ、いずれ価格は元の水準に近いところに落ち着くとみているようだ。
そこで、「木材価格が落ち着けば、国内での木材需要は再び輸入材に戻るだろう」との考えのもと、国産材の増産への投資に積極的になれない状況にある。
また国内の6割強の木材需要を輸入材に依存する構造の下、国内の林業の従事者は減少トレンドにあり、需要の変化に応じて供給をフレキシブルに増やせる体制にはないという構造問題もある。
日本の林業は再生の余地あり
日本は資源に乏しい国とみられることが多いが、森林という資源がある。林野庁によると2017年3月末の日本の森林面積は2,505万ヘクタール=25万500㎢で、国土面積約37万8,000㎢の3分の2に当たる。
一方、戦後木材需要を輸入材に頼ったため、木材の自給率は一貫して低下が続き、2002年に18.8%で底打ちした。最新のデータは2019年で自給率は37.8%に上昇している。
国産材の供給を増やすといっても、木を植え育て、伐採し輸送し製材・加工するには人手や設備が必要だ。木材が育つには長い年月が必要で、すぐに供給が増やせるわけではない。
人手不足の現状では、なおさらである。重要なことは、長期的に収益を生み出す産業として戦略的に育成することだ。
住宅業界にとっては、今回のウッドショックで輸入材に頼りすぎるリスクが明確になった。今後人口が減少する社会の中で、新築の住宅需要は長期で減少傾向をたどることは避けられないが、リフォームやDIYの需要も考えれば、木材の国内での安定供給は重要な課題だ。
また、国産材の輸出は更なる拡大の余地がある。
更に、森林には二酸化炭素を吸収するという重要な働きがあり、間伐材や木くず等の端材はバイオマス発電の原料となる。SDGsの流れの中で、森林資源を育成し活用する意義は環境面からも大きい。
管理業務の効率化でコスト削減を
日本の林業には、まだまだ生産性を向上させる余地がある。
ドローンや最新のICTを使って管理業務を効率化する一方、輸送手段の最適化を行なって搬出コストを削減し、加工コストも効率化する。
原木価格に価格メカニズムが働くようにして、山林の所有者に植林や伐採をするインセンティブを与える等の施策をとれば、産業として成長する可能性があると考えられる。
ウッドショックを契機に、日本の林業が戦略的な再生プロセスに入ることを期待したい。
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