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欧州M&A市場の魅力 フロンティア・マネジメントがフランス企業と資本業務提携をした理由
フロンティア・マネジメント(以下「当社」)はフランスのM&A専門ファームとの資本業務提携を発表した。当社のような日系独立ファームが欧州企業に資本参加するのは一般的ではないかもしれない。当社が欧州のM&A市場をどう観察し、どのような手を打つのかについて、本稿で述べたい。
フランスのM&Aファームに出資
当社は2023年7月14日、フランスに本社を置くM&A専門ファーム「Athema」社との資本業務提携を発表した。
Athemaへの当初の出資比率は40%だが、2年後の2025年に20%追加出資して、計60%まで引き上げる権利を持つ。権利行使後、Athemaは当社の連結子会社となることを想定している。
Athemaは20年以上の社歴を持ち、約20名の社員を擁する。創業者と筆者は10年近い交流があり、欧州・日本のM&Aを活性化させようとの思いが、今回の資本業務提携に発展した。
日本では欧州のM&Aについて、それほど多くの情報が流布しているわけではない。そこで本稿では、欧州のM&A市場に対する当社の視点を共有したい。
欧州で活発な中小型のM&A(約300億円以下)
過去10年超の地域別M&A件数を見てみよう。
EMEA(欧州・中東・アフリカ)の件数は、北米やアジア・太平洋には及ばないものの着実に増加傾向にある。
図表1
欧州における主要国別M&Aの状況は図表2、3のとおりである(参考値として日本の数字も記入)。
なお、図表2は国をまたいだ案件が各国にダブルカウントされており、それらを単純合計した数値と図表1の数値とは整合しない。
イギリスのM&Aは件数・金額ともに、日本を上回っている。フランス、ドイツ、イタリアでは、件数でみると日本に若干及ばないものの、金額では日本に匹敵している。
特筆すべきは、件数面で200百万ユーロ(約300億円)以下の中小型のM&Aが欧州各国でも活発なことだ。日本の中堅企業にとっても欧州におけるM&Aの機会は十分にあると推測できる。
図表2
図表3
「日本企業の欧州企業買収」が与える印象は?
イタリアのあるM&Aファームの社長と会食した時のことだ。私は「日本企業に買収されることを欧州の創業者や役員はどう感じるのか?」と質問した。
すると、興味深い答えが返ってきた。
「米国企業による高値での買収をイタリアの創業者は必ずしも好まない。仲間内では、高値に目がくらんだヤツとさえ言われることがある。日本企業のように、ブランド価値や歴史を大切にしてくれる買い手を望むものだ」
と。酒の席であるし、私へのお世辞もあるだろう。それでも、西洋の影響を受けたアジアの国として、日本企業が買い手になることへの期待感を筆者は感じた。贔屓目過ぎるかもしれないが。
PMI(買収後の経営統合プロセス)も、欧州と米国の間は容易ではない。イギリスのM&Aアドバイザーと話した際、「イギリス企業にとって、PMIが最も難しいのは米国企業だ」とコメントしていた。
ウクライナ戦争後、クロスボーダービジネスにおいてBIRCsと呼ばれる新興国の存在感は希薄化している。むしろ、旧西側を軸に、新しいブロック経済が胎動している。
そうした環境下において、欧州における日本企業のM&A機会は従来以上に大きくなっているのではないだろうか。
欧州におけるM&Aファームの状況
欧州におけるM&Aのアドバイザリービジネス市場は、グローバルに拠点展開する会計系ファームが上位を独占している。
図表4は主要国のM&A件数を、アドバイザリーファーム別に集計したものだ。イギリス、ドイツ、イタリアでは、会計系大手が上位5社のうち4社を占めている。
一方でフランスは多少様相が異なる。
ローカル独立系ファームが上位に食い込んでいるのだ。当社が資本業務提携したAthemaも2022年は年間15件の案件を成立させており、あと数件の積み上げでこの図表に名前が記載されることとなる。
フランスほどではないが、他の欧州主要国でも上位5~20位にローカル系アドバイザリーファームがランクインしている。ファミリービジネスが多く、中堅の投資ファンドも活躍していることが背景にあると推測される。
米国のM&Aファームの人間と話をした際、「欧州、特に大陸欧州はファミリービジネスが多く、米国人はなかなか入り込むことができない」と言っていたことを思い出す。餅は餅屋なのかもしれない。
図表4
日系独立ファームによる欧州進出は限定的
日本の独立系ファームによる欧州進出はこれまで限定的だった。独立系のM&A専業のファームで欧州に拠点を持っている企業はほぼ皆無である。コンサルティングファームでも、アビームコンサルティングなどわずかな例に限られている。
EUが発足して通貨は統合されたとはいえ、言語や市場が細分化され、国ごとに文化も異なることから、欧州はビジネスとして難しいのかもしれない。ファミリービジネスが多いために、外国企業にとって入り込むことが容易ではないのかもしれない。
加えて、仮に良好なターゲット企業を買収したとしても、買収後の経営を担うことができるマネジメントが日本企業に育っていないという事実もあるだろう。
一方で、少子高齢化が進展する日本、地政学リスクが高まる東アジアなどを考慮すると、欧州の魅力に改めてフォーカスすべきとも考えられる。
当社としても、今回のAthemaへの資本参加をスタートとして、欧州において地理的かつ業容的な広がりを志向していくことを考えている。
地理的観点からは、フランス以外の欧州国家への広がりだ。資本参加の有無にこだわらず、欧州主要国への拠点展開や提携構築が一つの選択肢だろう。
業容的観点からは、M&Aサービス以外への広がりだ。M&Aの前後のプロセスである「M&Aターゲット探索」や「PMI」が選択肢となるだろう。
当社は創業以来、「コンサルティング+M&A」というハイブリッド型ビジネスモデルを愚直に遂行してきた。このハイブリッド型の強みを欧州でも再現できることを願っている。
まとめ
これまで欧州は、M&A市場として日本企業の十分な注目を必ずしも浴びてこなかった。しかし、欧州は日本と同様、中堅のM&Aが活発であり、独立系アドバイザリーファームも活躍するダイナミックな市場だ。
当社は、日本で展開するハイブリッド型ビジネスモデルを軸に、欧州市場を開拓していくことを志向している。それこそが、日本企業のグローバル展開の一助になると考えているからだ。今回のフランス企業との資本業務提携はその一つのマイルストーンである。
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