時代から取り残された工場

朝礼

「うちは業界シェア60%、いや、もっとあるかなあ」

社歴の長いオーナー系企業。寡占化した市場ではトップシェアを誇っている。
気の良い社長は、明るくこう答えていた。

業界規模は縮小傾向にある。競合先が次々と姿を消して行く中、独自の製造方法から市場における「存在意義」を確保してきた。自社の変革を意識する必要性を感じず、事業計画すら作成した事がないという。

「売り先も限られているし、毎月の販売枚数もここ数年、ほとんど変わらない。だから、計画なんて作ったことも無いんだ」。

取引先との契約書も存在せず、PC導入も遅れ、社内帳簿にも手書き部分が相当ある。

時間の流れが止まっているような感じだ。外部要因である競合脅威が無いため、更新投資も一切せず、老朽化した工場はあたかも閉鎖前の遊園地さながらだった。

工場見学をしているとき、社長が口を開いた。
「ほら、この機械、イタリア製なんだけど、日本では作ってないんだよ。だから、ほら、この辺の部品なんか、全部手作りで修理してきたんだよね」

続けてこう付け加えた。
「新しい機械に変えれば、もっと効率が上がるんだけどなあ。おそらく、返品も減るんじゃないかな」

頭の中で、非効率の定義、数値化、返品対応、付随コストなどの単語が浮かんでくる。

経営改革に向けた、戦いの始まりだった。

つづく

連載開始によせて

伴奏

新しくコラム連載を始めることとなったが、編集担当者との最初の論点は、そのタイトルだった。タイトルは、会社で言えば、経営理念のようなもの。経営理念というものは、会社のカルチャーを支える最も重要な方針であり、社員が判断に迷ったならば、立ち戻るべき指針こそが経営理念であると考えている。したがって、連載コラムのタイトル決定に際しては、相当に時間を費やす結果となった。

当初、投資実行後のハンズオンサポートという役務から、「伴走者」というものを思いついた。マラソンの伴走者は、障害を持たれた方のことを十二分に理解し、その方の設定した目標の達成を、全身全霊でサポートする。共に泣き、共に笑う姿こそ、今回の連載コラムに相応しいのではないか。暫くはこれが良いかと思っていたところ、急に、ある重要なポイントに気づいた。

足りないと、ふと気づいたのは、社会益の視点だった。俗に、三益と言うが、私は社会益、顧客益、自益を三益として明確な判断基準としている。伴走者の場合、走者(顧客)、伴奏者(私)の二人三脚の完成度が追及されるが、社会益の視点がどうにも弱く感じられた。あるいは、間接的な気がしてならなかった。この場合の社会益の追求とは何であるか。

同音異義語で浮かんだのが「伴奏」だ。そう言えば、昨年、懇意にしていただいている元同僚、松田亜有子さんが『クラシック名曲全史 ビジネスに効く世界の教養』をご出版された。一昨年の『クラシック音楽全史 ビジネスに効く世界の教養』の第二弾である。どちらもクラシック音楽の歴史、音楽家を取り巻く環境など、非常に良くまとまっており、楽しく完読することが出来た。

「伴奏者」とすることにより、聴衆という「社会」が極めて重要な対象となり、上記、三益の調和合一が明確に配置される。結果、伴奏者という一般名詞をシンボリックに使用する事とした。

これから数多くの発信を行いたいと考えているが、三益の調和剛一から外れており、伴奏としてなっていないなどのご指摘があるならば、是非、叱咤激励していただければ幸甚だ。

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