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管理職が考えたい、部下に対する接し方
管理職になると研修などで「部下に対する接し方」を学ぶ機会があると思います。さらに言えば、今どきの若手の部下に対応すべく、自分との価値観の違いを徹底指導される時代になりました。お互いがわかり合えない背景には、個人の性格やバックグラウンドの違いなど、いくつかの要因があります。今回はそうした状況をふまえ、管理職が今考えたい部下との関わり方や管理職に求められていることについて説明します。
部下への接し方を学ぶ重要性が高まっている
管理職になると研修などで「部下に対する接し方」を学ぶ機会があると思います。さらに言えば、今どきの若手の部下に対応すべく、自分との価値観の違いを徹底指導される時代になりました。お互いがわかり合えない背景には、個人の性格や過ごしてきた時代や経済状況などのバックグラウンドの違いなど、いくつかの要因があります。そのため、どうしても価値観に差異があり、考え方の衝突が生まれてしまいます。
衝突しないように部下がどのような社会情勢のなかで育ち、現在どのような悩みを抱え、今後どのようなライフステージを想定しているのかを知るべきです。まずは1on1ミーティングのような場で、部下の価値観について深く傾聴するところから始めましょう。
部下から求められているのは適切な業務量の調整
一方で、管理職の仕事は部下の指導だけではありません。管理職になって新たに増えるのが、部下を含めたチームの仕事を円滑に進めるために他部署と行う調整業務です。これは、部下からも求められているマネジメントの一つと言えるでしょう。
例えば、全社で役割分担すべき仕事の割り振りがあげられます。あるいは組織横断のプロジェクトを進める際に、各部署の意見を取り入れ、全体の方向性を統一する業務なども同様でしょう。社内で他部署と話し合いを行い、自部署が不利な割り当てにならないようにしなければなりません。不利な割り当てになると部下から大きな不満が発生します。
管理職時代に部下から「どうして、そんな無茶な役割を引き受けたのですか?できません!」と反発を受けたことがあります。自分なら軽く引き受けてやってしまうレベルの内容やボリュームであったのですが、部下にすれば負担が大きいわけです。自分たちが損な役回りをすることになります。部下は、管理職が周囲にいい顔をしたくて、無茶な仕事を引き受けてきたと捉えたようです。
ちなみに新任管理職が他部署と調整業務を行うときには、相手は自分よりも管理職の経験が長く、調整業務に慣れている可能性が大きいでしょう。ゆえに、簡単な仕事ではありません。この場合、どのように対応したらいいのでしょうか?
他部署からの協力を取り付けることは、自部署のポテンシャル向上だけでなく、管理職である自分の立場を向上させるうえでも非常に重要です。ちなみに自分が部下から反発を受けたときには、その反発を鎮めるために、他部署と再調整を行いました。
一旦は合意した役割を見直すのですから、周囲から「決まったことを蒸し返すな」と叱られました。それでも上司としての威厳を保つため、加えて、管理職として新たに求められた役割を全うするため「何とか、見直しの調整機会をつくってください」と関係者に声をかけて取り組みました。その方法については後述しますが、周囲の協力や理解をいただき、負担を緩和することができました。
再調整後の役割変更を部下に伝えたときに「今さらですが、ご無理を申し上げてすいません。でも、ありがとうございます」と一同からの感謝の声をもらって安堵したことを思い出します。ただ、再調整は好ましいことではありません。以後は、調整業務の頭からしっかりと取り組むように心がけました。
業務の割り振りをうまく調整する方法
では、どのように業務の割り振りを調整したらいいのでしょうか?自分の意見を一方的に押し通せば相手は不信感を抱くので、以後の関係が不和になってしまうかもしれません。一方で、相手の主張をすべて受け入れてしまうと、前述のように部下から不満が出てくる可能性が高くなります。いわゆる、落としどころが必要なのです。
ポイントは「二人称」の視点で伝えること
他部署の管理職が「それなら自分の部署で役割負担を増やしてもいいよ」と言い出すような状況をつくる必要があります。つまり、やる気を刺激する伝え方が必要なのです。そこで重要なのが二人称のアプローチです。「I=一人称」ではなく「We=二人称」の視点から伝えるのです。
例えば「うちの部署の予算は~」ではなく、「私たち(全社)の予算は~」と話します。一人称を使っているとき、会話の目的語も自分になりがちです。ここで注意したいのが、ビジネスの場における一人称は、自分自身の優秀さや成果を知らしめて、相手に認めてもらうための会話を生み出しがちだということ。ビジネスの成果はチームで生み出すものです。自らが二人称を多用することは、周囲をチーム全体で成果を生み出す状況に転換していきます。そうやって二人称を主語にして伝えることで、利益共同体だという認識を醸成して、調整業務で落としどころでの合意を生み出すのです。
成功例:勝海舟が主導した「江戸城の無血開城」
こうした調整業務の成功例として勝海舟が西郷隆盛を相手におこなった江戸城無血開城の落としどころが参考なるかもしれません。
幕末の1867年(慶応3年)、15代将軍の徳川慶喜は、大政奉還を行い、政権を朝廷に返上しました。しかし、旧幕府の影響力は依然として大きく、翌年、新政府軍との対立から戊辰戦争が勃発。鳥羽・伏見の戦いを皮切りに、新政府軍は勝利を重ね、最終的に江戸を目指して進軍しました。もはや、勝敗の決着は見えていたものの、江戸が戦場になるのか?それを避けて旧幕府が江戸城を去るのか?論点がそこになった状況で、旧幕府側の勝海舟と新政府軍の西郷隆盛が落としどころの調整で会談をすることになりました。
勝氏は「新政府軍と旧幕府軍が激突して、江戸の街が戦場になることだけは、何としても避けたい。お互いの話し合いによって、落としどころを見つけたい」と考えていました。西郷氏は「将軍だった徳川慶喜の身柄を差し出しなさい、軍艦や兵器をすぐに引き渡しなさい、関係者を厳重に処罰しなさい、江戸城を明け渡しなさい」…とすべては受け入れがたい条件をつきつけてきました。これに対して勝氏は、江戸城や周辺に住む人々の平和を守ることに加え、列強諸国から日本を守るためにも(我々は)内戦を避けるべきと考え、条件の緩和を要求しました。
結果として徳川慶喜の身柄は、新政府には差し出さず謹慎し、軍艦や兵器の引き渡しには猶予期間を設けるなどの落としどころを導き出しました。まさに調整業務の達人と言えますね。二人称のアプローチは効果的なのです。みなさんも日々の調整業務で試してみてください。
上司や部下を味方につけることで調整がスムーズに
業務の調整などの管理職の仕事においては、上席の上司や役員を味方につけることも欠かせません。このときは「相手のやり方に合わせる」ことを意識すると、物事がスムーズに進みやすくなります。
人の価値観はそれぞれですから、仕事の進め方も千差万別。時間管理を重視する人もいれば、挑戦を好む人もいるでしょう。ここの価値観で上司と争うのは大間違い。仕事の「目的」がズレているなら問題ですが、最終的な目標が概ね一致しているなら、そこは合わせる寛容性を持つべきでしょう。部下とのコミュニケーションでも同じことが言えます。自分がやりたいことを実現するには、自分の立ち位置を理解し、無用な争いをしないことも重要です。
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