2024年、自動車市場展望 転機を迎える年に

グローバル自動車需要は「ポストコロナ期」、そしてその先の「ポストポストコロナ期」の変動のただ中にいる。EV(電気自動車)シフトの動向と合わせ、2024年は一つの転機を迎える可能性がある。23年を振り返るとともに、24年を展望する。

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23年は先進国中心に需要増

23年は先進国中心に需要増

2023年のグローバル自動車需要は先進国を中心とした供給制約の解消によりペントアップ需要が発現。結果、通年の需要は前年と比べて10%前後の増加となりそうだ。主に好調なのは二桁の成長率を見込む米国、欧州、日本。米国はローン金利の上昇やUAW(全米自動車労働組合)のストなどの影響にもかかわらず、米系メーカーが先行して在庫正常化を進めた中で、販売が好調に推移している。

一方、最大需要国である中国は経済の低迷にもかかわらず、メーカー各社の価格攻勢や、NEV(新エネルギー車)の取得税減免策の延長などにより、23年の需要は何とかプラス成長を確保できる見込み。その他アジアの23年の需要は、インドの安定成長が続く一方、タイやインドネシアは前年を下回ることになるだろう。

24年のグローバル需要、巡航速度の成長に回帰か

24年のグローバル需要、巡航速度の成長に回帰か

新型コロナウィルスや半導体不足に起因する過去数年間の低迷を考えれば、23年はここからようやく抜けだしたポストコロナ期と位置付けられるかもしれないが、いわばポストポストコロナ期となる24年のグローバル自動車需要は前年比2~3%の増加と、巡航速度の成長に回帰するのではないかと予想する。この意味では、やや大げさではあるが、短期的に一つの転機を迎えることになるだろう。

米国における新型コロナウィルス以降の自動車のペントアップ需要は600~700万台程度と推計され、成り行きでは24年も同需要の一部が引き続き発現することで、少なくとも一桁の前年比成長が期待される。

ただ、米国の現状の自動車の在庫は新型コロナウィルス以前の水準を下回る一方、市場平均のインセンティブは同時期と比べて約半分の水準にとどまる。供給制約の解消により在庫水準の適正化が進むにつれて、本来メーカー各社はインセンティブの引き上げに動くはずだ。

一方で、米系大手メーカーとUAWの間で合意した賃上げなどによる労務費の増加、電動化対応などによる先行投資費用の増加を見込む中で、車両価格を大きく引き下げにくい状況にある。自動車の購入者のアフォーダビリティと車両価格の均衡が崩れれば、同需要が下振れてもおかしくない。

中国は24年も競争激化が続くことにより、自動車需要は低成長にとどまるだろう。また、欧州の自動車需要はペントアップ需要の消化が続くが、通年では前年を大きく上回ることはないだろう。

日本は最大手のトヨタなどの受注残が24年も引き続き自動車需要を下支えする余地があり、市場全体では前年比2%程度の増加を予想する。ただ、ダイハツの新車販売の停止が長引けば下振れ要因となる可能性がある。その他アジアの24年の自動車需要は、インドで安定成長の継続、タイやインドネシアで若干の回復が見込まれる。

EVシフト 揺り戻しの兆し

EVシフト 揺り戻しの兆し

自動車市場における中長期にわたる構造変化の一つであるEVシフトも24年に一つの転機を迎える可能性がある。

世界各国におけるカーボンニュートラルに向けた動きや、これに沿った自動車メーカー各社のパワートレーン戦略の転換、新型コロナウィルス以降のEV販売促進策などにより、グローバル自動車市場におけるEVシフトは従来の想定を上回るペースで進んだ。

世界の自動車販売に占めるEVの占有率は20年にはわずか数%だったのに対し、22年には10%弱まで上昇し、23年もこの勢いを引き継いでいる。

長期的な電動化、EVシフトは自動車市場において不可避である見方は変わらないが、少なくとも欧米などではこれまでの急速な変化に対する揺り戻しの兆しが見られる。

EU、内燃機関車の新車販売禁止を撤回

EUは35年に内燃機関車の新車販売を禁止する方針を撤回したほか、英国では23年9月、ガソリン車とディーゼル車の新車販売の禁止を30年から35年に先送りすると発表。また、23年12月にはドイツがこれまでEV1台あたり最大4,500ユーロを支給していた補助金の停止を発表したほか、フランスでもアジアで生産し自国に輸入されるEVを補助金の対象外とした。EUおよび欧州の主要国におけるこういった動きは今後EVシフトの速度を弱める可能性があるだろう。

米国、大統領選が不安材料

また、米国では30年までに自動車販売の半分をEVにすることを目指してIRA(インフレ抑制法)による減税措置などが導入されているが、足元の販売は増加し続けているものの、伸び率は従来の想定に対して下振れており、23年12月のディーラー在庫は過去最高水準に積み上がる状況にある。

自動車市場ではEVがすでに米国の西海岸や東海岸のアーリーアダプターに行き渡ったのではないかとの声も聞こえる。さらに、米国では24年に大統領選挙がひかえる。EV優遇を批判するトランプ政権が復活することになれば、これまでのEV関連政策が大きく転換される恐れがあろう。

生産目標撤回や投資計画延期も

EVシフトの揺り戻しの兆しを察知した自動車メーカーはこれまでに掲げた野心的な戦略の見直しを強いられている。

GMのバーラCEOは23年12月に35年までの全車両電動化を依然として目指しているかと問われ、「顧客の状況に合わせて調整する」と答えた。事実、GMは10月に24年上半期までに40万台のEVを生産するという従来の目標を撤回したのに加え、一部モデルの投入延期や生産能力の縮小などを決めている。

さらに、FordはEV向けに計画していた120億ドルの投資を延期したほか、Volkswagenは20億ドルを投じる予定だったドイツのEV新工場の建設計画を打ち切った。

日系メーカー 増す優位性

自動車にかかわる各国の政策、消費者のニーズなどが流動性を増す中、自動車メーカーはより柔軟な対応が求められるが、皮肉にもこれまでEVシフトにおいて出遅れているとみられてきた日系メーカーの優位性が増しそうだ。

カーボンニュートラルに向けた動きの後退が認められにくい中、EVの需給ギャップが顕在化した状況において、自動車市場ではHEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)などがEVシフトの過渡期の技術として再評価されつつある。

事実、Fordなども再びHEVに注力する意向を示している。これまでHEVを含めた全方位戦略を維持してきた日系メーカーはEVシフトの揺り戻しの影響を受けにくいばかりか、むしろその恩恵を受けられることになるのではないか。

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