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カンパニー制とは?事業部制との違いやメリット・デメリット、導入事例を解説
企業には多様な組織形態があり、規模や事業内容、時代背景などを加味して自社に合った形態が選択されています。 1994年に日本で初めてソニーが採用した「カンパニー制」は、それ以降、大規模な多角経営を行う企業を中心に広がりました。 一方で、カンパニー制を一度は導入したものの、自社との適性などを省みて廃止し、事業部制やホールディングス制へ移行した企業もあります。 本記事では、カンパニー制とは何か、その特徴やメリット・デメリット、導入時の注意点、導入事例などをわかりやすく解説します。
カンパニー制の組織とは
カンパニー制とは、事業部ごとに執行役員などを立てて「独立採算制」をとる企業形態です。社内の事業を「カンパニー」と呼ばれる組織に分けて一つの会社のように扱い、権限や責任を持たせています。
日本でこの組織形態が広まった背景には、1990年代のバブル崩壊があります。景気が低迷する中で、企業は組織のスリム化や変化するマーケットへの迅速な対応が求められました。これにより、身軽で意思決定が速いカンパニー制が広まったのです。
カンパニー制の特徴
カンパニー制の最大の特徴は、前述の「独立採算制」です。
独立採算制とは、各カンパニーに責任者を置き、カンパニー内の人事や投資、予算管理など経営上の意思決定権を与える方法を指します。
貸借対照表や損益計算書の確認など経理上も独立する形になり、カンパニーごとの権限が大きく、責任範囲は広くなります。
人事・経理などの間接部門は各カンパニーに設置し、業務上も独立させ、迅速かつ柔軟な組織体制を目指すのです。
責任者や間接部門を各カンパニーで設置することから、企業にはある程度の規模や採算のとれる売上高が必要です。そのため、カンパニー制は主に大規模な多角経営企業で採用されてきたことも、特徴の一つと言えるでしょう。
カンパニー制が注目される理由
カンパニー制が始まったのはアメリカですが、前述の通り1994年にソニーが導入し、日本でも注目を集めました。
そして社会やビジネスの流動性、不確実性が高まる現代において、企業は急速に変化する市場環境や技術革新に柔軟に対応していく姿勢が求められています。
カンパニー制では、各カンパニーが権限を持ち、現場に則した視点で迅速な意思決定を可能にします。顧客の多様なニーズに応え、変わり続ける環境に適応しやすい組織形態として、期待されているのです。
事業部制やホールディングス制との違い
次に、「事業部制」や「ホールディングス制」などの混同しやすい組織形態との違いを見ていきましょう。
事業部制とカンパニー制の違い
事業部制は事業分野ごとに組織を分け、本社機能配下に事業部として配置する組織形態です。
現在大多数の上場企業で採用されており、一般的な組織形態と言えます。
カンパニー制と事業部制の形態の違いは権限範囲です。カンパニー制が経営上の意思決定を内部で行えるのに対し、事業部制では重要な意思決定権を本部が所有しています。
事業部制をより発展させ、自立した組織体制構築の目的で、カンパニー制を採用する企業もあります。
一方で、カンパニー制を廃止し、事業部制へと組織改編する事例もあります。
某金属メーカーは、事業部間の連携を課題として、カンパニー制を廃止。事業部を管理する最高執行責任者(COO)と最高経営責任者(CEO)を配置。執行役員直下で事業部を管理できるよう体制を見直しました。
ホールディングス制(持ち株会社制)とカンパニー制の違い
ホールディングス制(持株会社制)は、持株会社である親会社が、傘下企業(事業会社)の株式を保有し、意思決定権・人事権・投資決裁権などの経営に関する権利を持ちます。
傘下企業は親会社とは別法人のため、同一企業内で組織を分けるカンパニー制とは形態が異なります。
ホールディングス制のメリットは、持株会社が経営、傘下企業が事業運営と役割を明確化し、経営の効率化を図れる点です。また、事業売却や事業買収がカンパニー制と比較して容易になるため、新規の事業を参入させたり、事業を撤退させたりするスピード感が早くなります。
2022年にカンパニー制からホールディングス制へ移行した某家電メーカーには、カンパニーの別法人化によって各領域での事業運営に専念し、競争力を磨く狙いがありました。
分社化とカンパニー制の違い
分社化は、事業内容やエリアなど、一定の基準を元に別法人として子会社や関連会社を設立する組織形態です。カンパニー制は同一法人内での組織で、分社化は別法人のため、さらに独立性を高めた組織形態と言えるでしょう。
分社化のメリットは、それぞれの子会社の経営を自立させることにより、経営状態がわかりやすくなる点です。
また、事業ごとに分社化することで、成長分野に対して迅速な事業展開が行えたり、特定の事業の業績不振による全社倒産のリスクを回避できたりします。
カンパニー制のメリット
ここまで、カンパニー制の概要と他の組織形態との違いについて見てきました。
次は、カンパニー制のメリットについて説明します。
・意思決定がスピーディにできる
カンパニー制は、各カンパニーが経営判断の権限を持ちます。
大規模投資や経営戦略に関する判断を本部へ仰ぐ必要がなく、多くをカンパニー内判断で行えるため、迅速な意思決定が可能です。
カンパニー制の採用で、変化の速い市場や顧客ニーズに合わせて、迅速な経営判断が可能になります。
・責任の所在が明確になる
カンパニー制は独立採算制のため、売上・利益・コストなど経理上の数値も独立して算出されます。
そのため、各組織の業績が好調か不調かは明確で、要因も見えやすいです。
不調な場合でも要因を発見し、課題に対する戦略立案を迅速に行えるのも大きなメリットでしょう。
・人材育成への効果が期待できる
各カンパニーの責任者は権限範囲が広いため、経営者視点での運営が求められます。
大規模投資や人事戦略、事業戦略立案など、それぞれの責任者に会社経営に必要な経験が蓄積されるため、将来の経営者層の育成に繋がります。
カンパニー制のデメリット
カンパニー制組織には、各カンパニーが独立することで生じる弊害も存在します。
そうしたデメリットについてみていきましょう。
・カンパニー間の連携が希薄になりやすい
カンパニーが一つの組織として独立するため、会社が各カンパニーに分断されます。
そのカンパニーが自組織の利益を最優先に行動するため、他組織への興味や連携の意識が薄れる傾向があるのです。
また、本社も権限委譲しているため、経営に助言する機会が少なく、連携が不十分になる可能性もあります。
・裁量が大きいため不正や隠ぺいのリスクが上がる
カンパニー制では各カンパニーに収益責任があるため、競争力が増して売上や利益を重視する傾向が見られます。「結果至上主義」とあらゆる権限を有する「独立性」から、不都合な情報や不正会計の隠蔽に繋がるリスクも考えられるのです。
そのため、社内のコンプライアンス意識の醸成、不正を抑制する仕組みの構築が求められます。
・重複する機能や業務が生じる
前述の通り、カンパニー制は間接部門を各カンパニーに設ける組織体制です。
人事や経理、法務など間接部門は組織内で共通する業務も多く、重複が生じます。
社内の手続きや事務処理を素早く行える点はメリットですが、全社で見ると重複する業務へのコストや工数が発生することにより非効率となる恐れもあります。
これらへの対策を行わない場合、一体感が薄れてカンパニー間で敵対するリスクもあります。
効果的な運用には、「各カンパニーの独立性」と「全社の一体感」のバランスが大切です。
カンパニー制を導入する際のポイント
カンパニー制の導入で生じる恐れがあるリスクを抑え、最適な経営体制を築くために意識するべき注意点を3つご紹介します。
(1)自律的な経営体制をととのえる
本部は必要以上に干渉しないことが重要と言えます。カンパニー制がもたらす独立性やスピード感といったメリットが失われてしまうからです。
従業員のモチベーションを維持するため、給与や待遇、人事制度などのカンパニー間で公平性を保つべき点は調整を図りつつ、各カンパニーが自律的な経営体制を整えられるように促しましょう。
(2)ガバナンスを強化する
本部の目が届きづらいカンパニー内で、不正会計や不都合な情報の隠蔽を防ぐには、ガバナンスの強化が必要です。会計監査や社外取締役などを設置して、透明性を確保するための監視体制を構築しましょう。
コンプライアンスやリスクマネジメントを全カンパニーに行き届かせる、内部統制も重要です。
(3)カンパニー間の連携を図る
人材管理や業務の連携など、カンパニー間で協働できる仕組みを設けましょう。別カンパニーといえども、同一の企業であり目的は同じです。シナジー効果が生まれるよう、会社全体の業績や企業価値を向上させるための意識の醸成を行いましょう。
カンパニー間の人材交流なども効果的です。
情報連携によるカンパニー間の相互理解によって、組織全体を俯瞰する経営視点が養われるため、将来の経営陣の育成にもつながるでしょう。
カンパニー制の導入事例
カンパニー制は各種メーカーや金融企業、IT系企業など様々な業種で採用されています。
カンパニー制の効果的な運営では、導入目的や組織編成の切り口、責任者の決裁権限範囲、本社機能の関与度合など、自社に適した体制構築がポイントです。
ここでは、カンパニー制を導入した4社の目的や背景、具体的な体制について解説します。
事例1:ソニー|カンパニー制導入から再編・廃止へ
1994年にソニーは19の事業本部を8つのカンパニーに括り直し、日本で初めてカンパニー制を採用しました。
この組織再編の背景には、景気後退によるマイナス成長の状況を打破するための、以下の5つの狙いがありました。
- 中核ビジネスの強化と新規ビジネスの育成
- 市場対応型組織を導入し、製造・販売一体となってマーケットの要請に対応
- 事業責任の明確化と、権限の委譲により外部変化に迅速に対応できる組織の構築
- 階層の少ないシンプルな組織
企業家精神の高揚を図り、21世紀に向けたマネジメントの育成
上記の項目から、組織再編により意思決定の迅速化・人材育成のみならず、事業ごとの成熟度に合わせた戦略立案や、重層化した組織の役員階層の簡略化によるシンプルで風通しの良い組織への再編など、多くの目的が読み取れます。
1996年には、定着してきたカンパニー制をさらに市場対応力を増すように10のカンパニーに再編。各事業が自立的に事業運営を行いつつ、本社機能の強い求心力で会社が一体となり、1997年には過去最高の業績を達成しました。
しかし、主要事業であるエレクトロニクス分野のデジタル化対応の遅れや短期的な成果を評価する人事制度などが影響し、徐々に営業損失が拡大していきます。
そこで、2005年にはカンパニー制廃止を発表。これには、商品戦略や技術、資材調達、マーケティングなどの重要部門の横断的連携を強化し、重複機関を排除して、全体の効率化を行う狙いがありました。
▼参考資料はこちら
ソニー株式会社『ソニーグループについて』
ソニー株式会社『Sony History 第24章 「柱を増やそう」』
ソニー株式会社『ソニーグループ 中期経営方針(2005年度〜2007年度)』
事例2:トヨタ自動車|製品軸のカンパニーで「もっといいクルマづくり」を目指す
トヨタ自動車(以下トヨタ)は、2016年にカンパニー制を採用。製品軸で7つのカンパニーを設置しました。これには、従来掲げていた「もっといいクルマづくり」とそれを支える「人材育成」を促進する狙いがあります。
また、担当する製品の責任・権限をカンパニー責任者であるプレジデントに集約し、企画から生産まで一貫したオペレーションを実施。従来の技術開発、生産、デザインといった機能を軸とした組織を、製品を軸として構成し、技術や生産などの機能部門を各カンパニーに設置。機能間の調整に時間をかけない効率的な仕組みを構築しています。
この再編で、組織内での迅速な意思決定と事業が効率的に利益追求できる体制を実現しています。
また、トヨタはカンパニー制採用の効果もあり、組織再編後3年間でプリウスなどの中型車から大型車、レクサスなどまで幅広くラインアップを拡大しています。
▼参考資料はこちら
トヨタ自動車、新体制を公表|トヨタ自動車株式会社 公式ホームページ
事例3:みずほフィナンシャルグループ|自己完結型の5カンパニー・2ユニットへ再編成
みずほファイナンシャルグループは2016年4月、グループ内の各機能の連携強化を図る「Oneみずほ戦略」の一環として、カンパニー制を導入。当時の10のユニットを「5カンパニー・2ユニット」に再編しました。
商品開発から販売までを一気通貫で手掛ける独立性のある組織に再編成したことで、担当するマーケットに対する責任が明確化。各カンパニーが「自主性・自律性・創造性」を発揮し、柔軟かつ機動的に事業を推進することが求められています。
▼参考資料はこちら
みずほFG『顧客セグメント別経営体制の確立に向けた組織の見直しについて』
みずほFG『1999年度版ディスクロージャー誌 カンパニー制の概要』
みずほFG『組織の見直しについて』
日本経済新聞『みずほ、グループ横断のカンパニー制導入を正式発表』
事例4:楽天グループ|アントレプレナーシップを醸成する組織編制へ
楽天株式会社は、顧客満足度の最大化を目指し、2016年より社内カンパニー制を導入しました。
これにより、60以上のビジネスユニットを13カンパニーに集約。その後も複数回の組織再編を繰り返しており、2024年現在は下記の4つに分かれています。
- コマース&マーケティングカンパニー
- フィンテックグループカンパニー
- コミュニケーションズ&エナジーカンパニー
- インベストメントカンパニー
カンパニー編成については、事業の類似性や親和性が考慮されており、各カンパニーの機能と責務が明確化されました。創業当時から大切にされてきた「アントレプレナーシップ(起業家精神)」の活性化によるイノベーションの創出、ユーザーの声に即応できる体制の実現を目指しています。
▼参考資料はこちら
楽天、グループ内カンパニー制導入によりユーザーの声に即応する組織へ
楽天、グループ内カンパニー制の新体制を発表
楽天、意思決定のさらなる迅速化に向けてカンパニー体制を強化 | 楽天グループ株式会社
カンパニーと主なサービス|楽天グループ株式会社
カンパニー制が自社に適しているか慎重な判断を行う
カンパニー制にはメリットが多い反面、有効に機能しなければ組織の一体感を損ない、無駄なコストや工数が発生するなどのデメリットも生じます。
カンパニー制を有効に機能させるには、本社機能の強化や互いに連携しやすい組織風土の醸成、各カンパニーが自立して事業を行える売上規模や人材の確保など、多面的視点からの体制整備が不可欠です。
市場動向や景気変動などの外的要因も影響するため、カンパニー制導入には慎重な判断が必要と言えるでしょう。
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