MBO指針が全面的に見直し。概要や変更点を解説

資本主義の世界では、会社の最終的な存在理由は利益の最大化であり、利益は最終的に株主に帰属します。会社を経営する目的は、株主の利益を最大化することです(いわゆるプリンシパル・エージェント理論)。だからこそ、重要な経営判断の際には、株主の利益に気をつけなければなりません。 さて、MBO(マネジメント・バイアウト)の場合、株主の利益を守る為、どのように行われればいいのでしょうか。経済産業省はその方向性を示すため、2019年にMBO指針を全面的に改訂しました。本記事では公正担保措置を中心に、新しい指針の内容や、従来との変更点を解説します。

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MBO指針が見直された

「MBO指針」は、2007年に経済産業省によって策定された「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(旧指針)の通称です。経営陣がMBOを実施する際、株主の利益を守るために公正なルールのあり方を示していました。

旧指針が策定されて10年が経ち、「利益相反の可能性があるM&Aについても論点整理を行うべきだ」との指摘がありました。そこで経済産業省は2019年、MBO指針を全面改訂した「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」(新指針)を発表しました。

新指針では対象をMBOだけに限らず、「支配株主による従属会社の買収」も含んでいます。支配株主による従属会社の買収とは、例えば親会社が一般株主から子会社の株式をすべて取得し、完全子会社化するなどが挙げられます。

MBOの場合、企業の「取締役」が、自らの会社の「買い手」になります。「買い手」としてはなるべく安く株式を取得したい。一方で、「取締役」としては株を高く売りたいという一般株主の利益を守るべきです。MBOには、このような利益相反が起こりえるのです。

支配株主による従属会社の買収の場合、子会社の取締役は親会社から派遣されているケースが多いことが問題になります。親会社から派遣されている取締役は、親会社の利益を優先するため、株を安く取引できるよう動きます。しかし、子会社の一般株主としては、少しでも高く株を売りたいのです。「子会社の取締役」として果たすべき役割と、「親会社から派遣されている役員」の役割が矛盾し、利益相反となります。

このような利益相反は、株主にとって価値のあるM&Aとは言えません。また、MBOの場合は社内事情に精通している買収者と、一般投資家の間には情報の非対称性があるため、考慮すべき必要があります。

そこで、価値のあるM&Aを実現するために、新指針では2つの原則を挙げています。

第1原則.企業価値の向上

望ましいM&Aかどうかは、企業価値(株価)を向上させるか否かを基準に判断するべきだとする原則です。

第2原則.公正な手続を通じた一般株主利益の確保

M&Aは、公正な手続を通じて行われることで、一般株主が享受すべき利益を確保されるべきだという原則です。

上記2つの原則の中でも、第2原則では従来のMBO指針の「公正な手続きを通じた株主利益への配慮」から変更されており、「一般株主の利益の確保」をさらに重視しています。

公正性担保措置の要点を解説

指針は必ず遵守しなければならないものではありません。しかし、M&Aを実施した際における公正性の担保になり、一般株主や投資家などに対して説明責任を果たす役割があります。そのために実施すべき具体的な対応が公正担保措置です。公正担保措置の詳細について解説します。

独立した特別委員会の設置

特別委委員会とは、企業価値の向上や一般株主利益の確保を行うことを目的として、本来取締役会に期待される役割を補完・代替するための合議体です。取締役会に期待される役割とは、M&Aをの是非や取引条件の妥当性、手続きの公正性について検討および判断などが挙げられます。

従来のMBO指針でも取り上げられた対象会社による委員会の設置ですが、新指針では、より詳細な情報が記載されています。また、特別委委員会は中立的な第三者的に取引の妥当性について尋ねられ、意見を述べるという立場から、対象会社における一般株主のために、取引を検討し、実質的に交渉に関与する立場へと大きく踏み込んだ形となっています。

外部専門家の独立した専門的助言等の取得

新指針では、独立した外部のアドバイザー等から専門的な助言等を取得することを推奨しています。また、専門性を有する第三者評価機関から株式価値算定書やフェアネス・オピニオンを取得すべきとも述べています。フェアネス・オピニオンとは、独立して公平な立場にある第三者がM&A等の取引条件を様々な視点からリサーチし、財務的見地から意見を表明することです。

マーケットチェック

マーケットチェックとは、M&Aにおいて、他の潜在的な買収者による対抗的な買収提案が行われる機会を確保することです。対抗的な買収提案がある場合、一般株主により有利な提示が促される可能性があります。

なぜなら、マーケットチェックによって対象会社の価値や取引条件の妥当性などの参考情報が得られ、想定される対抗的な買収提案のほうが条件が良ければ、それ以上の取引条件を提示が促されるためです。その結果、交渉力が強化されます。

マジョリティ・オブ・マイノリティ条件の設定

マジョリティ・オブ・マイノリティ条件とは、「株主総会における賛否の議決権行使や公開買付けに応募するか否かにより、当該M&Aの是非に関する株主の意思表示が行われる場合に、一般株主、すなわち買収者と重要な利害関係を共通にしない株主が保有する株式の過半数の支持を得ることを当該M&Aの成立の前提条件とし、当該前提条件をあらかじめ公表すること」です。つまり、一般株主はそのM&Aが妥当かどうか判断できる機会が確保されます。

一般株主への情報提供の充実とプロセスの透明性の向上

先述したように、買収者と一般株主の間には情報の非対称性があります。そのため、一定の情報について、法令等による開示制度を遵守するにとどまらず、特に充実した開示を行うことで、情報の非対称の解消が期待されています。

強圧性の排除

「強圧性」とは、具体的には①公開買付け後のスクイーズ・アウトに際して、反対する株主に対する株式買取請求権または価格決定請求権が確保できないスキームは採用しないこと、②公開買付けにより大多数の株式を取得した場合には、特段の事情がない限り、可及的速やかにスクイーズ・アウトを行うことなどが挙げられます。

なおスクイーズ・アウトとは、少数の株主や特定の株主から、大株主が強制的に株式を取得する手法です。

一般株主も笑顔になるM&Aを

公正担保措置の中には、案件の経緯や状況次第では、適用するとむしろ弊害を生む可能性があります。したがって、個別の案件の状況を正確に把握し、外部専門家の助言を踏まえつつ必要性を十分議論しましょう。

MBOであれ、支配株主による従属会社の買収であれ、「株主に利益を優先する」という視点を忘れてはいけません。新たに買収案件が行われる際には、新指針の内容を踏まえましょう。

参考
「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」を策定しました (METI)
「公正なM&Aの在り方に関する指針」の概要とポイント、MBO指針改訂の意義とは

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