取締役会の実効性評価とは?

2021年6月に発表された新たなコーポレートガバナンス・コードや、東京証券取引所の市場区分変更に伴う2022年4月のプライム市場、スタンダード市場、グロース市場への一斉移行を踏まえ、従来にも増してガバナンスの強化が話題となっています。 プライム市場に上場する会社は多くの項目でコーポレートガバナンス・コードへの遵守(コンプライ)が求められており、高い水準でのガバナンスの構築が必須と言えるでしょう。 ガバナンス強化としての取り組みのひとつが取締役会の実効性評価です。取締役会自体が、その役割を果たせているかを確認し、そして反省し、不足している部分を改善する取り組みを行うことでガバナンスの高度化がもたらさせると考えられており、上場会社にとって重要な取り組みの一つです。 そこで本記事では、取締役会が、期待されている役割をどの程度果たせているかを評価する取り組みである取締役会の実効性評価について解説します。

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取締役会における実効性評価の必要性

取締役会実効性評価はコーポレートガバナンス・コード、原則4-11、および補充原則4-11③に明記されている取り組みで、「取締役会全体としての実効性の分析・評価」ということができます。

コーポレートガバナンス・コード【補充原則4-11③】
取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

ポイントとしては、①「取締役会全体の実効性について分析・評価」をすること、②「その結果の概要を開示すべき」という点になります。

まずは取締役会全体で、自分たちの会社の取締役会が期待通りに機能しているかという点を取締役会メンバー自身で評価し、そして必要な部分を反省するとともに改善すること。

そして、その結果については株主他のステークホルダーの目につく場所に開示することが要請されているということになります。

実効性評価の方法や開示方法については先進的な企業の事例が複数存在しますので、それらをもとにご紹介します。

取締役会における実効性評価の方法

取締役会実効性評価の方法は、大きく①自社による実施と、②外部機関への委託の2つのパターンが存在します。

後述しますが、自社による実施においては主に、取締役会メンバーへのアンケート実施を定期的に行い、定点観測を行うことで自社の取締役会の有効性や実効性を自社で評価し、改善の糸口を模索するという方法です。

一方で、外部機関への委託については、自社による実施だと主観的な評価になりがちな点を排除するために、客観的な視点から自社の取締役会を評価してもらい、そのフィードバックから反省点や改善点を見出し、改善につなげる方法です。

本記事では詳述しませんが、取締役会メンバーのスキルマトリックスと呼ばれる、取締役が個々に有するスキルの一覧化と、その外部開示もコーポレートガバナンス・コードでは求められています。

スキルマトリックスのための評価、そして実効性評価を合わせて客観的な視点を取り入れるために外部に委託している企業も多くみられます。

関連記事:スキルマトリックスはなぜ必要なのか 開示企業の例とともに解説

自社による実施の主な方法(アンケート・インタビュー)

自社による実施の主な方法は取締役メンバーへのアンケートとインタビューです。

定量的な集計が可能なアンケート

アンケートは取締役会事務局などがメインで作成する取締役会の実施方法やガバナンスに関するアンケートを配布し、それに対して回答を求める方式です。

定量的なアンケート集計ができることや、取締役会メンバーの長時間の時間拘束を行わないことがメリットですが、定性的な情報収集には限界があります。

定性的な意見を集約できるインタビュー

一方で、インタビューは取締役会事務局などがインタビュアーとして取締役会メンバーに対してインタビューを行い、個々のメンバーが感じている問題点など、定性的な側面を深掘りすることにメリットがあります。

取締役会実効性評価は、評価後の分析に基づく取締役会の改善を行うことを目的に行うため、定性的な情報を多く確認できるインタビューはその点に長けています。

しかしながら、一定時間取締役会メンバーの時間を拘束してしまうという点や、定量的な集計分析が難しい点などがデメリットです。

また、事務局の声として聞かれるのは、立場的にインタビュアーである取締役会事務局は、ある程度の配慮を取締役会メンバーに対してしながらインタビューすることになり、本質的な議論がしづらいことがあるという意見です。

多くの社内取締役が事務局メンバーより「上位役職者」にあたることが多い日本の取締役会構成においては、そのような弊害が出てきてしまっても違和感はありません。

その側面を排除するためにも、インタビュアーは外部のコンサルティング会社などに委託することで、より、「突っ込んだ」質問をしてもらうという方法が考えられます。

アンケート・インタビューにおける確認ポイント

アンケートやインタビュー実施における確認ポイントは主に以下の点となります。

  • 取締役会のメンバー構成
  • 取締役会での発言の頻度や偏り
  • 議論される内容
  • 取締役会メンバーへの情報提供

など

例えば、以下のような質問項目が想定されます。

  • 昨今のダイバーシティなど、取締役会メンバーの「多様性」が求められている状況下において、自社取締役会のメンバー構成が妥当か否か。
  • 一定のメンバーばかりが発言していて、その偏りがないか。
  • 議論されている内容が、大局的な経営視点に立って、自社の将来の発展に資する議論になっているか。
  • 管掌部門ではない事業や、社外取締役にとって詳細を理解していない事項の議論などの情報提供が事前に適切になされているか。

先進的な企業では取締役会議長に社外取締役を就任させ、緊張感を持った取締役会運営がなされている一方で、オーナー企業と呼ばれる上場企業も少なからず存在します。
その場合、往々にしてオーナー社長が一方的に取締役会でも発言し、経営に関する建設的なディスカッションがなされていない上場企業もあるようです。

実効性評価においては、取締役自身が自社の取締役会に対してどう考え、自省の念も込めて、どうあるべきか考えているのかを聞き出す良いタイミングなるものと考えられます。

一方で、特にオーナー企業などの場合は、オーナー社長に配慮して正直なコメントを出さない取締役会メンバーも想定されることから、アンケ-トを無記名にするなどの方法で、可能な限り本音の意見を聞き出すことが肝要です。

外部機関委託によるアウトプット

現在多くのコンサルティング会社が取締役会実効性評価の受託サービスを展開しています。

外部機関による実効性評価は時代の潮流を踏まえた最先端の手法で客観的な第三者の視点で取締役会を評価し、将来的な改善ポイントなどの示唆を会社に対してしてくれる点がメリットです。

特に、取締役会メンバーも外部のコンサルタントに対しての方が本音を言いやすかったりする可能性もあり、かつ同業他社比較やコーポレートガバナンス強化のトレンドにマッチしたアウトプットを得られるというメリットも考えられます。

一方で、コンサルティング会社に委託するとそれなりに費用もかかり、また、「先進的なガナバンス」に基づくアウトプットが、実は自社の実態と大きく乖離したものとなってしまう可能性も少なからずあります。

例えば、社内取締役が全員内部昇進した男性の事業部門管掌の取締役で、社外取締役が社長のお友達といった、典型的なオーナー企業があったとします。

そこに、「先進的なガバナンス」という名目で、女性や外国人を登用することを強く勧めたり、取締役会議長を社外取締役にしろと強く勧めたりしても、すぐに変わるものではありません。
逆に取締役会にとっては自社の実態に合っていない空虚な提案として映ってしまう可能性も生まれます。

段階的なガバナンス強化という点からは、まずは自社でアンケートやインタビューを中心とした実践を先行させ、一定のガバナンス強化の手応えを感じられた段階で外部機関を活用するというステップを踏むべきでしょう。

実効性評価の際のポイント

取締役会実効性評価はコーポレートガバナンス・コードでその必要性が謳われている事項であることから、少なからず、「やらなければいけないから、やる」と考えている企業もあるでしょう。

しかし労力と時間、そして費用をかけて評価を行う、その評価に実効性を持たせる必要があります。

したがって、実効性評価を行った後に結果を取りまとめ、気になった点や問題点として認識された点についてはしっかりと議論する必要があり、必要に応じて現在の体制の見直しを行うことが必要です。

また、取りまとめられた結果については開示することが求められています。

評価の手法やその結果、そして自社が考える、評価を踏まえた今後の改善策についてしっかりと議論を行い、ステークホルダーにわかりやすく開示することが必要です。

開示の方法としては自社ホームページにコーポレートガバナンスの項目を作り結果について公表している企業が多いようです。

加えて、実効性評価は毎年実施することも求められています。

当然、そのタイミングで実態に見合った評価を行うことが必要ですが、コアとなるべき項目については時系列での定点観測ができるように質問項目を設定するなどの工夫が必要です。

まとめ

今回はコーポレートガバナンス・コードにおいてその必要性が謳われている取締役会実効性評価についてご説明しました。

実効性評価は現状の取締役会の実態を浮き彫りにするとともに、ガバナンス体制についても確認することができ、将来のあるべき経営体制について議論できるよい機会ということができます。

単にコーポレートガバナンス報告書で「コンプライ」するために実施するのではなく、実効性のある議論を行うための題材と位置付けて実効性評価を行うことが必要です。

そのためには日ごろから取締役会に対してコーポレートガバナンス強化の必要性をインプットし、必要に応じて効果的な議論ができるように機運を醸成してゆくことが重要です。

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