「隠れユニコーン」をさがせ

日本にはユニコーン(時価総額が10億ドル以上の未上場企業)が少ない。しかし、米国でもシリコンバレー以外にはユニコーンはほとんどない。日本では東証がシリコンバレーと同様の機能を果たしてきており、「隠れユニコーン」が存在している。ユニコーン待望論は、本質的には大きな意味がない。

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米中に集中するユニコーン

米中に集中するユニコーン

ユニコーン企業とは、企業価値10億ドル以上の未上場企業で、創業から10年以内のスタートアップを指す。

米国の調査会社CB Insightsによると、2022年3月時点で、世界のユニコーンの数は1,080社だ。このうち1/2にあたる554社が米国に存在している。

地域別に見ると、米国に次いで中国が180社と多い。中国を除くアジア・太平洋が141社、ヨーロッパが139社と続く。日本には10社が存在する。

日本にユニコーンが少ないという嘆き

日本にはユニコーンが少ないと多くの人が嘆く。経団連副会長の南場智子氏(DeNA会長)は、2022年3月11日の会見で、ユニコーンの数を現在の10社から5年以内に100社に増やすという意欲的な目標を掲げた。

日米の経済システムの相違が、ユニコーンの多寡の主因だという社会全体の共通認識がある。日本の経済システムの構造改革がユニコーン創出に必要だという主張も聞こえる。

日本も社会主義に、とはならない

日本も社会主義に、とはならない

ただ、社会主義の中国でもユニコーンは多い。

だからと言って、日本も社会主義にしようという主張は出てこない。ユニコーンの多寡は、本当に国全体の経済システムの問題なのだろうか。

シリコンバレー以外の米国都市ではユニコーンに出会えない

シリコンバレー以外の米国都市ではユニコーンに出会えない

『エンジェル投資家(2018年日経BP社)』という著書がある。著者のジェイソン・カラカニス氏は、シリコンバレーで最も成功したエンジェル投資家(スタートアップ企業を専門に対象とする投資家)と言われている。

この本で紹介されている、エンジェル投資家が渇望するユニコーンの所在についての記述が大変興味深い。少し長い引用になるが紹介する。

『ニューヨーク、ロサンゼルス、シアトルその他の都市でエンジェル投資家を目指すこともできる。しかしその場合、(中略)成功の基準を大きく引き下げる必要がある(つまりユニコーン、デカコーン、1,000億ドル企業の誕生にいあわせるのは困難だ)。』

『ニューヨークやロサンゼルスのような場所でエンジェル投資家になった場合の唯一の取り柄は、周りからもてはやされることだろう。(中略)自分の生産性が非常に高いような気がして満足を得られるかもしれない。しかしそれは時間をかけて検討すべき案件がごく少ないからに過ぎない。』

この本の出版は10年前だ。

(時間経過を捨象して言えば)我々日本人は米国の主要都市にユニコーンが存在していると誤解しがちだが、どうやらそうではなさそうだ。

米国と日本の経済システムの相違はユニコーン数の多寡と関係ない

米国の主要都市(世界最大都市のニューヨーク含む)にユニコーンはほとんどいない。ユニコーンはシリコンバレーにのみ集中的に存在している。

米国全体の経済システムの模倣からユニコーンは生まれない。ニューヨークでさえユニコーンは生まれないのだ。東京でも同様だ。

いわんや日本の地方都市をや、だ。

世界中から起業家と投資家が集まる。才能とマネーの熱狂の中、スタートアップの殆どは失敗する。運良く生き残り、強い輝きを放った一部の企業がユニコーンやデカコーンになる。

この生態系がシリコンバレーにはある。ニューヨークを含むその他の米国の都市にはない。日本にはない。東京にもない。

ニューヨークやロサンゼルスの相似形都市を日本に作っても、それはシリコンバレーにならない。シリコンバレーの模倣にしか解はないが、それはニューヨークでもできない。

起業家と投資家がホモ・エコノミクス(経済合理的人間)である限り、シリコンバレーへの更なる集積は続く。彼らはシリコンバレーと同居し、それ以外の疑似都市を欲さない。

「隠れユニコーン(HU)」を忘れるな

「隠れユニコーン(HU)」を忘れるな

日本に希望はないのか。Coral Capital(CC社)が配信した『日本の「隠れユニコーン」41社を調べてみた』というレポートを見てみよう。

著者であるJames Riney氏とTiffany Kayo氏は言う。日本ではベンチャーキャピタル(VC)の資金供給能力が小さいため、代替手段としてIPOによる資金調達が発達した。

2021年に日本のスタートアップがVCから調達した資金は90億ドル。米国は1,280億ドル、中国は1,300億ドルと、日本とは桁が二つ異なる。

日本よりはるかに厳しいNASDAQの上場基準

一方、日本の上場基準は緩やかだ。東証グロース市場上場に必要な流通株式時価総額は5億円だ。NASDAQの流動性要件は4,500万ドル(約60億円)と、東証の12倍だ。

VCの厚みや上場基準など資金調達環境の相違を考慮せず、日本にユニコーンが少ないと嘆くことは意味がない。ユニコーンの少なさは、大きな問題ではないのだ。

「シリーズB」が果たしてきた役割

「シリーズB」が果たしてきた役割

CC社の分析によれば、米国のVCの役割を日本では東証が果たしてきた。特に、スタートアップの成長過程で資金調達を行う「シリーズB」と呼ばれる機能だ。

CC社によると、2011年から2021年の間に日本で上場し、設立から12年以内の時価総額が10億ドル超の企業は41社ある。これらが隠れユニコーン(HU:Hidden Unicorn)だ。

日本のHUは創業からIPOまでに平均6.8年を要し、上場時に公募などで資金調達する。これは、米国のベンチャー企業が行う「シリーズB」の時間軸と同じだ。

また、日本のHUは平均して、創業から約8年(IPO後1.2年)で時価総額10億ドルに達している。これも、世界の成長企業がユニコーンになるのと同様の時間軸だ。

マクロ経済への影響度という観点から見ると、スタートアップの上場/未上場は関係がない。

日本では、東証がシリコンバレーにおけるVCの役割を十二分に発揮してきた。

まとめ:ユニコーン待望論から距離を置こう

日本にユニコーンは少ないが、ニューヨークやロサンゼルスでも少ない。シリコンバレーのみが特異な存在として、疑似的かつ私的な株式市場の機能を担っているに過ぎない。

我が国では、公的な存在である東証がその役割を十二分に果たしてきた。これを過小評価すべきではなかろう。「隠れユニコーン」も既に数多く育っている。

南場氏が創業したDeNAもユニコーンではない。隠れユニコーンの一社だ。米国メディアで毎年発表されるユニコーンの数に、我々が一喜一憂する必要はあるのだろうか。

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