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活況のインド、「アジアのデトロイト」となるか──世界3位の自動車大国の行方
インドの自動車産業が活況だ。2024年の四輪販売は522万台と4年連続で過去最高を更新。日本(442万台)を3年連続で上回り、中国(2,557万台)、アメリカ(1,597万台)に続く世界3位が定位置となった。二輪販売も2024年度に1,960万台と、中国を上回り世界最大の市場となっている。人口増加に加え、中間層の拡大で、四輪・二輪の販売は今後も成長が見込まれる。グローバルな輸出拠点としての役割も担いつつあり、日系含め自動車メーカーや自動車部品メーカーの投資が急速に増えている状況だ。「アジアのデトロイト」として発展を遂げたタイの自動車産業を彷彿とさせる展開となっている。
出典:国際自動車工業連合会(OICA)、JETRO
スズキ、トヨタ、ホンダはインドで生産能力を増強
出所:ジェトロ『2024年度のインド乗用車販売は430万台超(インド) | ビジネス短信』
出所:ジェトロ『2024年度のインド乗用車販売は430万台超(インド) | ビジネス短信』
スズキのインド子会社マルチ・スズキは現地乗用車販売でシェア41%と最大手(図参照)だ。スズキが2025年2月に発表した中期計画によると、6年間で設備投資に2兆円を投じ、うち1兆2,000億円をインドに振り向ける。インドにおける四輪の年産能力を400万台とする方針で、現在から7割もの増加となる野心的な目標を設定した。
トヨタ自動車の現地法人トヨタ・キルロスカ・モーターは、マハーラーシュトラ州政府と新工場を設立する覚書を締結。投資額は約3,600億円にのぼる。同社はカルナータカ州でも三つ目の工場を建設中で、2026年に操業開始を予定している。
ホンダも、現地二輪メーカーのヒーローとシェア首位争いを展開する中で(図参照)、現地二輪工場の能力増強を継続している。2025年5月には、グジャラート州の工場への追加投資を発表した。2027年に現地における二輪の年産能力は700万台に達する見込みだ。
日系部品メーカーにも広がる投資
日系自動車メーカーの積極的な投資に伴い、日系の自動車部品メーカーの間でも工場建設や現地企業との合弁設立が相次いでいる(表参照)。
2025年に発表された日系自動車部品メーカーの対インド投資や提携 | |
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東洋電装 | 現地部品大手と二輪用スイッチ類の合弁設立 |
愛知製鋼 | 現地同業(特殊鋼メーカー)に追加出資 |
パイオラックス | 第2工場(ファスナー部品)稼働 |
フコク | 現地同業(防振ゴムメーカー)と業務提携 |
ニッパツ | 3拠点目の工場新設(バネ部品、スタビライザー) |
日本精機 | 台湾企業(高精細ディスプレー)と合弁設立 |
テイ・エステック | 現地同業(シートメーカー)と合弁契約、現地初の研究開発拠点設立 |
三五 | 工場(排気系部品)新設 |
中央発條 | 単独出資子会社(シャシバネ部品、コントロールケーブル生産)設立 |
バネ部品大手のニッパツは、インド西部のマハーラーシュトラ州に3拠点目となる工場を建設。既存の2拠点は北部マネサールと南部スリシティにあり、自動車メーカーの進出が相次ぐ西部にも拠点を構えることで、輸送費をカットし競争力を高める。
シートを生産するテイ・エステックは、同じくシートの現地メーカー、クリシュナと合弁会社設立に向け2025年4月に契約を結んだ。クリシュナはマルチ・スズキ向けで高いシェアを有しており、テイ・エステックの高機能シート技術や生産・品質管理ノウハウを組み合わせて競争力を高め、主要納入先のホンダに加え、スズキ商圏への拡大を図る。
生産だけでなく、開発機能の拡充も
開発拠点を増強する動きもある。エアバッグを生産する豊田合成は、ハリヤナ州にある開発拠点を移転・拡張し、エアバッグを膨らませる試験機を導入するなど評価設備を整えた。日本で評価してインドに結果を報告するといった従来の方法を改め、手間を省く。
スズキは開発のスピードを上げるために、部品メーカーに対し、インド現地での開発機能の拡充を依頼しているとされている。豊田合成の取り組みは、こうした自動車メーカーのニーズに合致する。
部品メーカーの供給力や開発力の向上に向けた一連の投資は、現地でのサプライチェーンの強化につながる。
インドは内需対応に加えて輸出も拡大

インド政府は製造業振興策の一環として、旺盛な内需に対応するだけでなく、自国を“グローバル輸出拠点”に育成するよう政策誘導を実施。自動車メーカーも輸出拡大を打ち出している。
先述したスズキは400万台体制のうち、100万台を輸出に振り向ける方針だ。仕向け地は中東やアフリカのほか、日本へ輸出する車種も広げている。2025年4月に発売した「ジムニーノマド」もインド製である。電気自動車(EV)もインドで生産し、EVの生産・販売・輸出でトップを目指している。
ホンダも、インドから中南米やアジア、アフリカ市場へ二輪の輸出を拡大する計画だ。
(ホンダやスズキのインド製四輪逆輸入車については、以前取り上げた。『ホンダ28年ぶり首位 逆輸入車から見るインド自動車産業の実力』)
タイ「アジアのデトロイト」構想も輸出主導で成功
2000年代前半、タイ政府は「アジアのデトロイト」を掲げて自動車産業振興を図り、その結果、日系自動車メーカーを中心にグローバルにおける戦略拠点と位置付けられるまでに発展した。成功を支えたのは、輸出主導の成長だ。
トヨタ自動車がタイで生産するピックアップトラック「ハイラックス」は95カ国に輸出されている。世界各国の仕向け地で評価される自動車を生産できるサプライチェーンを整えたことで、輸出主導が可能になった。
2024年のタイの四輪生産は146万台、完成車の輸出は101万台で、単純に輸出を生産で割った輸出比率は69%。インドの2024年度の四輪生産は609万台、輸出は85万台で輸出比率は14%と、開きがある。
インドネシアも、タイと同様の産業政策で輸出拡大を志向しており、2023年の四輪生産台数は約139万台、輸出は約50万台、輸出比率は36%だった。
インド特有の事情に合わせた基盤の整備が必要

インドはタイやインドネシアと比べて内需の規模が大きいうえに、一層の市場拡大・競争激化が見込まれている。完成車に高い関税(最大100%)を課しており、巨大な内需に輸入車で対応することは難しく、輸出を増やすのは容易ではない。また、インドの事業環境をめぐっては、現地従業員の離職率の高さや、行政手続きの煩雑さなど課題も多い。
インドをグローバル戦略拠点と位置付けるには、インド特有の事情に合わせた事業基盤を整備したうえで、さらなる輸出拡大と、それに見合う、より強固なサプライチェーンを構築することが求められる。
参考文献
ジェトロ『2024年度のインド乗用車販売は430万台超(インド) | ビジネス短信』
ジェトロ『トヨタ、MH州に新工場設立の検討を発表(インド) | ビジネス短信』
ジェトロ『インド乗用車市場、2024年度は国内販売、輸出ともに過去最多』
神奈川新聞 11ページ『インド西部に新工場/ニッパツ ばね製造、27年操業』(2025/06/20)
化学工業日報 12ページ『インド特集 自動車サプライチェーン“進化の時”』(2025/03/31)
Bloomberg『ホンダ、二輪世界シェア5割目指す-インドなどで需要拡大見込む』
imidas『「アジアのデトロイト」 | 時事用語事典 | 情報・知識&オピニオン』
日経Automotive66~72ページ『Features-スズキの新中計-インド最重視を一段と鮮明に』(2025/05/11)
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