これからホテルが進む道

ホテル業界は2020年度以降、コロナ禍の影響で業績が落ち込んでいたが、2022年10月以降はインバウンドも戻りつつあり、ファンダメンタルズが改善基調にある。ただ、景気の先行きには不透明感が漂っており、ホテル間の競争環境は引き続き厳しいと言えるだろう。こうした状況下で、中・長期の今後のホテルビジネスはどのような方向に進んでいくのか。将来のホテルビジネスを考えるうえで重要と考えられるトレンドを列挙した。

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テクノロジーの活用

テクノロジーの活用

ホテル業界では今後、オペレーション上でのテクノロジーの活用がますます加速するだろう。その背景には、慢性的な人手不足という問題があることは言うまでもない。テクノロジーでホテル業務を効率化したり、自動化したりすることはすでに喫緊の課題だ。人手不足に加えて、顧客層の変化に伴う顧客ニーズの変化に対応するという意味でも、先進的なテクノロジーを積極的にオペレーションに導入することが重要だろう。

顧客層の変化とは、ミレニアル世代(一般的に1981-1996年に生まれた現在27歳から42歳の世代)に加えて、Z世代(一般的に1997-2012年に生まれた現在11歳から26歳の世代)が成人に達し、デジタルリテラシー(デジタル技術を理解して活用するスキル)の高い年齢層が、日本の人口の約半分を占めて経済活動や社会活動のメインの存在になることを指す。

ミレニアル世代は、幼年期から青年期にIT革命を経験した「デジタルパイオニア」世代であり、パソコンや携帯電話やインターネットの発展とともに大人になっており、デジタルテクノロジーを駆使して生活している。

一方のZ世代はインターネットがない時代を知らず、生まれたときからネット環境が整っている「デジタルネイティブ」であり、物心ついた頃からスマートフォンが身近にあった「スマホネイティブ」でもある。

ミレニアル世代もZ世代も、情報収集からチェックアウトまで、スマートフォンですべて完結できるようなホテルサービスを期待している。具体的なテクノロジーとしては、AI(人工知能)とML(機械学習)を活用したオペレーション管理、スマートチェックイン、ロボットポーター、スマートルーム、チャットボット、ARアプリ、バーチャルコンシェルジュ、自動翻訳機などが求められるだろう。

サステナビリティの推進

サステナビリティの推進

最近は旅行者の間でもサステナビリティへの配慮や意識が高まっている。「サステナブルホテル」を紹介したり推薦したりするメディアも増えており、サステナビリティそのものが差別化要因となりつつある。

また、サステナビリティは投資対象としてのホテルのバリュエーション上も重要な要因になっている。

サステナビリティという概念は主に環境問題で用いられるが、事業活動においては、環境のみならず社会および経済に与える影響も重要視される。

日本政府観光局(JNTO)は、2021年6月に「SDGs への貢献と持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)の推進に係る取組方針」を策定した。この中で、JNTO が考えるサステナブル・ツーリズムとは、地域の「環境」のみならず地域の「文化」と「経済」を守る・育むことだと定義している。

ホテルにとってサステナビリティを推進する上での具体的活動としては、電力のグリーン化や食品ロスの削減、使い捨てプラスチック製アメニティの廃止、スマートチェックインによる紙資源の削減といった環境への配慮がまず挙げられる。

これらに加えて、地元の農家と提携した農業体験や、地元の文化財を巡るオプショナルツアーの提供や地元の食材を使った食事や土産品の提供などによる地域文化や地域経済への貢献も含まれるだろう。

旅行者の好みは多様化

旅行者の好みは多様化

旅行者の好みは多様化が進んでいる。さらに今日の旅行者はより新しい「体験」を求める傾向がある。また、訪れたホテルでしか体験できない特別な時間や場所を提供できるホテルを求める旅行者も多い。

ホテル事業者にとっては、これらの多様な好みに沿ったサービスを実現して、旅行者にとって最高の体験を提供することが非常に重要になっている。

今後旅行者が好むテーマとしては、豪華旅行、グルメ旅、ヨガやサーフィン、動物との出会いといった「体験型旅行」だろう。

体験型旅行としては、ロビーやバーでのライブ DJなど音楽中心のホテル体験、ウェルネスツーリズム(スパ、ヨガ、瞑想などを通して心身のリセットや精神面での発見や自己啓発をしたりする主にメンタルの健康に注目する旅行)、ヘルスツーリズム(体の健康に注目する旅行)、医療ツーリズム、ペット同伴の旅行、スポーツをテーマにしたホテルなどが挙げられる。

また昨今は、旅行者が宿泊施設をタイプ別で選ぶ機会が増えている。一般的なホテルのほかに、アパートメントホテル、サービスアパートメント、グランピング、さらにAirbnbもある。

アメリカのZ世代はホテルチェーンよりもAirbnbを好むという見方もあり、宿泊施設のタイプの好みも変化している。ホテル事業者は、旅行者の嗜好の変化を常に把握することで、今日の旅行者の嗜好に合わせたホテルサービスを提供することが可能となるだろう。

ステイケーションとマイクロツーリズム

ステイケーションとマイクロツーリズム

ステイケーションとは、「stay」と「vacation」を合わせた意味の言葉で、遠くに行く旅行ではなく、近場のホテルで休暇を過ごすという旅行のスタイルを指す。

飛行機や新幹線を利用しない近場が目的地のため、思いついたら気軽に楽しむことができる。マイクロツーリズムとは、「自宅からおよそ1~2時間圏内の地元や近隣への短距離観光」のことで、星野リゾート代表の星野佳路氏が提唱している。

ステイケーションもマイクロツーリズムも、観光地の混雑を避けながら、近場でリフレッシュするという点では、お互い似た観光スタイルだ。

ただしマイクロツーリズムは、地域の特性を活かした体験型アクティビティの提供など、地域との結びつきが強いのが特徴だ。移動距離が短い近場で、少ない荷物で身軽に旅行気分を味わったり、旅行者の視点で近隣の街や地域を見たりすることは、魅力的なレジャーとなり得る。また、利用者のリピート率を上げる仕組みを持つことで、収益の安定性を高めることもできるはずだ。

パーソナライゼーション

パーソナライゼーション

今後ホテルが展開するマーケティングやサービスにおいて、パーソナライゼーション(顧客の属性や行動履歴などのデータを基に、顧客一人ひとりにあわせてサービスなどを選定して提案する手法)が今まで以上に重要になるだろう。

インターネットの普及やSNSの浸透で情報収集チャネルが多様化し、顧客自らが必要な情報を主体的に収集・分析することが可能になったことで、生活や価値観の多様化が加速。顧客一人ひとりのホテルに対するニーズを的確に捉える必要性が従来に増して高まっている。

さらに、ホテルサービスそのものの価値だけでなく、ホテルを利用する前の対応から利用後のケアやサポートまでに体験したすべての価値を重視する顧客が増える傾向にある。

また、「自分の考えや嗜好に合っているかどうか、自分を理解してくれているかどうか」をホテルの選定基準とする顧客も増えている。これらのニーズに応えて「上質な体験」を顧客に提供するためには、顧客一人ひとりの理解と、その人に合った適切なアプローチを実現するパーソナライゼーションが不可欠となる。

これからは、顧客情報や過去の利用履歴など、CRM(顧客管理システム)をフル活用して、より細かな顧客のセグメンテーションを進めることが重要だと言えそうだ。

デザインによる差別化

今後もホテル間の競合は厳しさが続くと予想され、差別化戦略の重要性も増していく。

差別化戦略の具体的な選択肢として、価格戦略やサービスの差別化と共に、デザインの差別化、特にホテルの建物の内装デザインの差別化が重要だろう。

ホテルユーザーにインパクトを与える良いデザインを生み出すことにはいくつかのメリットがあるが、中でも統一感のある優れたデザインは強力なブランドの形成につながる。ブランドが形成されると、ユーザーから価格ではなくブランド力で選ばれるようになる。

またユーザーのロイヤルティを高め、継続的にホテルサービスを利用してくれたり商品を購入してくれたりするファンが増えていくことが考えられる。その意味では、内装デザインのみならずホテルのブランドロゴやWebサイトのデザインの重要性を強調しすぎることはないだろう。

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