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マネジリアル・グリッド理論とは?リーダーシップの分類法を解説
「マネジリアル・グリッド理論」は、リーダーの考え方や行動の傾向を分類するための理論です。 リーダーは「人間への関心」と「業績への関心」の2つを備えている姿が望ましいと定義し、この2項目を数値化してリーダーのタイプを表します。 本記事では、マネジリアル・グリッド理論の仕組みを説明する他、これによって分類されるリーダーの特徴をタイプ別に紹介します。
マネジリアル・グリッド理論とは
マネジリアル・グリッド理論は、1964年にテキサス大学のブレイク氏、ムートン氏によって提唱されたリーダーのタイプを分類する理論です。
リーダーシップに関する研究は100年以上前から盛んに行われ、古くは「リーダーとしての資質は先天的なものである」と考えられていました。
次いで1940年代から、優れたリーダーが取る行動に着眼する「行動理論」に研究が移行し、その中で「マネジリアル・グリッド理論」が生まれます。現代でもリーダーの考え方や傾向を分類するため広く用いられています。
なお、マネジリアルは経営者、グリッドはマス目を意味します。
リーダーシップを評価する理論
マネジリアル・グリッド理論では、リーダーの2つの関心に注目しています。
- 人間への関心
- 業績への関心
リーダーシップの評価基準を「人間」と「業績」の2点に絞り、リーダー自身の自己評価と、部下による評価をかけ合わせて診断します。
ブレイク、ムートン両氏は、マネジリアル・グリッドを活用すれば理想的リーダー像と比較して自身の課題が明確になるため、「どのような意識改革が必要かを認識し、今後実践していくべきだ」と主張しました。
人間と業績への関心を可視化できる
マネジリアル・グリッドの作成には縦軸に「人間への関心」を、横軸に「業績への関心」を並べ、それぞれ1点が最低、9点が最高の9段階で評価します。
「人間への関心」とは、下記4つの関心の高さを表したものです。
- 部下の熱意や信頼に応える
- 良い労働条件を確立し守る
- 公正かつ適正な給与
- 同僚との友情、良好な人間関係
また「業績への関心」は、売上や利益の指標はもちろん、作業効率や仕事の質などの他、組織が抱える課題解決などの定性的な活動も該当します。
この結果、9×9の81マスのグリッドの中にリーダーとしての評価が示される仕組みです。
マネジリアル・グリッドで大別される5タイプ
マネジリアル・グリッド理論によって、リーダーの姿は5つのタイプに分けられます。
下図にあるように縦軸、横軸の座標4隅と中央の合計5つです。
これら5タイプに、後年発表された派生型をあわせて解説します。原文のニュアンスが変わらないよう英語表記もあわせて紹介します。
1.1型 ー 無関心型(Impoverished Management)
業績にも人にも関心が著しく低いタイプは、無関心型に分類されます。
無責任、放任型とも言われ、業務にも人間関係に対しても淡白で、希薄な関わりしか持とうとしません。
本人は自分の仕事と地位を守るための最小限の努力で済ませようとします。下についたメンバーからは不満が噴出して、無秩序な状態となるでしょう。
1.9型 ー カントリークラブ型(Country Club Management)
カントリークラブ型は、メンバーには関心が高く、業績に関心が低いタイプです。
カントリークラブとは、米国のスポーツや娯楽を楽しむ施設に由来し、すなわちチームメンバーが楽しく、やりがいをもって働く状況が優先されるたとえです。
部下の感情を大切にし、要求にも最大限応える結果、労働生産性を向上させようとし、「浪花節型」「溺愛管理者型」などとも形容されます。
ストレスが少なくリラックスした環境になる一方、業績への関心が低いため成果が出づらいと指摘されています。
9.1型 ー 権威服従型(Produce-or-Perish Management)
業績への関心が高く、人間への関心が低いタイプは「権威服従型」です。
業務の達成には強いこだわりを見せるものの、部下の成長や幸福感と言ったものに関心がなく、独裁的、覇道的などとも言われます。
業績向上へのコミットが強く、人間的要素に惑わされないように作業条件を整えるなど生産性向上に長けるリーダーです。
感情に左右されず、粛々と目標達成に直進するため、短期的には業績向上が見込めます。
ただ「仕事はできるが、部下への思いやりがない」ため、長期的には部下の士気が低下する、離職者が続く可能性も高まるでしょう。
5.5型 ー 中庸型(Middle-of-the-Road Management)
中庸型は、部下への配慮をしながら、業績の達成を目指します。どちらにも程良い関心があるため、一見バランスが取れているようにも見えるかもしれません。
しかし、このスタイルは妥協型、サラリーマン型とも呼ばれ、中途半端な結果に終わる傾向が強いです。
現状維持を好み、メンバーに不快感を与えない程度の働きかけしかしません。妥協を重ねるうちに、パフォーマンスは期待ほど上がらず、メンバーの満足度も低下してしまうのです。
9.9型 ー チームマネジメント型(Team Management)
「チームマネジメント型」は、人間と業績の双方を大切にするリーダーが属するタイプです。
紹介した5つのタイプの中で、最も成果が上がると期待され、ブレイク、ノートンの両氏も、「チームマネジメント型に属するリーダーが理想的だ」と結論付けています。
まずリーダー自身が業績目標に強くコミットし、同時にチーム全体で目標に立ち向かうムードを醸成します。
そのために部下と向き合い、彼らのモチベーションも最大限に高めようと努めるのです。
メンバーも自分が任され、リスペクトされている状態にやりがいを感じるため、自身での研鑽、努力の継続が期待されます。
リーダーとして業績を達成すると、部下からの信頼はさらに厚くなります。
持続的成功が生み出される好循環に入り、幸福度と生産性の両面で高い結果が出る素晴らしいマネジメントと言えるでしょう。
その他の派生型
上記5タイプに加えて、後年ブレイク氏らは「温情主義型」「日和見主義型」2つの派生型を発表しました(注1)。
9+9型 ー 温情主義型
9.1型リーダーの厳格な点と、1.9型リーダーの優しさを「飴とムチ」のように使い分けるタイプで、「9+9型」と表現されます。
自身に服従するメンバーを厚遇し、従わない者やリーダーの意志に反する行動をしたメンバーは排除されます。
リーダーのマインドが「9.1」と「1.9」を行き来するため、メンバーは反抗を止め、表面的には尊敬しているように振る舞うでしょう。
日和見主義型
自身の利益のために、すべてのタイプを自在に使い分けるリーダーです。したがってグリッド内のどこにでも出現する可能性があり、固定表示できません。
日和見主義、すなわち状況を観察し自身に有利な選択を行うリーダーには、行動の一貫性がありません。温和な表情を見せたかと思えば、厳格、冷徹な顔も持ち出します。
表面的には臨機応変に賢く振る舞っているように見えますが、部下のメンバーからすれば常に振り回されてしまう存在です。
マネジリアル・グリッドの課題
リーダーの分類に有効なマネジリアル・グリッドですが課題もあります。
特に下記の2点は重要なポイントと言えるでしょう。
- 分析内容に客観性があるか
- 成果が上がるかはリーダーシップだけでは決まらない
マネジリアル・グリッドはリーダーシップの傾向を可視化するツールであり、診断テストの機能がない点は考慮する必要があります。
客観性のあるテスト、評価が困難
マネジリアル・グリッドは、評価者の主観が入るため、評価の客観性が担保されにくい点が課題と言われます。
確かに自己評価と、部下からの評価を合算して正確な結果に近づけようと試みています。
しかし部下からの評価も「リーダーの客観的な行動を反映していない可能性が高い」とする研究結果もあるのです。
また「そもそも業績と人間を、同時に最優先するのは本当に可能なのか心理学で証明されていない」との指摘もあります。
マネジリアル・グリッドの結果を妄信せず、あくまで1つの指標としましょう。
部下や外的環境などが考慮されていない
理想的とされる9.9型のリーダーが、必ずビジネスの成果をあげられるわけではありません。
なぜなら、マネジリアル・グリッドでは、リーダーの行動パターンによる一面的な評価しか行っておらず、実際には部下の資質や市場環境などの外的要因などが考慮されていないためです。
ただし、上記の指摘が「部下のニーズやレベルに合わせたマネジメントがリーダーには求められる」としてリーダーシップの研究を進化させていきます。
マネジリアル・グリッドと関連性の高い理論
リーダーの行動パターンを分かりやすく解析したマネジリアル・グリッド理論は、その後のリーダーシップの研究にも大きな影響を与えたと言われています。
マネジリアル・グリッド理論と特に関連性が高いとされる2つの理論を紹介します。
PM理論
PM理論は九州大学の社会心理学者である三隅二不二教授が1966年に提唱しました。
リーダーシップは、下記2つで構成される理論です。
- P=パフォーマンス(目標を達成する能力)
- M=メンテナンス(集団を維持する能力)
PM理論では、PとMの能力が大きい場合には大文字で、小さい場合には小文字で表すルールとし、「PM」「pM」「Pm」「pm」の4パターンのマトリックスを作成しました。
PM型リーダーが最も優れ、pm型はリーダー適性がないとしています。
マネジリアル・グリッド理論における「業績への関心」「人間への関心」のパラメーターとの類似性は明らかですが、よりシンプルな分類法と言えるでしょう(注2)。
SL理論
SL(シチュエーショナルリーダーシップ)理論は、1977年にハーシイとブランチャードにより提唱されました。
均等、均一なマネジメントを行うのではなく、部下の成熟度や状況に合わせてリーダーはアプローチを変化するべきとした考え方です。
部下の仕事への習熟度が低い順に「指示型」「コーチ型」「援助型」「委任型」の4つのマネジメントを提案しています。
- 指示型:具体的な指示や確認を細かく行う
- コーチ型:指示に対して生じる質問には答えながらも部下自身に考えさせる
- 援助型:基本的に部下の努力を主体としつつ、最終的な責任をシェアする
- 委任型:リーダーのもつ権限を委譲し、できる限り決定や責任を部下に委ねる
下に行くほど業務の難易度が上がるものの、結果的に部下の成長につながり、組織としての成果につながりやすいと考えられています。
現代では、1対1の対話が重視され、人に寄り添った管理の重要性は浸透していますが、当時は画期的な考え方だったと言えるでしょう。
マネジリアル・グリッドの9.9型リーダーになるためには
恐らくほとんどの人は「9.9型リーダーになりたい」と考えるのではないでしょうか。
しかし、何を改めればいいのかが分からなければ努力のしようがありません。ブレイク氏らは著書の中で、9.9型以外のタイプの人が、9.9型に近づくための提言を行っています(注1)。
自らを変革するための3要素
まず自分が9.9型のリーダーではない場合、その事実を自覚する必要があります。
自覚した上で、自身を成長、変革させるため、ブレイク氏は次の3要素が重要だと指摘しています。
- 内省的考察 ー 自分で自らの行動、言動を振り返る
- 他人からの忠告・助言 ー いかなるフィードバックであっても耳を傾ける
- チームによるクリティーク(評価、判断) ー 全員が集まる場で自由に自分の行動を評価してもらう
自身の行動について、良い点、課題点とともに他者評価を聞く行為が、自分自身を客観的に見つめ、成長を促す第一歩となるでしょう。
リーダーシップの具体的な改善方法
さらにブレイク氏らはタイプ別に、改善のための提言を行っています。
例えば、9.1型(権威服従型)の人は、「自身にある攻撃的な傾向を念頭に置いて、相手に話をさせる」「トラブルが起きた際に悪者を探すのではなく解決方法を探す」「1人で意志決定せず、誰かの意見を吸い上げる仕組みを作る」などです。
1.9型(カントリークラブ型)は付和雷同型の頼りないリーダーと思われる傾向にあります。
そこで、「他人に指摘すべきときは、ためらいを捨ててはっきり伝える」「逃げ出したくなる場面こそ自分が発言してイニシアチブを取る」「言い訳や迎合的態度を捨て、自分の意見を主張する」などを提言しています。
著書には9.9型以外の6タイプすべてに改善策が明示されています。他者からの評価を謙虚に受け止めて努力すれば、ブレイク氏は多くの人が9.9型になれるとしています。
リーダーシップの能力は向上できる
マネジリアル・グリッド理論では、人間への関心、業績への関心から成る2つの指標でリーダーシップを分類します。
今も多くの組織で、部下と業績の双方にコミットするリーダーは重宝されています。
部下や同僚に対し、マネジリアル・グリッドで分類してみるとより優れたリーダーの発掘につながるかもしれません。
またリーダーシップを強化する手法など知識の習得も重要です。Frontier Eyes Onlineでは、幅広くビジネスに役立つ情報を提供しています。
引用(参考)
注1:ロバート・R.ブレーク、アン・A.マッケーンス(訳:田中敏夫、小見山澄子)『全改訂・期待される管理者像 -新・グリッド理論-』(産業能率大学出版部、1992年)
注2:三隅二不二『新しいリーダーシップ 集団指導の行動科学』(ダイヤモンド社、1966年)
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