中堅中小BtoC企業の海外進出成功の鍵~自力マーケティングのすすめ

自社商品の海外向け販売を検討する中堅中小企業が増えている。背景には国内市場の縮小があり、越境ECなど費用を抑えた海外進出方法の普及もあり、コロナ禍でも積極的に検討が行われた。しかし、一部には市場調査などを専門家に丸投げする企業もあり、その場合の成功はおぼつかない。ここでは、一般消費者向け商品を販売する中堅中小BtoC企業の海外マーケティングについて考えてみたい。

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思ったほど簡単ではない越境EC

思ったほど簡単ではない越境EC

日本にいながら出品できる越境ECの普及により、海外向け商品販売は昔と比べて手軽にチャレンジできるようになった。この変化は海外拠点を持たない中堅中小企業にとって非常に喜ばしい変化であり、各種支援サービスも有効活用すべきだ。

しかし、チャレンジが容易なことは成功が容易なことを意味しない。出せばすぐ売れるほど簡単ではないことを痛感する企業も多い。むしろチャレンジのハードルが下がったことでインターネット上に商品があふれ、自社商品を選んでもらうことは難しくなった。

日本貿易振興機構(JETRO)による企業アンケート調査によると、海外EC事業が現状黒字の企業は約16%に過ぎない。

図表1_海外EC事業のメリット・利益

必要なのは商品提供価値の主体的な再定義

必要なのは商品提供価値の主体的な再定義

そもそも趣味嗜好が異なりモノの入れ替わりも激しい海外市場において、日本の商品が見た目や機能性だけで人気を得ることは難しく、価格競争にも巻き込まれやすい。

ただし、同じ商品であっても現地の文脈に則して上手く商品の提供価値を再定義し、タイムリーに市場投入できた場合には現地消費者の支持や共感を得られている。

ここでいう再定義とは、誰にどのような価値を提供するかの「意味づけ」を改めて行うことであり、事情や前提の異なる海外では日本で販売する際とはやや異なる「意味づけ」が必要だ。

海外現地法人運営経験のある筆者としては、各企業が海外事業に苦戦する原因はこの必要不可欠な準備プロセスの欠如にあると考える。そして、この準備は便利な海外進出支援サービスを利用する場合でも他人任せにせず、自社で主体的に取り組む必要がある。

商品の裏に隠れた情報・現地への貢献ストーリーに共感

商品の裏に隠れた情報・現地への貢献ストーリーに共感

「意味づけ」の方法としては、商品の一般的な機能説明に留まらず、商品誕生の背景や作り手の想いなどの商品周辺情報を併せて訴求する「ストーリーマーケティング」がある。

また、ストーリーとしては海外進出理由や企業哲学の訴求を含め、商品の提供を通じて進出国や進出地域の課題解決や欲求充足に貢献する「現地貢献ストーリー」が有効だ。

課題解決というとやや大袈裟に聞こえるかもしれないが、不便や不満の解消のみならず、喜びや楽しみ、夢や希望を与える行為も立派な課題解決であり現地貢献だ。

評価は現地の課題状況や価値観との「相性」で決まる

評価は現地の課題状況や価値観との「相性」で決まる

ところで、各国・各地域の課題状況や人々の欲求は、それぞれの市場の成長ステージや社会経済状態の違いにより異なる。そして、人々の物事に対する評価はその状況や価値観への適合度合いに左右される。

従って、同じ商品でも国や地域が異なれば評価は異なり、消費者が商品に与える評価の良し悪しはその絶対的な優劣というよりも、現地の課題状況や価値観との「相性」で決まる。

評価の違いについては訪日外国人観光客を見ても類推できる。日本では評価されているポイントが外国人には十分評価されなかったり、逆に日本では気にも留めていないポイントが思いがけず高く評価されたりする。

このような評価の違いや「相性」を見極め、日本国内とは異なる視点で現地での「意味づけ」に成功できれば、自社商品が海外で果たせる役割や事業拡大のチャンスは広がっていく。

なおチャンスに思いを巡らせる場合、例えば東南アジアなどの課題状況や価値観が異なる国々を念頭に、どの国のどのような欲求に応えるか意識しながら想像するだけでも有効な思考訓練になる。

図表2_マズローの欲求5段階

現地にマッチする「ストーリー」構築の実践ポイント

現地にマッチする「ストーリー」構築の実践ポイント

さて以上を踏まえて商品提供価値を再定義し、「現地貢献ストーリー」を構築する上で、特に意識すべきポイントを3点挙げておきたい。

①“自社社員”で練り上げる

現地消費者の支持や共感を得るストーリーづくりは、必ず自社社員で行いたい。この行為の本質は企業の存在意義や商品の提供価値の見直しであり、基本的には第三者では代行できない。

やはり自社商品の特性を最もよく知り、情熱を込めて海外での新たな価値提供に取り組むことができる自社社員が担い手としてふさわしい。

②“志”に立ち戻って構想する

ストーリーづくりでは、現地の人々を幸せにするイメージをどれだけリアルに想像できるかが鍵となる。このイメージも第三者が技術的に描くものではなく、当事者から自然とあふれ出る想いに基づいて描かれるべきものだ。

本来、商売の目的は人々の役に立ちたいという極めて純粋な“志”が出発点にあったはずだが、とりわけ海外進出では売上拡大を目的化した方法論だけが注目されやすい点には気をつけたい。

③“現地”で直接、生きた情報に触れる

人材や資金が限られている場合でも最低限、自ら現地でストーリー構築の材料を直接集めてもらいたい。また、現地の日本人コミュニティーを頼った視察旅行では得られない情報を得るには以下の4点もお薦めしたい。

・話は現地人に聞く・日本人には失敗談を聞く

現地の話は現地人に聞くことが基本であり、現地の日本人駐在員に話を聞いても日本人感覚の域を出ない情報しか得られない。また日系企業の成功体験を真似ても、会社や商品が異なれば様々な前提条件やストーリーそのものが異なるため、同じようには成功できない。

一方、失敗はどの会社にも共通する要素が多いため、日系企業や日本人駐在員に話を聞くならば失敗談を聞くべきだ。

・現地の店員に聞く

海外では一般的にあらゆるショップスタッフは日本以上にフランクだ。BtoCにおいては、スタッフであると同時に現地の一般消費者でもあり、単刀直入に質問すると様々な立場や側面からストレートに答えてくれることが多く、貴重な情報源となる。

・現地の物価水準を体感する

現地の一般消費者の物価感覚を理解することは極めて重要だ。ただし、日本円換算して日本の物価感覚で評価する方法では理解が深まらない。

現地感覚を得るためには、現地消費者やローカルスタッフがよく利用する飲食店で同じ昼食をとり、幾らの現地通貨を昼食にかけているか理解すれば、身近で標準的なモノサシを手に入れることができる。

・短期間でもリアル店舗を構える

期間限定のポップアップ店舗でも構わないので、リアル店舗を構えると消費者の反応を含めた生きた情報を得る効率が格段に高まる。

また多店舗展開が不要な場合でも、リアル店舗が持つ露出宣伝効果はネット社会においても依然大きく、この物理的タッチポイントを着火点とし、小さな実績を積み重ねる中から拡大の可能性を探ることが有効だ。

自社や自社商品の強みを再発見する好機に

海外進出はいわば異文化交流であり、主体的に取り組めば学びや気づきが多いものだ。よく「海外に出て初めて日本の良さが分かった」と言われるのも同じことだ。

従って国内市場縮小に伴う消極的選択としてではなく、積極的に自社や自社商品の強みを再発見する好機として海外進出検討機会を活かすべきであり、その検討は今後日本国内で価値観の異なる世代を相手にする上でも極めて役に立つものとなろう。

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