マスクの基準ない国、日本 JIS規格採用で生活の「質」改善を

マスク着用は、「生活習慣」として定着した。COVID-19(新型コロナウイルス)感染症の拡大から約1年半、性能や品質に基準のなかった日本で、業界団体によりJIS規格導入の動きが進む。本稿ではマスクの機能的な進化と課題、今後の方向性について考察した。

シェアする
ポストする

マスク規格で後れを取る日本

マスク規格で後れを取る日本

マスクはその用途により家庭用、医療用、防塵保護用(産業用)の3種類に分類される。

米国では感染性エアロゾルに対する医療用マスクを「サージカルマスク」として、 米国試験材料協会(ASTM)の素材規格に基づく性能試験成績と共に、製品ごとにFDA(米食品医薬品局)に登録し、登録番号を表示することを求めている。

産業用防塵マスク規格である米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の規格を満たすN95マスクであっても、医療機関で使用する場合には改めてFDAへの登録を求める徹底ぶりである。

またEUでもサージカルマスクにはEN基準を要求事項とするCEマーク検査が求められている。尚、フランスでは2021年1月より開始された新ルールでは、非医療用の一般マスクについても、粒子ろ過効率、通気性、顔へのフィット感などの認定基準を設け、感染防止用として推奨している。

日本には、医療用マスク・家庭用マスクの性能規格基準がない

日本では現在、防塵保護用マスクについて安全性と国際整合性を求めた12種類の国家検定規格が定められている。

一方で「医療用マスク」「家庭用マスク」は薬機法に該当しない雑貨品扱いとなり、性能についての検定規格は存在しない。

医療現場での個人防護用具となるサージカルマスクにも呼称や性能についての法的な規定はなく、個々の医療機関において米国基準等を参考に製品を評価・選択している状況である。

家庭用マスクでは、その基本性能はフィルタによる微粒子等の捕集(ろ過)効率と、フィルタ部以外からの微粒子侵入を防ぐ形状で左右される。最近はフィルタ性能数値を記載した製品は増加しているが、記載事項の信頼性の判断は困難であり、形状に至っては、そもそも正しい装着方法が記載されていな製品も多く存在する。

マスク供給量は企業努力によって安定し、様々な素材・機能の製品が登場

マスク供給量は企業努力によって安定し、様々な素材・機能の製品が登場

この1年超の間で、マスク需要は世界的に大幅増加となった。当初の品不足は多くの企業の参入や増産努力によって解消し、日本国内では価格もほぼコロナ前の水準までに落ち着いてきている。

マスク着用の定着に伴い、暑さや蒸れ、肌荒れ、息苦しさ、また表情によるコミュニケーションの困難さといった生活する上での不快感や不便に対応し、様々な製品が登場している。

表情の見えるマスク

表情の見えるマスク

▲写真説明:ユニ・チャームが4月に発売した「顔が見えマスク」
出所:マスク ユニ・チャーム ダイレクトショップ(公式通販サイト)

マスクでは素材の機能やデザインの多様化にとどまらない。

先日はユニ・チャームが、唇の動きを読んでいる耳の聞こえにくい人や、表情が重要なコミュニケーションになる保育現場などに配慮した、透明な表情の見えるマスクを発売した。

このようにマスク生活のデメリットを軽減する工夫は、マスクのみならず、肌荒れや化粧崩れ、暑さ対応などの「マスク関連カテゴリー」でも拡大した。この1年超で、マスク生活の質は、より快適に進化したといえる。

一方で、新規参入が相次ぐに伴い、製品は玉石混淆となり、特に家庭用マスクでは、素材の質や形状といった本質的な機能に疑問を持たざるを得ない製品が存在していることも否めない。

大幅に拡大した国内マスク市場で、公的な規格の確立が進む

大幅に拡大した国内マスク市場で、公的な規格の確立が進む

▲図表:一般社団法人 日本衛生材料工業連合会 | 統計情報からFMI作成

コロナ禍を受けて2019年度(2019年4月~2020年3月)の国内マスク流通量(国内生産・輸入を含む)は、前年度を9億枚強上回る64億5千5百万枚に増加(JHPIA調べ)した。
2020年度はまだ発表されていないものの、倍増以上になったと見込まれている。

マスクにJIS規格導入へ

このような市場の急拡大を受けて、業界団体である日本衛生材料工業連合会(JHPIA)は厚生労働省、経済産業省と共に、マスクの品質管理への日本産業規格(JIS規格)の導入を進めている。

JHPIAの下部組織である全国マスク工業会では既に会員企業に向けた自主基準を有し、これを満たす製品には工業会の会員マークをマスク製品に印字、使用できることとしている。

この自主基準は、製品に期待される効果やフィルタ性能の「表示・広告」、ホルムアルデヒド検査などを含む「品質」、製造工場の環境管理を含む「製造管理」などからなっている。現在は、この自主基準をベースとして、年度内のJIS規格導入を目指して原案が検討されている状況である。

コロナ禍の中で消費者のマスクに対する関心は高まっており、製品性能への信頼性を高めるJIS規格の導入は歓迎すべき流れといえる。規格導入によって、基本的な品質が充足された製品が明確になることは、製品全体の底上げと、消費者にとっては商品選択に際しての納得感を増すことになろう。

JIS規格導入は、マスクの機能再評価と適正な使用の啓もうの機会

JIS規格導入は、マスクの機能再評価と適正な使用の啓もうの機会

JIS規格導入は、メーカーの垣根を超えた情報発信活性化の機会でもあり、異なるメーカー、異なる素材にまたがるマスクの特性の評価、様々な素材のマスクについての適切なサイズ選択と装着方法など、マスクとその機能について幅広く消費者の理解を深める発信が望まれる。

効果不十分な使い方も散見…

マスクは依然として感染防止に欠かせないツールだが、2020年の国を挙げての必要量確保以降は、装着時の使用感や快適性など質の改善が進み、更には素材・色・デザインも含めた選択肢の拡大が更に進んできた。

多くの消費者は現在、感染リスクとコストパフォーマンス、あるいはTPOに応じてマスクを使い分けているが、残念ながらマスク装着の効果を十分に得られていない使い方も多く見受けられる。

JIS規格導入でマスク生活改善を

JIS規格導入によってマスクの品質や機能への消費者の意識が高まるタイミングは、個々の消費者にとって使用するマスクの特性と自らにとって快適な使用法を振り返り、マスク生活の質を改善する機会ともなろう。

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

※メールアドレスをご記入の上送信いただいた方は、当社の利用規約およびプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

コメントが送信されました。

関連記事