読了目安:9分
EVへの移行とエンジン部品の今(12)オルタネーター
電気自動車(EV)では不要となる、エンジン車特有の部品事業を取り上げる本連載。12回目はオルタネーターに焦点を当てる。オルタネーターは、エンジンの駆動回転力を電気エネルギーに変換する発電機だ。エアコンや窓の開閉、ヘッドライト・車内灯などで使う電気を供給し、余った電気はバッテリーに蓄えられる。
エンジンがないEVには搭載されず、ハイブリッド車(HV)でもオルタネーターの代わりに別の機構が発電機能を担うケースが多い。EVやHVの普及に伴い市場縮小が見込まれる中、自動車電装部品を主力としてきた規模の大きいサプライヤーのシェアが高く、再編が起きている。
▼EVへの移行とエンジン部品の今(シリーズ通してお読み下さい)
「EVへの移行とエンジン部品の今」シリーズ
デンソー、三菱電機が世界シェア上位
オルタネーターの世界市場規模は、2020年時点で約3,000億円。世界市場シェアは図表1にある通り、デンソー(全社売上高7.2兆円)が首位で、仏Valeo(同3.4兆円)とともに約4分の1ずつを占める。三菱電機(2024年に自動車機器部門が分社・独立し、現在は三菱電機モビリティとなる。同社の売上高9,441億円)、独SEG Automotive(同1,356億円)が続く。
国内市場規模は、2022年時点で約500億円。国内市場シェアは図表2の通り、デンソーが60%、三菱電機が約30%を占め、Astemo(同2.2兆円)、澤藤電機(同236億円)なども参入している。澤藤電機は、日野自動車が30%出資する日野自動車系列サプライヤーであり、デンソーも9%出資している。商用車向けのオルタネーターやモーターのサプライヤーとして、高い技術力を有している。

出典:富士キメラ総研「2021 ワールドワイド自動車部品マーケティング便覧」

出典:総合技研株式会社「2023年版 主要自動車部品255品目の国内における納入マトリックスの現状分析」
EVだけでなくHVでも搭載されない
エンジン車では、エンジンの回転をベルトで伝達し、オルタネーターで発電する仕組みだが、EVではエンジンがなく、その代わりとなる駆動モーターが発電機を兼ねる場合が多い。HVはエンジンとモーターで駆動するが、HVもEVと同様にモーターが発電機を兼ねる場合が多い。
HVの一種である「マイルドハイブリッド車」では、エンジンを始動する「スターター」とオルタネーターの機能を一体化した「ISG(Integrated Starter Generator)」という部品がオルタネーターの代わりに採用される。このため、EVに限らず、HVでもオルタネーターは不要となる場合が多い。
デンソーは一部事業を中国部品メーカーへ譲渡
総合サプライヤーであるデンソーは、2〜3万もの種類の製品や部品を生産しており、事業ポートフォリオの最適化に向けて、エンジン関連部品を中心に閉鎖・縮小・譲渡する「総仕上げ」活動を進めている。その先駆けとなったのが、オルタネーターだ。
2022年、オルタネーターの一部の事業を中国の部品メーカーであり、技術支援先でもある、成都華川電装に譲渡すると発表。設備老朽化による供給不安定の解消と電動化への備えをより強化するため、農業・建設機械向けを中心に譲渡を決めた。
デンソーが事業譲渡の際、重視しているのが「四方良し」である。事業譲渡が、供給先や譲渡先、自社、サプライヤーそれぞれにとって良い形になるようにするという考えだ。その大前提として「お客様に変わらない高品質な『III型オルタネーター』を提供する」として、コロナ禍の渡航制限がある中で、華川電装と100回以上のウェブ会議を開いて品質の等価性維持に努め、合意に至ったという。事業譲渡への強い信念がうかがえる事例である。
その後もデンソーは、「燃料ポンプ」を愛三工業(全社売上高3,372億円)に、「スパークプラグ」と「排ガスセンサー」を日本特殊陶業(同6,529億円)に譲渡することを決定。2025年11月にはカーエアコン用ホース・配管事業をマルヤス工業(同1,427億円)に譲渡する検討を始めたと発表し、「総仕上げ」を推し進めている。
ボッシュも中国メーカーに売却
世界シェア上位にいるSEG Automotiveは、独ボッシュ(同約15兆円)がスターターやオルタネーターを手がける部門を切り離して設立した会社が前身だ。ボッシュは、同社を2018年に中国の機械・自動車部品メーカーである鄭州煤鉱機械集団に売却した。
当時、ボッシュ幹部は「この部門は過去数年間にわたって良好な業績を示してきた。だが、厳しい競争事情とコスト圧力の増加により、パートナーとの合弁事業にするか、あるいは売却したほうが、より成長する見込みがあると判断した」とコメントしている。価格競争に陥り、赤字が続いたことが売却の背景にあったとされている。
三菱電機モビリティは注力製品と位置づけ
一方、三菱電機モビリティは、事業戦略の柱として以下四つを掲げる。
- CASE関連事業:パートナーとのシナジーで成長(例:電動化、先進運転支援システム)
- レジリエント事業:強みを生かし収益力強化(例:電動パワーステアリングなど)
- 課題事業:早期終息による事業転換(例:カーマルチメディア)
- 全社成長事業:ものづくり力・資産を成長領域に展開(例:FA制御システムなど)
この中でオルタネーターは2に分類されている。「近未来にエンジン要素が自動車から無くなるころには不要となっていくと想定している」(同社経営企画部)としつつも、現在は注力製品と位置づける。サイズや仕様の違いで約3,000もあるオルタネーターの種類を半減させて、収益力を強化する方針だ。
一方で、三菱電機モビリティはアイシンと業務提携し、EVの心臓部となる電動駆動モジュール「eアクスル」を共同開発する計画。また、高電圧型のマイルドハイブリッドシステムで高機能な「直結型」のISGを業界で初めて量産化するなど、HV向けのISGも強みとしている。
エンジン車はオルタネーター、EVはeアクスル、HVはISGなどと、多様なパワートレインに対応できる体制をとっている。
参考文献
富士キメラ総研「2021 ワールドワイド自動車部品マーケティング便覧」
総合技研株式会社「2023年版 主要自動車部品255品目の国内における納入マトリックスの現状分析」
SPEEDA
整備士が教える【オルタネーター】 の役割と寿命、修理・交換費用|Seibii
デンソーの製品 | デンソー生産関係職ホームページ
デンソー、新開発高効率ダイオード搭載の車載オルタネーターを量産化 | ニュース | DENSO – 株式会社デンソー / Crafting the Core /
デンソー統合報告書2022 Integrated Report2022_for viewing
当社の強み | 企業情報 | 三菱電機モビリティ
2025/09/03 05:00 NIKKEI Mobility 三菱電機系「10年後ICE残る」 発電機種を半減、コスト圧縮
2024/07/18 電子デバイス産業新聞 2ページ インタビュー 三菱電機モビリティ㈱ 経営企画ユニット 経営企画部長 東田篤武氏 収益性重視で構造改革に挑む CASEでは協業シナジーへ
2025/01/20 05:00 NIKKEI Mobility 「競合に技術流れる」 デンソー反発、アイシン・三菱電の誤算
三菱電機プレスリリース 業界初、48V ハイブリッド車向けエンジン出力軸直結型 ISG システムを量産開始 1026-b.pdf
ボッシュがスターター・発電機事業を売却 | since 1992 ドイツ・フランクフルトから確かな情報と市場調査でサポートします。
海外の自動車産業,業界ニュース,情報,記事(アメリカ,米国,中国,インド,韓国,タイ,ロシア,ドイツなど)|国際自動車ニュース – 【ドイツ―生産】ボッシュ、スターターモーター部門の売却を検討



コメントが送信されました。