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壽屋×FMIの経営改善事例インタビュー【前編】5年で売上高1.6倍、営業利益3.4倍に。当時の課題と解決策とは?
主にフィギュアやプラモデルを扱うホビーメーカーとして知られる株式会社壽屋(コトブキヤ)は、2023年で創立70周年を迎える老舗企業です。同社は、ホビー商品の企画・製造・販売を主力事業に、直営店やオンラインショップも運営。近年では、オリジナルコンテンツとして自社IP*の創出にも注力し、人気シリーズを多数生み出しています。現在は好調に業績を伸ばしているコトブキヤですが、一時は業績が伸び悩み、FMI(フロンティア・マネジメント)がコンサルティングを担当したことも。その当時の状況や施策、成果について前後編にわたり、株式会社壽屋の清水克多郎取締役とFMIのコンサルタントに話を聞きました。 *IP=キャラクターなどの知的財産権のこと
話:株式会社壽屋 取締役 清水克多郎、フロンティア・マネジメント担当コンサルタント
聞き手:Frontier Eyes Online編集部
自社IPと原型師の保有がコトブキヤの強み
Q: コトブキヤは2023年で創立70周年を迎えるそうですね。これまでの大きな流れについて教えてください。
清水:会社としては、大きく3つの成長ステージに分かれます。まず、1953年に有限会社壽屋として設立して、初代代表取締役に清水一郎が就任しました。おもちゃの小売店としてスタートしたのが最初のステージです。
途中からおもちゃだけでなく、プラモデルなどのホビー商品の販売も始めました。1986年に二代目として現・代表取締役に清水一行が就任して以降は、メーカーとしてフィギュアやプラモデルを生み出すチャレンジも始めたのが、2番目のステージです。
2017年には当時のJASDAQスタンダード市場へ上場を果たし、近年は3番目のステージとして自社でIPを保有。オリジナルコンテンツを主体とした商品を生み出すようになりました。
Q: おもちゃの小売店からスタートして、ホビーメーカーに転換した歴史があるのですね。3番目のステージで自社IPを持ったことの優位性は、どんなところにあるのでしょうか。
清水:通常は、何を作るにしても権利元の許諾がないと進められないのですが、自社IPを持っていると自社の権利と責任で進められるので、非常にものづくりがしやすいのです。あとは、お客様から支持を得られるようなオリジナルキャラクターなどを生み出すことができれば、他社との差別化がはかれます。
たとえば、ご要望に応じて自社IPのシリーズの商品化や書籍化、ゲーム化、ゲームコラボ、プロモーション起用、キャンペーン起用などの形で利用展開してもらうことができ、その利用料も得ることができます。もちろん、支持されるIPに育てるステップが必要ですが。
Q: コトブキヤでは、社内に商品の原型を作る原型師がいらっしゃることも特徴だとか。
清水:そうですね。原型の製作を外注する会社も多い中で、当社にはフィギュアとプラモデルの両方で多数の原型師がいるのも強みです。原型師がプライドを持ってこだわって作っているので、商品の価値が高まっている。実際、お客様にもその価値を感じていただけていると思います。
ただ一方で、芸術的なこだわりを持ち過ぎると製作期間や人件費がかかり過ぎてしまうこともあるので、そのバランスが難しい点ですね。
自社IPプラモデルの「創彩少女庭園」シリーズ。20〜50代まで幅広い層に支持されており、プラモデルの枠を超えたメディア展開を行う
体制面で課題が山積し、数年前に業績が伸び悩む
Q: 現在は、自社のそういった強みを活かして2022年6月期の売上高は約142億円と業績が好調ですが、数年前までは業績が伸び悩んでいたそうですね。どういった課題があったのでしょうか?
清水:1つは、仕事が属人化していたことが課題でした。例えば、企画を立案するときは主にベテランの社員が担当していて、メンバーの入れ替わりもほとんどないので体制が膠着してしまっていました。
もちろんその良さもあるのですが、だんだんとマーケットに合わない企画も出てくるようになりました。加えて、担当者が立案した企画について部署を横断して議論することもなく、そのまま進行していたのです。
もう1つは、組織体制の変更が課題でした。上場するまでは会社の規模もそこまで大きくはなかったので、フィギュアやプラモデルなど、プロジェクトごとにチームを分けてそれぞれに製作や営業のメンバーがいる、という体制で運用していました。チーム内で企画から製造、販売まで完結させる体制ですね。
それが上場後は社員が200人規模になり、だんだんとプロジェクトチーム別だと同じ職種間での意思疎通や連携がとりづらくなっていきました。そこで、企画や生産管理、営業、広告宣伝とそれぞれの機能・職種別にチームを分けることにしたのです。ただ、ルールなどの整備をしきれていないまま移行したこともあり、なかなか上手く運用できませんでした。
ちょうどそのころ、事業計画策定のためにFMIさんにコンサルタントとして入ってもらうことにしたので、体制面についても相談にのってもらいました。
Q: さまざまなコンサルティング会社がある中で、FMIに相談したのはなぜだったのでしょうか。
清水:私が以前勤めていた会社で、FMIさんがコンサルとして入っていたことがありました。普通のコンサル会社だと計画を組むところまでがメインだと思うのですが、FMIさんは立てた計画に対して、いつまでに・誰が・どうするかまでアクションプランに落とし込んでくれます。その後の実施状況も追いかけてくれるし、そこまでしてくれる会社だということは、私も前職での経験からよく知っていたので依頼することにしました。
Q: そうしてFMIがコンサルティングで入ることになったわけですが、客観的にみてコトブキヤの課題はどんなところにあると見立てましたか?
担当者:課題は大きく3つあると考えました。1つ目は、「マーケットインの視点が不足していたこと」です。コトブキヤの社員さんは、おもしろいものを作りたい、理想を形にしたいという思いが強くて、ものづくりに対する熱量がすごいのです。それが消費者ニーズと合致するときはヒット商品が生まれるのですが、必ずしもそうではないときもあったと思います。つまり、今まではプロダクトアウトの志向が強かったので、マーケットインの視点も入れられる仕組みづくりが必要だと考えました。
2つ目は、「機能別のチームが良い方向に作用していなかったこと」です。清水取締役もおっしゃっていた通り、チームが機能別に分かれたことで動きも職種ごとに分断され過ぎてしまって、お互いの業務への理解や異なる職種間の連携が不足してしまっていました。
3つ目は、「PDCAが十分に回せていなかったこと」です。良い商品を作って世の中に出した後に、それがどのくらい売れたか、そしてその要因は何だったのかを分析して次に活かす、という流れが十分に構築されていませんでした。
「部署横断プロジェクトチーム」と「企画審査会議」を導入
Q: そうした課題があるなかで、FMIは実際にどういう形でコンサルティングに入っていったのですか?
担当者:プロジェクトとして関与した期間は2018~2019年の約1年半で、最初の4ヶ月は事業計画とそれに紐づくアクションプランを策定しました。実施にあたってはそのプロセスを大切にしていて、まず社長を含めた経営層や実務のキーパーソンとなる方々、合計30名くらいに経営課題に関してヒアリングを実施しています。
合わせて、定量的な情報として内部環境や競合・市場などの外部環境の分析も行いました。そうして得た定性的・定量的な情報をもとに課題を抽出・構造化し、経営層の方々とディスカッションして認識を合わせながら大きな戦略の方向性を定めていったのです。
その後は、策定した戦略の方向性をさらに施策レベルで具体化していくための個別テーマごとの分科会を、実際に実務レベルで動く現場の方々にご参画いただく形で組成しました。分科会の中では施策の具体化に加え、いつまでに・誰が・何をやって成果をどう追うのかといったアクションプランとそれに基づく定量効果も合わせて定めていきました。
Q: そうしたフローを経て、どんな具体策が持ち上がったのでしょうか。
担当者:様々な施策を策定したのですが、まず先ほどお話しした課題の1つ目の「マーケットインの視点が不足していること」、2つ目の「機能別のチームが上手く作用していなかったこと」に対しては、「部署横断プロジェクトチーム」の組成と「企画審査会議」をご提案しました。
職種別・機能別のチームを基盤としながら、さらにプロジェクトごとにチームを作ることで横串で連携をはかり、チーム一丸となって数値を含めた一連の取り組みにコミットメントしていくことが目的です。まず、プロジェクトチームでマーケット視点での企画検討や売上・利益見込みのシミュレーションを行い、それを実現するための適切なプロモーションの計画などをしっかり検討します。そのうえで、企画を「企画審査会議」に上げ、経営層が意思決定するというフローに変更していただきました。
Q: 「部署横断プロジェクトチーム」と「企画審査会議」を導入して、どのような効果がありましたか?
清水:先ほどお話しした通り、これまでは固定の社員が企画を立案してそのまま稟議にかけていたので、マーケットとのズレが起きて赤字になるプロジェクトや商品が出てきていました。
それが、「部署横断プロジェクトチーム」や「企画審査会議」を導入したことで、職種を横断して内容を吟味してから進めるようになったので、だいぶ不採算の案件が減っていったのです。
毎週実施しているので、今はみんなこのプロセスに慣れてきて、企画審査会議にかける前に企画を細部まで整えてきてくれるようになりました。
担当者:今はプロジェクトチームを横断して、別のチームの方がオブザーバーとして会議に参加されることもあるのですよね。
清水:そうですね。フィギュアの責任者が、プラモデルの企画審査会議に飛び入りで参加することもあります。
担当者:いつもと違うメンバーからの意見があると、企画をさらにブラッシュアップできることもあるはずなので、それは素晴らしいですね。施策の副次的な効果だと思います。
<記事後編に続きます>
取締役 清水克多郎(しみずかつたろう)
1959年生まれ、東京都出身。株式会社イエローハット、株式会社セキチューを経て、2018年9月に株式会社壽屋に入社。2018年9月より取締役に就任。
設立 1953年1月
資本金 4億4,862万円
年間売上高 142億円 ※2022年6月期
従業員数 230名 ※2022年6月末時点
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