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事業承継型M&Aを成功へ導くためのアドバイザリーの選び方
昨今、書店やECサイトにはM&A関連の書籍が並び、金融機関や仲介会社主催の中小企業向けの事業承継・M&Aセミナーなども頻繁に開催されている。中小企業オーナー経営者(以下、オーナー)と話をすると、M&Aの知識を豊富に持ち合わせている方が多くなったということも実感する。しかし、オーナーにとって身近な事業承継の選択肢の一つとして定着した一方で、M&Aを成功させる重要なポイントを正しく理解されていないケースも散見される。本稿では、事業承継型M&A成功の第一歩をテーマに解説したい。
事業承継M&Aでは最適なアドバイザーの選択が重要
事業承継型M&Aにおいては、売り手・買い手双方と契約を結び成約まで導く「仲介方式」をとることが一般的になっている。一部に「両手取引」、「利益相反」といった批判の声もあるが、中小企業のM&Aを「成約に結びつける機能」としては有効な役割であると言えよう。
オーナーがM&Aを検討するにあたり、以下のプロセスを推奨したい。
1.要件の整理
まずは次の要件を整理する。
- 優先すべき事項(経済対価の最大化、事業の成長、役職員をはじめとする利害関係者の納得感など)
- 自社の規模、業界内でのポジション
- 想定される買手候補が複数存在するか
など
2.FAか仲介会社を選択する
上記の要件が決まったら、自社のみと契約するファイナンシャル・アドバイザー(以下、FA)または仲介会社(以下、FAと合わせてアドバイザー)のどちらを選択する。
例えば、複数の買手候補企業が存在する事業内容・規模を有する企業であり、最大価値での売却を最優先に考えるケースではFAを起用することが合理的である。逆に買手候補先を容易に想定できず、事業承継の目的を達成するために成約することを最優先に考えるのであれば仲介契約が適しているケースといえる。
頻繁にM&Aを検討する大企業においては、繰り返し専門家を起用するため、FAのクオリティや適切な費用(報酬額)についての認識がある。
一方で、自社を売却するオーナーにとっては一度だけの取引となるので、起用するアドバイザーの選択が難しいが、成功するM&Aの最重要な点となるので慎重な検討を要する。
アドバイザーは専任契約と非専任契約、どちらが望ましいか
ここまで信頼できるアドバイザーを選定することが重要であることを述べてきたが、最近では単独のアドバイザーと専任契約を結ばずに、複数社と非専任契約を結び買い手候補先の選定まで競争をさせようとするケースが散見される。
確かに競争環境を作るというのは一見合理的な判断のように思われるが、これはお勧めできない。M&Aは不動産取引のような「モノ」の売買ではない。
株式という「資産」の承継と同時に、「ビジネス」を承継するため、交渉内容は多岐にわたる。中でも情報管理、プロセスの管理はM&Aの肝であり、交渉の窓口は一本化することが望ましい。
仮にアドバイザーを比較検討したい場合は、契約前に複数社から提案を受けコンペによって専任する方が合理的である。
複数の買手候補先から条件提示を受けたい場合には、秘密保持契約を締結した候補先に「Information Memorandum(インフォメーション・メモランダム)」(以下、IM)を開示する(プロセス図④)。IMとは、対象会社の情報(事業の概要、商流、組織体制、財務情報、事業計画など)を取りまとめた資料である。
IMに記載する内容によって買手候補企業の投資判断や企業評価が大きく異なる可能性がある。そのため、複数のアドバイザーがそれぞれ作成したIMを基に条件提示を受けても質や情報量に差があれば、複数の買い手候補先が提示した譲受条件の比較検討が困難になるだろう。
また、プロセス全体を取り仕切る役割がいなければ、IM(プロセス図④)を何社の候補先に開示されたのか、各候補先の検討の進捗状況など、オーナー自身がプロセス管理をしなければならなくなる。
条件提示(プロセス図⑤)もオーナーがアドバイザーに指示を出し、間接的なコミュニケーションによってスケジュール管理をしなければならない。
情報・プロセス管理が一元化されていない案件は、買手候補も積極的に検討しにくい側面もあるので留意が必要だ。
また、オーナーにしてみるとM&Aでの譲渡プロセスは本業と平行して進めなければならず、相応の負担がかかる。信頼できるアドバイザー1社と専任契約することで、結果として交渉プロセスの負担が軽減され効率的に進められるだろう。
信頼できるアドバイザーを探すポイント
中小企業庁「M&A支援機関登録制度」には二次公募終了時点で2,823件の個人・法人が登録しており、既に国内には数多のアドバイザーが存在している。
では、どのような点から信頼できるアドバイザーを選べばいいのだろうか。
1.会社規模
上記2,823件の内55.4%にあたる1,563件のアドバイザーが、M&A支援業務専従者を「0~2名」しか置いていない。十分なサポートができる組織になっているとは言い難いのではないだろうか。
2.業歴
設立年代別にみると約7割に当たる1,957社が2010年代以降に設立されている。時流にのった新興企業が大勢を占めているといえる。
M&Aを遂行していくためのノウハウや、クライアント企業とのネットワークは信頼できるアドバイザーの重要な要素であり、時間をかけて実績と共にアドバイザー社内に積み重ねられていく側面もある。
3.経験値の高い担当者の存在
M&Aを遂行していく中では、様々な壁があり、それを乗り超えるには、会計・税務・法務の知識に加えて、経験値の高いメンバーがいることが求められる。
そのようなメンバーを編成できるかどうかも重要だろう。
最終的には、担当者の人となりや誠実さというところが重要になるのは間違いない。それは外部情報で判断できるものではないので、結局は普段の身だしなみや、言葉遣い、メールのレスポンスの早さなど、このようなところでご判断いただければと思う。
(出所:中小企業庁ホームページ)
最後に
冒頭で触れたように昨今、オーナー自身も相当なM&Aの知識を持つようになってきた。しかし、書籍などで知識を身につけても、自身で買い手と交渉などを進めることはお勧めできない。
M&Aの交渉や手続き論点が多岐にわたり、適切な判断には経験やノウハウが必要だ。日常の業務を行いながら未経験のオーナーが単独で進めることは、事業に支障が出る可能性があり、多くのリスクも存在する。
自身で得た知識を判断基準に、ぜひ信頼できるアドバイザーを見つけ、M&Aを成功させる第一歩としていただきたい。
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