「M&A慣れ」への傾向と対策 ㊤買い手編

クロージングしないM&A案件が、2019年ごろから増加しているのではないかという印象がある。売り手、買い手双方に「M&A慣れ」が出て慎重になっているとみられる。2020年に入ってからは新型コロナウイルスの影響で心理的にも影響が表れているのか、買い手の投資マインドを大きく冷やしている。このような環境下における要因と対策を考えてみたい。

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売り手も買い手も慣れてきた

握手イメージ

かつては、M&Aをしたことの無い企業や経営者も多く、事業の拡大を自らの会社の飛躍につなげたいという思いから、やや無理をしてでもM&Aに取り組む企業が多かったように思う。
ところが、何件かの実績を積み、業界内や経済ニュースをにぎわす案件情報が増え、事業承継の仲介が増加してきている。つまりM&Aがコモディティー化するにつれて、買い手側の企業も慎重になっている。
また、売り手側の企業もM&Aの経験をある程度積んだことで、M&Aの進め方に様々なアレンジを加え、過去の成功体験から買い手に一定の制約を課すことを当然のごとく意識するようになった結果、買い手にとって厳しい案件が増えているものと考える。
以下において、それぞれの主たる要因例を記載する。

買い手側の要因

買い手候補が慎重になりつつある要因としては、次のようなものがあげられる。

1 「のれん」の減損リスク
のれんは、簡単に言えば、企業を買収した際、会計上の純資産に上乗せしたプレミアムを意味する。よい企業だと判断して、高い価格を払って買収すればのれんは大きくなるが、割高な買収すなわち高値掴みをすれば、思うような利益・キャッシュフローを挙げられない場合には、減損(評価損)を計上することになる。

近年の日本企業でも、東芝によるウエスティングハウスへの投資や、日本郵政によるトールへの投資などの大型の海外案件を中心に数千億円単位での減損事例がニュースになることも増えており、監査法人なども買収時から減損リスクを指摘するなど厳格化の姿勢が強まっており、多額ののれんの負担には慎重になっている傾向がある。

2 のれんの償却年数
日本の会計基準では、のれんを償却することが求められている。かつては10~20年かけて償却できたケースも多かったようだが、最近では3~8年程度での償却しか認められないことが増えている。

例えば営業利益が3億円の企業を買収するにあたって、20億円ののれん代が見込まれるケース。償却年数が5年の場合には年間4億円の償却費となり、のれん償却費控除後の営業利益は▲1億円の赤字となる。一方で、10年で償却できれば年間2億円の償却となり、同+1億円の黒字となる。
つまり監査法人が認めるする償却年数が短くなったことで、のれん代を多額に乗せにくくなっている。この買収案件の場合、「1年あたり3億円×監査法人の認める償却年数」といった範囲でしかのれん代を払えない、というブレーキがかかることになる。

3 買収シナジー
M&Aに慣れた企業では、買収シナジーに対して冷静な見方をする役員・担当者が増えている。一般的にはコストシナジーは出しやすい。一方で、収益シナジーは実現が難しいか、ほぼ出ないことの方が多い。以前はコンサルタントが行った事業デュー・ディリジェンスで多くのシナジーの出るストーリーを積み上げて、高い買収価格を正当化しているケースも見られたが、かなり減ってきているという印象である。

4 マネジメント人材不足
かつては「いきなり大きなM&Aをやると失敗するから、小さなM&Aを積み重ねるのがいい」というような説もあり、中小規模のM&Aをやってきた会社がここにきてマネジメントの問題に直面していると聞く。つまり、経営の専門能力を持つ人材が社内外で不足しているという人材リソースの問題である。買収した会社の経営陣に任せるだけでは十分な成果を得られないと理解している企業においては、M&Aに取り組むうえで重要な判断要素になっている。

5 社外役員の増加
近年多くの上場企業で社外取締役などの役員が起用されている。かつては買い手企業では、社長が決めればM&Aに反対する役員は少なかったのかもしれない。しかし、M&Aの経験が豊富な社外役員のみならず、様々な側面から、常識的でごく当たり前の疑問が取締役会などで活発に議論されることが増え、「なんとなくトップが決めたらそのまま進む」という空気がなくなってきた。

㊦売り手編に続く

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