パワー半導体とは?電源(電力)をコントロールする

パワー半導体とは、電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ「半導体」の一種で、電源(電力)の管理や制御を行うデバイスです。

半導体といえば、CPUやメモリに使われるLSI(大規模集積回路)がよく知られています。

LSIは1,000個以上の素子を集積し、計算や演算を高速で行う機能を持ちます。

パワー半導体にはLSIと同じ半導体材料が使われていますが、交流の電力を直流に変換したり、電圧を調節したりして、主に電源(電力)をコントロールする役目を持ちます。

パワー半導体は高い電圧や大きな電流も制御可能です。

そのため、身の回りの電化製品だけでなく、大電流・大電圧を扱う発電・送電設備や、産業用ロボットのようなFA(ファクトリー・オートメーション)機器、建築業界での導入が進む次世代型のICT建機などに使われています。

パワー半導体が持つ4つの役割

電源(電力)をコントロールするパワー半導体は、4つの役割を持っています。

1. コンバータ(converter)

コンバータ(整流)とは、交流(AC)の電気を直流(DC)に変換する機能です。身の回りの家電製品の多くは、直流電圧で作動しています。

しかし、発電所からやってくる電気は交流電圧であるため、パワー半導体で変換を行っています。

2. インバータ(inverter)

インバータとは、コンバータとは逆に直流電圧を交流電圧に変換する機能です。

広義では、電圧や周波数を変化させる「インバータ装置」という意味でも使われます。

インバータ装置とは、インバータ回路だけでなく、コンバータ回路も組み合わせたデバイスです。

コンバータ回路が一旦直流に変換した電流を、インバータ回路で再度交流に変換し直し、電流の電圧や周波数を自在に調節します。

3. 周波数変換

周波数変換とは、交流の周波数を変換する機能です。デバイスによっては、特定の周波数でしか動かないものもあります。

たとえば、交流の周波数が50Hzの地域で、60Hzの周波数でしか動かない機器を動かす際、周波数変換を行います。

4. レギュレータ

レギュレータとは、直流の電圧を自在に変換したり、一定に保ったりする機能です。

主にコンバータ回路の一部を構成しており、コンバータが交流を直流に変換する際、電圧を安定させるために使われます。

レギュレータの作動原理には、電流が流れるスイッチのオンオフで電圧を調整するスイッチングレギュレータや、負荷をかけて電圧降下を誘発するリニアレギュレータの2種類があります。

パワー半導体の使用事例。家電の省エネ機能としても活躍

電源を自在にコントロールできるパワー半導体は、どのような機器や製品に使われているのでしょうか。

パワー半導体は、身の回りの家電・パソコン・電気自動車のほか、大電力・大電流の制御が必要な鉄道や新幹線、エネルギーインフラ、建設機械、商業ビルの電源管理などに使われています。

その中でも、冷蔵庫・洗濯機・エアコンのような家電製品における使用事例を取り上げてみましょう。

こうした家電には「インバータ装置」が搭載され、省エネに役立っています。

インバータ装置とは、すでに述べたようにコンバータ回路とインバータ回路を組み合わせ、電流の電圧や周波数を自在にコントロールするシステムです。

もし、エアコンや冷蔵庫にインバータが搭載されていなければ、モーターへの電源供給を細かく調節できません。

モーターが常にフル回転しているか、あるいは停止しているかの極端な二択となり、無駄な電力を消費してしまいます。

インバータ装置を搭載すれば、電源供給を調節してモーターの回転数を細かく制御し、必要な時に必要なだけ電力を使えます。

インバータ搭載のエアコンの場合、インバータ非搭載の製品と比べて、約58%もの省エネ効果が得られます。[注1]

パワー半導体の市場規模は2025年に243億ドルへ成長

家電製品のインバータ装置をはじめとして、パワー半導体はさまざまなデバイスに搭載され、市場規模を大きく拡大してきました。

矢野経済研究所の試算によれば、2019年のパワー半導体の世界市場規模は、186億1,600万ドルでした。

2025年には世界市場の支出額が243億5,100万ドルに達すると予測されています。[注2]

パワー半導体の市場が成長をつづける背景として、あらゆるモノをインターネットにつなぐIoT(Internet of Things)の世界的な広がりともなう、大規模データセンターの増加が挙げられます。

パワー半導体の将来

パワー半導体の分野では、大電力を「効率よく」「正確に」「低損失で」コントロールするため、日本国内でも精力的な研究開発が進められてきました。

しかし、シリコン(Si)をベースとした従来のパワー半導体には、電力消費量の高さや、電力損失の多さといった課題もあります。

そこで、SiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイト)や、GaN(窒化ガリウム、ガリウムナイトライド)、Ga2O3(酸化ガリウム)といった新素子の研究開発が本格的にスタートしています。

SiC(炭化ケイ素)、GaN(窒化ガリウム)の両材料は、すでに「次世代パワー半導体」として、市場への投入が本格的にはじまっています。

炭化ケイ素の特徴は、電力損失がシリコンより70~90%少なく、耐熱性が高い点です。また、電圧を調整する際のスイッチング速度も優秀で、車載システムへの用途を中心に需要が増大するとされています。

アルミ精錬の副産物として生じる窒化ガリウムも、炭化ケイ素に次いで需要が拡大している材料です。SiCと同様にスイッチング性能に優れており、とくに高周波の電源管理に優れています。

また、SiC・GaNにつづく「次次世代」の素材も、すでに開発がはじまっています。その1つであるGa203(酸化ガリウム)は、両材料よりも電力損失が少なく、市場投入に向けて研究開発が進んでいます。

日本がパワー半導体強国としての地位を確立できるか否かの分水嶺

パワー半導体の分野は、日本が国際競争力を保ち、「パワー半導体強国」としての地位を確立できる可能性を秘めています。

2018年には、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と東京農工大学の研究チームが、Ga203(酸化ガリウム)の低コスト生産への先鞭をつけました。[注3]

酸化ガリウムの製造販売は、すでに株式会社ノベルクリスタルテクノロジーが取り組んでおり、NICTや東京農工大、タムラ製作所と協力し、半導体市場をリードしつつあります。[注4]

また、京都大学の大学発ベンチャーである株式会社FLOSFIA(フロスフィア)は、高品質なGa2O3半導体層を形成する独自技術を応用し、世界最小のオン抵抗(電力損失)を持つパワーデバイスの開発に成功しました。[注5]

パワートランジスタという世界的な成長市場において、日本企業や大学発ベンチャーが大きな成果を上げつつあります。

パワー半導体は今後も目の離せない分野です。

【参考サイト】
[注1] DAIKIN インバータとは?
[注2] 矢野経済研究所 パワー半導体の世界市場に関する調査を実施(2020年)
[注3] NICT 世界初、イオン注入ドーピングを用いた縦型酸化ガリウム(Ga2O3)トランジスタ開発に成功
[注4] 株式会社ノベルクリスタルテクノロジー ϕ2インチ酸化ガリウムエピタキシャルウエハの量産を開始
[注5] 株式会社FLOSFIA パワーデバイス事業

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