アジア域内(中国~アセアン)における経済・投資の連鎖とM&A

上海イメージ

当社(フロンティア・マネジメント)では「グローバル情勢の変化と日系企業の事業戦略のあるべき姿」と題して10月30日と11月6日の2回に分けてwebinar(ウェビナー)を実施した。

そこで浮き彫りになったのは、世界的な地政学的リスクが複雑に絡み合い、アジア域内における経済活動や事業会社による投資活動は「中国」と「アセアン」が連鎖しているとの点である。
今回はそのエッセンスも踏まえ、2021年のアジア域内でのM&A活動を予想してみたい。

2020年の中国経済~「世界の胃袋」の本領発揮~

図表1

コロナ震源地と言われる中国では2Q以降で経済は急回復(2Q・3QともGDPは対前期比プラス)、その中心は国内需要(国内小売売上高は9月時点で既に前年同月比プラス)。
自動車新車販売台数は9月単月で256万台(前年同月比12.8%増)だった。これは日本の最近の単月販売台数の約10倍に相当する。また、アセアン主要国全体の一年の販売台数に匹敵する水準である。

図表2

まさに「世界の胃袋」的役割を果たしており、2021年も「食欲旺盛」が見込まれる。自力成長を命題にする事業会社にとって、中国市場を意識しない企業はいないはずである。

他方で看過できないのが、本年一層激化した米中摩擦である。
当社webinarで当面の地政学的リスクについて講演した、大蔵省(現財務省)・IMF日本代表理事などのキャリアの中で多くの国際交渉を歴任し、独自の国際ネットワークを持つ当社顧問の小手川大助氏によれば、米国大統領選の行方にかかわらず、共和党・民主党とも対中強硬戦略は不変とのことである。

そのような中で日中を含むRCEP(東アジア地域包括的経済連携)への調印がされ、必ずしも「米中摩擦=日中摩擦」との等式とはならないことが想起されるが、商流の変化は当面流動的であろう。

中国におけるM&Aの動向

図表3

この動きをM&A戦略との視点で見た場合、米国の対中国強硬策を見据え、同国からの輸出製品製造機能強化を目的とした投資は控えられる。
一方、中国内市場の成長を目的とした生産機能拡大の分野(川上産業含め)に加え、小売・ホテル等(ロフト・蔦屋・星野リゾート等)のサービス産業にも積極投資が実施されている。

ここで特徴的なのは、現地大手との合弁事業化の動きである(トヨタ自動車・塩野義製薬・明治)。
2021年は、自動車産業・半導体産業に加え、これらに係る素材メーカー含む川上産業の動きが注目される。

ベトナムに注目したいアセアン経済~事業成長のカギとなるか?~

図表4

アセアン域内において、中国同様にコロナを抑え込み、経済の急回復を見せたのが、ベトナムである。
域内において唯一、通年のGDP成長率の対前年比プラスを見込んでいる。同国は韓国サムソンの一大輸出拠点ともなっており同社グループの積極投資姿勢は変わらず、また台湾の鴻海(ホンハイ)が中国偏重から転換し、ベトナム・中国国境沿いに対米輸出用液晶ディスプレーの工場を建設するとも発表している。中国からの生産シフト先としての注目度は、今後も増すことが想定される。
ベトナムは本年、欧州とのFTAを締結しており、衣料品などの対欧輸出地としての機能拡大も期待される。タイやマレーシアの政治混乱、フィリピン・インドネシアがコロナ対応に追われる中、2021年も「勝ち組」として盤石の勢いである。

アセアンにおけるM&Aの動向

図表5

このような中、日系企業によるアセアン域内に対する本年(3Qまで)のM&A動向に目を向けると、その特徴は、以下の通りである。

① 域内M&A推進役のシンガポールをはじめ、インドネシア・マレーシア・ミャンマーで前期比半減
② ベトナム・フィリピン・タイは前期比微減、ベトナムの堅調ぶりが目立つ
③ 新規進出型のM&Aは、プロセス途中で中断するなどコロナ禍の影響から激減
④ 上記半減したシンガポールでは、引き続きスタートアップ系企業に対する注目度は高い
⑤ ミャンマーの半減要因とも言われる総選挙結果は、与党が過半数取得となったことを受け、今後経済再開とともにM&A活動も活発化が見込まれる

2021年のアセアン域内向けM&A活動は旺盛を予想

前述の小手川顧問によるアセアン域内に対するコメントとして、菅首相の最初の外遊先がベトナム・インドネシアと、安倍内閣時代を踏襲したアセアン重視の政策は、当面継続されるだろうとのことだ。このような動きの中、対米・対欧州向け輸出を目的とした生産機能を、中国からアセアンへの移転する動きが、拡大傾向となることを見込む。

2021年も、アセアン内では製造業・サービス産業を中心に、ベトナム・ミャンマーに注目する。また、コロナ終息次第では、フィリピン・インドネシアも有望であろう。通年で政治問題一色だったタイ・マレーシアは、引き続き政治問題が続くことが見込まれる。加えて日系企業が集積する自動車産業は、前述の通り対中国投資に目が向いている中、M&A活動も限定的となる可能性が高い。

ランキング記事

1

パワー半導体の世界シェアは?注目市場の今後の動向を解説

パワー半導体(パワートランジスタ)は、家電や電気自動車をはじめとして、さまざまなデバイスの電源管理に使われています。 多くの分野で需要が伸びており、長期的な成長が期待できるマーケットです。 日本の企業や大学発ベンチャーが競争力を保っている分野でもあり、「パワー半導体強国」として世界市場でのシェアを獲得するべく、積極的に研究開発を行っています。 本記事では、世界規模で成長をつづけるパワー半導体の市場規模や、今後の展望を解説します。

2

2021年展望  化粧品業界 急回復もレッドオーシャン化する中国市場

国内化粧品市場は厳しい環境が続く中で、多くの化粧品企業が来期以降の業績回復の牽引役として、中国経済圏での売上拡大を掲げている。しかし、中国市場は欧米、中国、韓国メーカーの勢いが増しており、レッドオーシャン化しつつある。グローバル競合が激化する化粧品市場において、消費者に向き合ったコミュニケーションの進化が差別化のカギとなる。

3

「7+1」のキーワードから読み解く 2021年のM&A展望

「今年は厳しかった」 この時期のM&A業界に携わる人々の一年の感想である。しかし、振り返ってみると日本企業によるM&Aは緊急事態宣言期間中こそ手探りであったが、6月以降は活況であったとみていい。

4

コロナ禍に有効なアーンアウト条項とは シンガポール案件からの考察

コロナ状況下でもASEAN地域においてPEファンドによる売却が積極的に行われている。アーンアウト条項を通じ、コロナ状況下のリスクを買い手と売り手で分担している例もみられ、危機時の参考事例として紹介・考察したい。

5

事業承継M&A オーナー経営者に配慮すべき4つの視点

事業承継M&Aを進める際に最も大切なのは、売り手側のオーナー経営者との向き合い方だ。多くの場合、オーナー経営者は大株主であり、資産家であり、地域の名士でもある。個人と会社の資産が一体となっている場合も多く、経済合理性だけでは話が進まない場合も多い。M&A交渉においてオーナー経営者と向き合う際の留意点を4つの視点からまとめてみた。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中