世界の特許申請件数は過去最多

世界の特許申請件数は過去最多

2021年3月初旬、WIPO(世界知的所有権機関)が発表した2020年の国際特許出願件数は27万5900件と、過去最多を更新した。過去10年で年平均5.3%、過去5年で4.9%と概ね年率5%程度での成長が続いている。特許出願=技術力評価、ではないことを十分理解しているものの、一つのメジャーとして評価する向きや、企業別では出願件数ベースで研究開発効率等をKPI化しているケースもあるため、無視はできない。この傾向は、特にアジア系の製造業で顕著である印象が強い。

中国の躍進

中国の躍進

国別にみると2019年に米国を逆転して世界トップとなった中国が、2020年は6万8720件と16%増加させ、米国との差を大きく拡大させた。

中国の出願数は、過去10年間18.8%増と大きな成長を遂げ、出願総数に占める中国のシェアは24.9%に達した。このシェア水準は米国の2015年レベルに到達。今後トレンドで見ると、米国がリーマンショック前に保有していた30%以上に近づく可能性がある。

韓国も4位に浮上

中国の躍進

また、出願数でドイツを抜き世界第4位となった韓国の出願数も順調に拡大している。
年平均成長率は10年で7.6%・5年で6.6%。結果として、過去10年の特許申請件数の拡大は、中国・韓国の2ヵ国が大きく牽引していることが良く解る。

鈍化する先進国

鈍化する先進国

一方、先進国である日米欧は、2015年以降の成長性が鈍化する方向にある。2020年はコロナ禍で特殊な年となった可能性も否定できないものの、2019年比で減少したのは、日本とドイツ。米国・イギリス・スイス等は増加しており、コロナの影響だけではないものと推測できよう。一方、日米欧や中国・韓国を除く国の出願数はほとんど増加していない。

企業別ではファーウェイ首位 3位に三菱電機

企業別ではファーウェイ首位 3位に三菱電機

申請件数企業別ランキングでみると、トップは中国ファーウェイ社の5464件。

第2位は韓国Samsung電子3093件、第3位は三菱電機2810件となっており、トップ15には中国系が3社、韓国系3社、日系4社、米系3社、欧州系2社がランクインしている。

2020年のトップ10企業が過去8年間でどのように件数を増加させてきたかをチャート化してみた。やはり大きく増加させている企業は、ファーウェイ・Samsung電子・ソニー・Ericsson・OPPO Mobileなどのスマートフォン関連大手が並ぶ(ソニー・セミコンダクタソリューションズをソニーに含む)。

過去10年間で世界のテクノロジー業界を、ビジネスモデル面・ハード面・ソフト面で変革させたスマートフォンは、やはり技術革新によるハードウエア面での進化でもたらされていることが推測できる。

トップランカーの顔ぶれを見ると、中国系は通信機器・ディスプレイデバイス、韓国系は通信系・半導体、欧州は通信・自動車・化学・医薬品、米国は通信・コンピュータ、などが主体である印象がある一方、日本企業では通信やデバイス系とともに、素材・電子材料・ヘルスケア自動車、など多彩な事業領域の企業がランクインしている。

国内は1位三菱電機、2位ソニーグループ

企業別ではファーウェイ首位 3位に三菱電機

2020年の国内企業申請件数ランキングを見ると、第1位が三菱電機、第2位がソニーグループ、第3位がNTTグループ(NTTドコモを含む)、となる。

特許申請でわかる、得意領域

過去の特許申請件数の推移をみると、地域ごとに得意領域での技術力のレベルとその方向性などが推測できる。中国・韓国を主とするアジア勢が、スマートフォンや各種ITハードウエア関連で引き続き積極的な開発投資→特許申請を行っており、更に通信系の基礎技術での申請数増加が、中国を世界トップに押し上げたとの推測が成り立つ。また韓国の増加には、Samsung電子に加え、LGケミカルが大きく貢献している。こちらは2次電池関連と推測される。

米国の順位が低い理由

企業別ではファーウェイ首位 3位に三菱電機

一方米国は、トップの座を明け渡しているものの、引き続き通信系の基礎技術やコンピュータ系の技術に加え、特許申請上は扱いが難しいビジネスモデルやソフトウエア・サービスなどのエリアでリードを続けている印象が強い。特許申請件数では。GAFAの名前が見当たらないのはその証左であろう。

欧州は国毎で得意な技術領域が異なっている。ドイツは自動車関連や化学、スエーデン・フィンランドは通信、スイスは製薬、など。ドイツを除き、ほぼ特定の企業が国全体の技術レベル・戦略を担っている印象もある。

日本の国家的な技術戦略が問われる

日本の国家的な技術戦略が問われる

こうした環境下、日本はどのような技術戦略をベースにして、今後の国際競争社会での生き残りを画策していくのか、明白にしてく必要があろう。

経験上、ある程度トレンドが読みやすく、時間と手間をかけてオーガニックな進捗・改善・改良余地のある領域を、日本を含むアジア系は得意としている印象がある。

逆に米国型のイノベーティブな領域や、ソフト・サービス関連などは、難しい印象だ。

できれば2021年2月のTSMC記事「成長加速・寡占化する半導体産業」で指摘したような半導体デバイスや次世代電池等で世界をリードして欲しい気持ちはあるが、資金的な問題もあり難しいようだ。

結果、現在の延長だと着実にスピードアップが進む通信関係技術や、電子関係や構造材を含む素材関係技術と、それらを実際の製品へ応用していくための技術(ファクトリーオートメーションなど)等がターゲットになるのではないか。ただし申請件数の増加は目的ではなく、あくまで現象である。

申請件数が目的になっていないか

日本の国家的な技術戦略が問われる

日本の申請件数を人口当たりでみると、他国を圧倒してきた一方、結果として経済成長率は低い。また最近では人口当たりでも韓国に肉薄されてきている。

最も大きな問題は、申請されている特許が数の増加を目的としていて、実際の事業に対して貢献しているかどうかが疑問である点だ。

資源に乏しい日本は、経済成長力回復のため10年単位での国策として得意な技術領域を特定し、集中的な資金投下を含むサポート体制の再構築を行う必要があるのではないか。

長期的技術戦略と資金投入が必要だ

あくまでも、新たな成長領域における国際競争力を高めることが目的である。厳しい国家予算内での資金源もある程度必要だが、可能な限りフレキシブルかつ経済合理性を追求するためにも、長期的技術戦略と民間資金投入スキームを創生すべきと考える。

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