花王、ライオンが歩調を合わせて次世代ヘルスケアへの注力を公表

花王、ライオンが歩調を合わせて次世代ヘルスケアへの注力を公表

トイレタリー、パーソナルケア業界の12月決算企業の2020年度業績が2月に相次いで公表された。決算説明会の席上では、経営陣から2021年度にとどまらず、長期のビジョンについても言及された。

この中で、花王とライオンは共に、従来の製品の枠にとどまらない、データを活用した新しいヘルスケア事業進出の方針を明確にした。

「もう一つの花王」が目指す未病・予防領域への進出

「もう一つの花王」が目指す未病・予防領域への進出

(参照:花王株式会社Webぺ―ジ、2020年12月期決算説明資料

花王は2020年12月に公表した「中期経営計画K25」で、「もう一つの花王」として新事業「デジタル・プレシジョンヘルスケア」を指導させると発表した。21年2月の決算発表時点ではより詳細な説明が加わり、既存事業と関連するビジネスモデルについて言及した。

花王はプレシジョンヘルスケアを、「高精度生態解析による恒常性強化ソリューションの提供」と説明。

例えばウイルスのような人体に危害を加える物質を研究し、本質的な危害の原因や、遺伝子レベルでの座標特定による伝搬経路や遮断方法などの周辺情報を網羅的に把握する。このデータをデジタル・プラットフォームとして、治療や予防の様々な領域で利用することを意図しているとのことである。

疾病予防事業への参入を示唆

疾病予防事業への参入を示唆

花王は2021年度から報告セグメントを変更。従来のヒューマンヘルスケア事業を分解し、洗剤やボディ・ヘアケアといった事業の中に、健康や衛生の概念を組み込んだ。更に新たなセグメントとして、「花王グループの基盤技術を活用して人類の命を守る」ライフケア事業を新設した。

既存事業で培った感染防御、表皮化学、菌やウイルスなどの基盤研究に加え、病理研究領域を強化することで、抗ウイルス技術による感染防止や、人体の恒常性回復による疾病予防事業への参入を示唆している。

花王は既存のコンシューマープロダクツにおいても、これらのデータを活用することでヘルス&ビューティー、衛生、環境といった付加価値を高めると共に、医療関連企業や大学、自治体などへのデータ・プラットフォームの提供といった連携も視野に入れている模様である。

ライオンは既存事業領域の拡張によりヘルスケア事業展開を加速

ライオンは既存事業領域の拡張によりヘルスケア事業展開を加速

(参照:ライオン株式会社Webぺ―ジ、2020年12月期決算説明資料

ライオンはコロナ感染拡大の影響を受けて、2020年度で終了した中期経営計画に続く新中期経営計画策定を先延ばしている。

その中で、2021年2月12日の決算発表と併せて、ライオンが2030年に目指す経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」の実現に向けた、中長期経営戦略フレーム「Vision2030」を公表した。

ライオンはこの中で「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」ことを企業の存在意義とし、4つの戦略領域での価値提供により事業成長をめざすとしている。

長期的な戦略領域のうちの3領域がオーラルヘルス、インフェクションコントロール、ウエルビーイングとヘルスケア関連事業となっているが、ここでも対象は「医療」ではなく「日々の生活の中での健康への貢献」に向いている。

口腔衛生の知見を生かす

口腔衛生の知見を生かす

特にライオンはオーラルケア領域では数十年にわたり児童の歯磨き教室やアジア地域での歯磨き習慣啓蒙の支援を続けており、口腔衛生の向上と健康状態改善に関する研究を蓄積している。

Vision2030ではこれを更に発展させ、蓄積した口腔健康情報と全身疾病との関連データを活用し、パートナーとも連携してオーラルヘルスを起点に様々な領域での健康増進や疾病予防に向けたソリューション提供までを目指している。

ウエルビーイング領域においては、消費者のセルフケア習慣を起点に、消費財の提供にとどまっていた既存事業の枠を超えて、ライフスタイルに寄り添った新たなサービス、ソリューションを提供する「心と体のトータル・ヘルスケア・サービサー」への進化を目指している。

いずれの領域でも、同社がこれまで消費者の生活に密着した製品提供を通じて蓄積したデータを活用し、個々の消費者へのパーソナルサービス提供にまでつなげることが視野に入っている。このためにライオンでも、外部パートナーとの連携を含めたデジタル推進を加速させることは不可欠となっている。

コロナ禍による生活意識の変化

コロナ禍による生活意識の変化

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の発生により、世界中でハンドソープや手指消毒液の需要が拡大。トイレタリー業界は、これら感染防止製品の供給に大きく貢献した。

従来からトイレタリー業界では、医薬品事業を有する米ジョンソン&ジョンソンやプロクター&ギャンブルのように、ヘルスケア領域と深くかかわりを持つ企業が多い。国内でもライオンはOTC医薬品事業を持ち、一方でロート製薬や小林製薬のように消費財に注力する医薬品メーカーも存在する。

しかし、今回の花王、ライオンの動きは従来とは異なり、生活者に密着した事業で蓄積したデータを活用し、医療やシステムなど異業種パートナーとの連携も視野に入れ、治療よりもむしろ、生活の中での健康増進や疾病予防をターゲットとしている。

まとめ

コロナ禍の中で人々の衛生や健康についての意識が高まり、持続可能な社会に対する企業の姿勢も問われる新しい時代に呼応した両社の新たな挑戦は、5年、10年という時間軸で消費者の生活に大きな変革を起こすことが期待される。

関連記事

国による「中小企業いじめ」の社会的リスク

菅政権のブレーンとして中小企業の淘汰・再編を指摘するデービッド・アトキンソン氏。彼の出身である英国の中小企業事情を調べてみた。英国では、日本以上に中小企業数が多く、企業数の増加も続いている。米国と中国を除けば、日本は中小企業数が極端に多いわけではない。中小企業の淘汰・再編にフォーカスする経済政策が本当にマクロ経済の復活につながるのだろうか。

EVは本当に最適か?② ガソリン車はなくなるのか 次世代燃料「e-fuel」とは

日本の自動車産業にとって、EVは最適な手段なのであろうか。第2回では、次世代燃料「e-fuel」について紹介するとともに、それが将来のHEV(ハイブリッド車)とBEV(外部充電式電気自動車)の販売シェアに及ぼす影響などについて考察する。

任天堂は、新たな黄金期到来か?「サイクル」のピークか? 新体制下での最高益更新

任天堂はGW明けの2021年5月6日、過去最高益となる2021/3期決算を発表した。Wiiが大ヒットしていた2008/3期以来13年ぶりの更新となり、現在時価総額は8兆円を超えた。コロナ禍の「巣ごもり」による追い風はあったものの、40代で老舗企業を率いる古川俊太郎社長の下、若い力とシニア世代の力を融合させたガバナンス例として注目される。任天堂の好調は循環的な「波」によるものか、新たな成長トレンド入りなのか、検証した。

ランキング記事

1

プロスポーツチームの戦略オプション コロナ禍でとるべき選択とは

近年、国内においてサッカー、野球、バスケットボールを中心に各種競技でプロスポーツチームが多数誕生しており、スポーツ市場は拡大傾向にある。一方、経営状況が厳しいチームが多く、組織の維持・発展に向けては、地域・チーム特性を活かした独自戦略の構築が求められている。

2

中国で「食品ロス削減令」 農業振興の必要性高まる

農業国から先進国=工業国へ発展を進めてきた中国が、大食いや食料ロスを規制するとともに、農業拡大を強調している。背景には、都市化率上昇と共に、中国の食料課題が、世界にも大きな影響を与えている事情がある。

3

マスクの基準ない国、日本 JIS規格採用で生活の「質」改善を

マスク着用は、「生活習慣」として定着した。COVID-19(新型コロナウイルス)感染症の拡大から約1年半、性能や品質に基準のなかった日本で、業界団体によりJIS規格導入の動きが進む。本稿ではマスクの機能的な進化と課題、今後の方向性について考察した。

4

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

5

任天堂は、新たな黄金期到来か?「サイクル」のピークか? 新体制下での最高益更新

任天堂はGW明けの2021年5月6日、過去最高益となる2021/3期決算を発表した。Wiiが大ヒットしていた2008/3期以来13年ぶりの更新となり、現在時価総額は8兆円を超えた。コロナ禍の「巣ごもり」による追い風はあったものの、40代で老舗企業を率いる古川俊太郎社長の下、若い力とシニア世代の力を融合させたガバナンス例として注目される。任天堂の好調は循環的な「波」によるものか、新たな成長トレンド入りなのか、検証した。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中