相続登記義務化のインパクトとは?

不動産を相続した場合、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する必要があり、この手続きを「相続登記」と呼ぶ。従来相続登記は任意であったが、2021年6月の法改正により2024年を目途に義務化されることになった。相続登記義務化の背景と、そのインパクトは何かを考察する。

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相続登記とは

 
相続登記とは

相続登記とは、不動産の登記名義人(被相続人)が亡くなった場合、相続人に不動産の名義を変更する手続きを指す。今まで相続登記は義務化されていなかったため、何世代も名義人がそのままになっていたり、相続人の所在が分からなくなったりすることが増えていた。社会問題化している空き地や空き家の増加の元凶ともなっており、対応が求められていた。

法改正による相続登記の主な変更点

法改正による相続登記の主な変更点

2021年の4月21日、「民法等の一部を改正する法律」および「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、同月28日に公布された。施行期日は、相続登記の申請の義務化関係の改正については2024年を目途に、住所等変更登記の申請の義務化関係の改正については2026年を目途に、その他の法律や改正については2023年を目途に施行される。

改正の主な内容は以下の通り。

・相続登記の申請を義務化

不動産を取得した相続人に対し、その取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付ける。正当な理由のない申請漏れには10万円以下の過料の罰則あり。なお相続登記はこれまで相続人全員ですべきものとされていたが、単独申請が出来るようになった。

・住所変更未登記への対応

所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付ける。正当な理由のない申請漏れには5万円以下の過料の罰則あり。

・相続等により取得した土地所有権を国庫に帰属させる制度の創設

土地を相続したものの、利用の目途がたたない一方管理コストの負担感により、土地を手放したいと考える人が増加している。しかし現状では不要な土地だけを相続放棄することはできず、現金等を含む相続財産すべてを放棄しなければならない。

今回の法改正では、相続等により取得した土地だけを放棄して、国庫に帰属させることを可能とする制度が創設された。ただし、管理コストの国への転嫁や土地の管理をおろそかにするモラルハザードが発生するおそれを考慮して、一定の要件を設定し、法務大臣が要件を審査する。この際、審査手数料のほか、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金が徴収される。

法改正の背景 所有者不明土地の問題

法改正の背景 所有者不明土地の問題

土地の中には、不動産登記簿等の所有者台帳を見ても所有者が直ちに判明しない土地、 または判明しても所有者に連絡がつかない土地、いわゆる所有者不明土地が存在する。

国土計画協会(国土交通省の外郭団体)が設置した所有者不明土地問題研究会が2017年12月に出した報告書での推計によれば、全国の2016年時点での所有者不明率は20.3%で、面積にして約410万haであり、これは九州の土地面積の約367万haを上回る。

更に、今後所有者不明土地の増加防止の取り組みが進まない結果、新たな所有者不明土地が増え続けると仮定し、また現在の所有者不明土地の探索が一切行われないと仮定すると、2040年には所有者不明土地は約720万haにまで増加する。

これは、北海道本島の土地面積約780万haに匹敵すると推計している。

所有者不明土地の存在は、公共事業のための土地取得や公共目的での土地利用および災害からの復旧・復興事業において大きな阻害要因となる一方、民間の不動産取引にも影響をおよぼす。

また民間の分譲マンションで所有者不明の物件が存在すれば、管理費や大規模修繕積立金の徴収を含むマンションの管理組合の運営に悪影響をおよぼす。より大きな観点からいえば、所有者不明土地の増加は、現在社会問題となっている空き家問題に至る大きな経路として位置づけられる。

そして所有者不明土地が発生する最も大きな要因が、相続時に物件が登記されないことにある。最近の相続登記に関する法改正には、所有者不明土地の新たな発生を抑制する一方、現存する所有者不明土地を円滑に利用する意図が込められている。

相続登記義務化のインパクト

今回の法改正で相続登記が義務化されペナルティとして過料が規定されたことにより、今後所有者不明土地は減少することが期待される。

ただし10万円以下の過料であれば登記にかかる費用の方が高いケースも多くあり、また違反の摘発にも手間がかかるため、義務化の効果による所有者不明土地の減少ペースが期待を下回る可能性は残る。更には、義務化で形ばかりの登記が増えると、意思に基づく遺産分割が行われず法定相続で権利が分散してしまう可能性があり、相続による土地の細分化と所有権の分散化という所有者不明土地の発生要因の根本的な解消には至らない、との指摘もある。

一方、相続放棄された土地を国が引き取る制度の創設も、所有者不明土地の発生を予防するには有効だが、国が引き取る要件が厳しく運用されれば、利用は進まないだろう。

また10年分の土地管理費相当額の負担金が重荷となり、利用が進まない可能性もある。

これらの不透明要因はあるものの、これまで進まなかった所有者不明土地対策が法改正によって進んだのは大きな前進である。今後公共事業での土地取得や災害からの復旧・復興事業も、これまでよりは円滑に進む展望が開けた。

民間土地取引の活性化に期待

立地等の条件にもよるが、所有者不明により売買が凍結されていた土地が、相続登記の義務化がきっかけとなって動き出すことにより、長期的には民間の土地取引の活性化に貢献しよう。ひいては、空き家問題を改善に導く重要な一歩となることを期待したい。

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