公表される「男女賃金の差異」。情報開示がもたらすもの

女性活躍推進法に関する制度の改正が2022年7月8日にあったことをご存じだろうか。

この制度改正によって、常時雇用する労働者が301人以上の一般事業主は「男女の賃金の差異」の情報について今後公表することが必須になったのだ。

なお、この制度改正にともなった初回の「男女の賃金の差異」の情報公表は2022年7月8日の施行後、最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3ヵ月以内に公表することが求められている。(事業年度が2023年3月に終了する場合、2023年6月末までの公表となる)

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「女性活躍推進法」とは

「女性活躍推進法」とは

女性活躍推進法は2016年4月に施行された法案で(10年間の時限立法)、正式名称を「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」と言う。

男女共同参画局によると、日本女性の就業率は上昇しているものの、男女共同参画の状況を国際比較した場合、遅れがあったといい、それが女性活躍推進法の誕生に影響したという。

また、女性の活躍を推進するためには、ライフステージごとの女性の課題に対応した施策を展開し、女性活躍のための取り組みを企業に対しても促していく必要があった。

そうした背景から生まれた女性活躍推進法では、「働く場面で活躍したい」という希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現するために、事業主(国や地方公共団体、民間企業など)に対して以下の3点を義務付けている。

1 自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
2 状況把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定・届出・公表
3 女性の活躍に関する情報公表

女性の活躍に関する「情報公表」

女性の活躍に関する「情報公表」

さらに、女性の活躍に関する情報公表の項目は、省令で以下のように規定されている。

図1_女性活躍に関する「情報公表項目」

また、情報公表内容は省令で以下のように労働者数に応じて定められている。

図2_一般事業主の情報公表内容

「男女の賃金の差異」の算出

「男女の賃金の差異」の算出

では、なぜ男女間で賃金の差異が生まれるのだろうか。

男女の賃金の格差が生まれる要因としては、役職や勤続年数によるものが大きいと考えられている。女性管理職や共働きの増加などによって男女間賃金格差は長期的には縮小傾向にあるものの、厚生労働省の「2022年賃金構造基本統計調査の概況」によると、格差は依然存在している状況にあるといえる。

従来から女性活躍推進法の省令や指針によって「男女の賃金の差異」を把握することが推奨はされていたが、今回の改正で常時雇用する労働者数301人以上の一般事業主は情報を公表することが義務化されたのだ。

なお、すべての労働者における男女間賃金格差に加えて、正規雇用労働者、非正規雇用労働者内でも男女間賃金格差があることを踏まえ、男女の賃金の差異は「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」「全ての労働者」の3つの区分毎で算出、公表することが求められている。

「男女の賃金の差異」の算出方法

「男女の賃金の差異」の算出方法

男女賃金の差異はどのように算出するのか。

男女賃金の「差異」とは、男性労働者の賃金平均に対する、女性労働者の賃金平均を割合(%)で示したものをいう。

(例)男性労働者の賃金平均が「40万円」で、女性労働者の賃金平均が「36万円」であれば、男女賃金の「差異」は90%である。

男女の賃金の差異の算出方法を以下のとおりである。

男女の賃金差異の算出方法

「男女の賃金の差異」の公表

「男女の賃金の差異」の公表

男女賃金の差異は、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社ホームページなどで公表することが求められている。

男女賃金の差異の公表イメージを以下のようなものである。

公表日:2023年4月21日

男女の賃金の差異
(男性の賃金に対する女性の賃金の割合)
全労働者 80.4%
正社員 80.5%
パート・有期社員 91.5%

対象期間:令和4事業年度(令和4年4月1日から令和5年3月31日まで)
賃金:基本給、超過労働に対する報酬、賞与等を含み、退職手当、通勤手当等を除く。
正社員:出向者については、当社から社外への出向者を除き、他社から当社への出向者を含む。
パート・有期社員:期間工、パートタイマー、嘱託を含み、派遣社員を除く。
※なお、パート労働者については、フルタイム労働者の所定時間(8時間/日)をもとに人員数の換算を行っている。

差異についての補足説明:
<正社員>
正社員のうち、最も差異が生じている役職は部長級で、部長級における男女の賃金の差異は71.2%である。また、部長級における女性の割合も8.0%と少なく、部長級への女性登用を計画的に推進していく。
<パート・有期社員>
女性よりも男性に相対的に賃金が高い嘱託社員が多いため、格差が生じていると考えられる。

出典:厚生労働省「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について」

一方で、「男女の賃金の差異」の数値だけでは伝えきれない自社の実情を正しく理解してもらうために、事業主の任意で、より詳細な情報や補足的な情報を「説明欄」で公表することも可能だ。その際は、「説明欄」を有効活用することが望ましいだろう。

企業における「男女賃金の差異」は、行動計画の策定などに取り組んだ結果、特に女性の登用や継続就業の進捗を測る観点からも有効な指標となるだろう。

例えば、「女性労働者の新規採用を強化する」といった女性活躍推進の取り組みによって、相対的に男女賃金の差異が拡大することもあり得る。

また、男女賃金の差異が小さい場合でも、管理職比率や平均継続勤務年数などの個々の指標を見たときには、男女間格差が生じていることもあり得るだろう。

つまり、各企業は、数値の大小に終始することなく、法に基づいて、自社の管理職比率や平均継続勤務年数などの状況把握・課題分析を改めて行った上で、女性活躍推進のための取り組みを継続することが重要である。

おわりに

今回解説した男女間の賃金格差については、「人的資本、多様性に関する開示」項目の「女性管理職比率」及び「男性の育児休業取得率」とともに有価証券報告書等で非財務情報の開示が義務化されている。人的資本に関する情報開示は、投資家だけでなく就職活動中の学生からの関心も高くなっているのである。

様々な人的資本に関する情報開示が求められる中、単に情報(数値)を公表すること自体が目的化し、形骸化するリスクも考えられる。

だからこそ、単に人事部門でデータを集計するだけでなく、経営・戦略部門を巻き込んだ情報開示の取り組みを推進することが望ましいだろう。

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