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事業承継・引継ぎ補助金制度から見える事業承継の潮流
中小企業庁所管の下、後継者不在による休廃業・解散企業数の抑制をすべく事業承継を促す支援策として、事業承継・引継ぎ補助金制度が施行されている。本稿では、事業承継・引継ぎ補助金制度の概要を解説すると共に、同制度から見える事業承継の潮流について考察する。
事業承継・引継ぎ補助金制度とは
2022(令和4)年4月22日より、2021(令和3)年度補正予算「事業承継・引継ぎ補助金」(以下、今回という。)の公募が開始された。
この制度は、事業承継やM&A(事業再編・事業統合など。経営資源を引き継いで行う創業を含む。)を契機とした経営革新等への挑戦や、M&Aによる経営資源の引継ぎ、廃業・再チャレンジを目指す中小企業者などが負担する費用の一部を補助することで事業承継の検討を支援する制度である。
制度の概要は大きく3つの類型に分けられ、経営革新事業は3つの型、専門家活用事業は2つの型に更に分けられる。
前回制度との違い
2020(令和2)年度第3次補正予算「事業承継・引継ぎ補助金」(以下、前回という。)と比べて、補助上限額においては、経営革新のM&A型は800万円から600万円へ、廃業支援は200万円から150万円へそれぞれ引下げられている。
一方で、経営革新の創業支援型、経営者交代型、専門家活用はぞれぞれの型において、400万円が600万円へ引上げられ、前回は類型の型ごとに補助上限が分けられていたが、今回の制度は類型ごとに一本化されている。
事業承継前、承継後のフェーズごとにみると…
各類型の内容における補助対象の費用に関する主な内容と、補助対象者イメージについて、事業承継の前後というフェーズに分けてまとめると以下のような区分けとなっている
事業承継前のフェーズについては、M&Aによる経営支資源の承継を目指した譲渡、あるいは譲受に関し、手続きをサポートする専門家への費用を補助する制度として専門家活用が設けられている。
また、事業承継後のフェーズについては、経営資源を承継、あるいは事業承継後に経営革新に取り組む際の費用を補助する経営革新や、事業承継をしたものの承継した事業の一部を取り止めるケースや、事業承継により全ての事業の譲渡が実現せず残った事業を廃業するようなケースなどに対して、廃業にかかる費用を補助する廃棄・再チャレンジが設けられている。
事業承継・引継ぎ補助金制度の受付、実施期間
申請受付期間、及び事業実施期間は以下のようになっている。
補助金の申請手続きについては、前回より経済産業省が運営する補助金の電子申請システム「jGrants(J グランツ)」を利用する形式に変わっている。
ただ、jGrants について電子申請により本補助金の交付申請を行うにあたっては、「gBizIDプライム」のアカウント取得が必要となっており、このgBizIDプライムのアカウント取得には、申請から発行まで1週間から2週間程度必要となっている。そのため、本制度を初めて目にされる方で、gBizIDプライムのアカウント取得から手続きが必要な方の実質的な申請期間はかなり短くなってしまい、期限内の申請が間に合わないようなケースも想定される。
そのような問題への解決策として、今回からは申請期間を4期間設定(具体的な時期については2022年4月28日時点では未定)する形式を採用しており、申請者のタイミングに応じた申請が可能となっているのはありがたい。
ただし、いずれの申請期間においても、gBizIDプライムのアカウント取得は必要にて、本制度を利用することを検討されている方は、まずはgBizIDプライムのアカウント取得手続きは行っておかれることをお勧めしたい。
本制度は毎年制度設計を見直ししながら、利用促進を進めており、今回については、前回に比べ一部補助額が低下した部分はあるが、全体的には充実化、申請手続きの受付期間に柔軟性を持たせたなどといった点が、前回に比べて変わった点と言える。
休廃業・解散の状況と、事業承継に関するM&Aの動向
ではここで、本補助金制度が2017年度予算として施行されて以降、休廃業・解散の状況と事業承継に関するM&Aの動向についてが、どのような推移となっているか見ていく。
まず休廃業・解散、倒産件数については、2018年に46,724件と前年対比14.2%と大きく増加し、2019年以降も4万3千件を下回ることはなく、特に2020年は5万件台に近づく水準まで増加するなど、ここ数年は過去に比べて高い水準で推移している。
2020年の倒産件数増加に関し、コロナショック後の経済環境悪化が増加の要因のように感じられる方もいるかもしれないが、同年の倒産件数は、金融機関による資金繰り安定化支援が奏功し2年ぶりに減少に転じるなど、経済環境悪化による影響は限定的であった。
70歳以上が過半数
続いて、休廃業・解散をしている代表者の年齢構成について着目してみると、2013年頃は70代以上の構成比は44.2%であったものの、2017年には70代以上の構成比が50%を超え、2018年には54.7%、2021年には62.6%と2013年に比べ18%以上増加するなど、毎年70代以上の構成比の増加が続いている。
この点から考えると、ここ数年の休廃業・解散、倒産件数が高止まりしている主因は、経営者の高齢化などの背景が、色濃いものと推察する。
事業承継・引継ぎ支援センターにおけるM&A件数
前述のように、休廃業・解散が高止まりする中、中小企業のM&Aマッチング支援を行う事業承継・引継ぎ支援センターにおけるM&A件数はどのように変化しているのか見てみると、相談者件数は毎年右肩上がりに伸びており、2018年においては1万件を突破し、以降はほぼ横ばいながら、底堅く増加している。
相談者件数が2018年からほぼ横ばいになっている中において、成約件数の推移に着目してみると、2018年までは相談者件数に対する同年の成約件数の割合は8%程度であったものの、2019年から10.2%、2020年が11.8%と10%を超えてきている。
高齢化で、譲渡のタイミングは先延ばししづらい
一般的にM&Aの成約件数は、投資マインドの状況に影響を受けやすいとされている。過去の事例で言えば、リーマン・ショック後の経済環境悪化を受け、投資マインドが低下して以降のM&A件数は著しく低迷した。
しかしながら、コロナショック後の2020年においても事業承継M&Aの件数は、前年対比増加となっている。
代表者の高齢化という時間的な制約から、経済環境悪化による譲渡の実行時期の先送りという選択が、現在のオーナー経営者側において取りにくくなっている様子もうかがえる。
事業承継・引継ぎ補助金制度がM&A検討を後押し
中小企業のM&Aマッチングにおいては、取引金額が少額になるケースが多く、相対的にM&Aを検討するに係るM&Aの支援を行う仲介会社や専門家への費用負担が割高になってしまうことは否めない。
このような課題に対し、今回のような補助金制度が設けられたことで、事業承継M&Aを検討するハードルが低下し、結果として中小企業を対象とした事業承継M&Aを検討する機会が増加しているものと思料する。
最後に 外部アドバイザーの活用を
事業を続けていく過程において、どこかのタイミングでは誰しも必ず承継というイベントを迎えることになるが、経営者の多くは承継というイベントを先送りにしてしまいがちだ。結果として、年齢や病気、業績の低迷などを契機に事業承継の検討を進めようとすると、承継を検討するための期間が短くなり、交渉力も相対的に低くなってしまう。
そのため、限られた時間の中で交渉をスタートするのではなく、自社の5年、10年先を見通したときに、業界内においてどのような立ち位置で事業を行っておくべき必要があるのか、といった事業の方向性を一度立ち止まって考えて欲しい。
その中で、自社単独では実現することがベストなのかという疑問などを感じた際は、今回の制度などを利用しながら、積極的に外部アドバイザーを活用し、第三者のパートナー企業を探索をしていくことも一案ではないだろうか。
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