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2022年展望 不動産 住宅販売のリスクは、金利動向次第
2020年から2021年にかけて住宅の売行きが増加して、特に戸建住宅の売行きが好調だ。しかし、世界各国でインフレが進行しており、各国の利上げ次第では日本の長期金利にも影響し、高額物件の販売にブレーキがかかる可能性もある。
コロナ禍で好調な住宅販売
コロナ禍で在宅勤務をする人が増えて在宅時間が長くなった結果、在宅での快適性を求める人が増えた。中でも、効率的にテレワークをするために仕事部屋を必要とするとの理由で、住宅に広さを求める人が増えた。
また、毎日会社に出社する必要がないため、通勤時間の長さに対する許容度が増した。その結果、都心のマンションより割安で戸当り面積の広い郊外の戸建住宅が売れ出した。
一方、共用部で人と接触するマンションよりも戸建住宅の方がコロナに感染しにくい、等の理由で戸建住宅を選好すると同時に、安定した資産価値を求める層も増え、都心の狭小地に立地する戸建住宅の売行きも好調だ。
戸建住宅のみならずマンションの売行きも良い。不動産経済研究所の調査によれば、2021年10月の東京23区の新築マンションの平均単価は8,455万円で前年同月比11.8%上昇した。
2013年頃から続く株価の上昇を背景に、富裕層の資金が“億ション”に流れ込んでいる構図が浮かび上がる。新築物件の価格が上昇しているため、中古物件の取引価格も上昇している。
低金利が支える好調
そして、戸建住宅もマンションも、新築も中古も、いずれのカテゴリーでも好調な売行きを支えているのが、歴史的な低金利だ。
これに加えて、ローン残高の1%が所得税・住民税から控除される住宅ローン控除制度が、住宅の購入を動機づけている。
2022年も金利水準に大きな変化がなければ、住宅の売行きは引き続き好調だろう。住宅ローン控除制度の控除率が1%から0.7%に引き下げられるが、影響は小さい。
米国の利上げに注意
ただし現在インフレが世界中で起こりつつある。それに対応して各国の中央銀行が利上げをすれば、長期金利が上昇して経済活動に影響がおよぶ可能性が高まる。特に注意すべきは米国での利上げであり、日本の長期金利、ひいては住宅ローン金利に影響がおよび、住宅販売が減速するリスクがある。また株安を通じて高額物件の売行きが急減速するリスクも残る。
2022年のオフィス床の供給は低水準
一方、オフィス空室率は上昇傾向にある。
三鬼商事の調査によれば、東京の都心5区の2021年11月の空室率は6.35%で、1年前の2020年11月の4.33%から約2ポイント上昇した。一方、平均募集賃料は坪当り20,686円で、1年前の22,223円から6.9%下落した。
コロナ禍を機にもたらされた景気低迷、および在宅勤務の拡大を機に一部の企業でオフィス床を縮小する動きがあること、等が背景にある。働き方の多様化は今後も進み、テレワークが従来型のオフィスワークを侵食するため、景気動向次第ではあるものの、需要が伸び続けることは期待しにくい。
2022年のオフィス床の供給は低水準
ただし、森ビルの推計によれば、大規模オフィスビルの供給量は、2021年の61万㎡に対して、2022年は49万㎡に減少する。
そこで供給圧力の減少により、空室率は一時的に低下する可能性がある。
ただしその場合でも、2023年の供給は145万㎡と大きく増加するため、それに先立つ2022年の下期頃から、空室率が再び上昇に転ずるリスクも残る。
都心の商業店舗に改善の兆し:好調が続く物流施設
コロナ禍は都心の商業店舗に大きなダメージを与えた。消費者に外出抑制を要請する一方、商業店舗に対しては営業自粛や時短を要請し、テナントの売上は激減した。
これは、郊外に立地するショッピングモールとは対照的だ。これら郊外のショッピングモールは、コロナ禍が家計を直撃したことによる消費の生活必需品へのシフト、およびテレワークによる在宅勤務がもたらすいわゆる巣ごもり需要に伴う身の回り品への需要のシフトを背景に、売上の落ち込みは比較的軽度であった。
しかしここへきて、都心の商業店舗のテナントの売上げが回復しつつある。日本百貨店協会によれば、全国百貨店の2021年10月の売上は前年同月比2.9%増加した。ラグジュアリーブランドに加えて、ブーツやハンドバッグなどおしゃれ商材全般や高級時計の売上げが好調に推移している。前年に比べて都心の商業店舗の売上げは伸びているため、新たな出店に向けて動きはじめたテナントが増えている(CBRE ジャパンビューポイント 2021年11月1日)。
コロナ前の水準回復には時間がかかる
2022年もこの回復傾向が続く可能性は高い。ただし訪日外国人で賑わったコロナ前の水準に売上が戻るには時間がかかるだろう。リスクはコロナ禍の長期化や株安がもたらす富裕層の消費意欲の減退など。一方、物流施設は需給が引き締まった状態が続いている。
CBREの調査によれば、2021年第3四半期(9月)の首都圏大型マルチテナント型物流施設の空室率は2.6%と、2%台の低水準であった。実質賃料は坪当り4,470円で、対前期比横ばいであったが、外環道エリアは0.4%、国道16号エリアでは0.2%上昇した。物流施設は新規供給も多いが、需要もEコマースからを中心に旺盛であり、2022年も需給は引き締まった状態が続くだろう。
2022年の投資環境には、不透明感が漂う
CBREの調査によれば、2021年第3四半期(7-9月)の事業用不動産の投資額(10億円以上が対象)は1兆1,840億円で、前年の反動等により前年同期比77%増加し、第1四半期から第3四半期までの累計投資額 は2.6兆円で前年同期を2%下回った程度で堅調に推移している。
投資家の投資意欲は高い一方、Bクラスのオフィスビルでも3%前後の利回りで取引きされるなど、物件の取得競争が激しい状態が続いている。2022年に向けてのリスクは、まず金利動向にある。事業用不動産取引の大きな割合を占めるJ-REIT の投資口価格は、過去の実績から見て金利敏感であり、長期金利が上昇すれば、投資口価格の低迷を通じて資金調達力は低下する。また負債の調達コストにも影響を与えるため、不動産市場全体の取引量が急減するリスクがある。
更には、中国の大手不動産会社の財務リスクを含むグローバルでの金融リスクが顕在化すれば、これも不動産投資市場全体にネガティブな影響を与えるリスクがある。
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