セクショナリズムとは?その意味や原因、問題点、対策を事例とともに解説

企業はさまざまな部門・部署が相互に関連しあい、利益を生み出しています。この連鎖はサプライチェーンやバリューチェーンと呼ばれ、経営を語るうえでは切って離せません。しかし企業が成長するにつれ、各部門・部署は予算や顧客の奪い合い、社内政治などが働き、対立を生み出すこともあります。その対立がセクショナリズムです。本記事ではセクショナリズムの意味や原因、もたらすリスク、対策のほか、解決事例をわかりやすく解説します。

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セクショナリズムとは部署の利益に固執する「派閥主義」

セクショナリズムとは部署の利益に固執する「派閥主義」

まずはセクショナリズムの言葉の意味や使い方について説明します。

セクショナリズムの言葉の意味

セクショナリズム(sectionalism)とは、組織内で特定の部門・部署(セクション)の利益や権利を優先し、外部(他部門など)からの干渉を排除しようとするなど、組織全体の視点を欠いてしまう傾向や考え方のことです。この現象は、大企業や官僚組織などの大規模な組織でしばしば見られます。

ある企業で営業部門が自部門の売上目標達成のみに固執し、他部門との連携や全社的な方針を無視するような行動を取る場合、これはセクショナリズムの一例と言えます。

部門(section)と主義(ism)を語源とし、日本語では「部局(部門)割拠主義」とも呼ばれます。

セクショナリズムの言葉の使い方

セクショナリズムは、例えば以下のような文で使われます。

【例文】

  • セクショナリズムが原因で、社内の雰囲気が悪化している
  • セクショナリズムが蔓延して、事業部間の連携がうまくいかない

前述の通り、部署間で協力するどころか、縄張り争いをしているような排他的な状態です。
「営業部門は努力しているのに、開発部門の技術力が足りないから商品が売れない」「製造部門はこれ以上余力がないのに、営業部門が勝手に受注してしまった」といったケースがセクショナリズムにあたります。

グループごとの部分最適化はできていても、「全体最適化」という視点が抜け落ちているため、結果として企業全体の生産性を低下させる可能性があるのです。

セクショナリズムの対義語(反対語)はコーポレーショニズム

縄張り意識や派閥主義を意味するセクショナリズムの対義語は、協力的・共同的を意味する「コーポレーショニズム(Cooperationism)」です。
コーポレーショニズムとは、組織全体の利益や効率性のために部門や部署が互いに連携し、協力関係にある状態を指します。
また、「全体最適(Total Optimization)」も対になる概念です。

セクショナリズムの種類

セクショナリズムの種類

企業内のセクショナリズムは、「無関心型・非協力型セクショナリズム」と「批判型・排他型セクショナリズム」の2種類に分類できます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

●無関心型・非協力型セクショナリズム

他のグループへの悪意は持っていませんが、「自分たちのグループさえよければいい」と考える傾向が強いことが特徴です。

他の部門や部署への直接的な悪影響はない反面、部門間の情報共有が不十分で、フットワークが重くなるため、部門間連携がスムーズにいかず、不測の事態が起こった際に対処が遅くなるなどの問題が生じます。

●批判型・排他型セクショナリズム

自分たちのグループの利益を優先するあまり、他のグループを批判し、攻撃しようとする類型です。
部門間の不要な諍いや不毛な争いが繰り返されるという特徴があります。

周りのモチベーション低下に多大な影響をもたらすだけでなく、事態が悪化すると相互排他的な関係となり、どちらか一方が潰されてしまう可能性のある状態です。放置すると大問題や不祥事の原因になるので、早急な解決が必要と言えます。

セクショナリズムが引き起こすリスク

セクショナリズムが引き起こすリスク

セクショナリズムに陥り、部門間の協力関係が乏しい組織には、次の4つのリスクが生じます。

(1)組織内で対立が生まれ、生産性が低下する

セクショナリズムが進行すると、部門間で対立が生まれ、意思疎通がうまくいかなくなります。
部門同士の協力や情報共有が必要な業務が停滞し、組織全体の生産性の低下を招くでしょう。

例えば「他のグループの悪口を言う」「責任を他人に押し付ける」といった状態が横行すると、組織だけでなく社員のモチベーション低下にもつながります。
その結果、心理的安全性が低くなり、パフォーマンスも落ちて、生産性は大きく下がるでしょう。

(2)自部門中心主義によって全体の収益が減少する

セクショナリズムに陥った組織は、自部門の利益を優先するため、他のグループの強みや知見を活かせません。
部門間の情報共有も乏しいため、顧客対応がうまくいかなくなります。
「よそのグループが対応すればいい」という独善的な考えが顧客離れを招くのです。

その損失やミスを他部署のせいにしてしまい、さらなる軋轢を生むこともあります。
その結果、取引先の信頼を失い、非常に大きい損失を生み出しかねない事態となります。

(3)社員のメンタルヘルスが悪化し、離職者が増加する

適度な一体感は、グループ内の結束を高めます。しかし、行き過ぎると過度な同調圧力や仲間意識を生み出します。
その結果、社員は常に周囲の顔色をうかがうようになり、自分の意見を言えない雰囲気が醸成されます。こうなると、与えられた以上の役割をこなすことはありません。

こうして社員のストレスが最大となれば、結果的に離職者が増加する可能性があります。

(4)企業の信頼を損なう可能性がある

部門間の連携がうまくとれていない場合、顧客への対応や情報共有が曖昧になって信用が落ちたり、不祥事や社会問題につながったりする恐れがあります。

また、部門間が断絶していると、重要な情報を伝達できず、ミスや遅延が発生してしまうことも想定されます。このミスや遅延すら上層部に伝わらず対応が遅れると、実質隠蔽状態になってしまうことも懸念されるでしょう。
さらに、部門間の対立や付随するミスが明るみに出てしまうと、企業のイメージを大きく損なうこととなるのです。

セクショナリズムには、上記4つのようなリスクがある一方で、メリットはほぼありません。原因を知り、早急に対処することが必要です。

セクショナリズムが起きる原因

セクショナリズムが起きる原因

社内に過度なセクショナリズムが生まれる原因は4つあります。メカニズムを理解し、対策・改善に役立てましょう。

【原因1】企業規模の拡大

企業規模の拡大によって組織構造が複雑化し、意思決定のプロセスや責任の所在が曖昧になると、部門間の連携が難しくなってセクショナリズムを招く可能性があります。

従業員や部門の数が増え、部門間の関わりが希薄になりやすいためです。
細分化された部門ごとに各々の専門性を高める動きをとることで、円滑な情報共有やコミュニケーションが困難になります。

複数の拠点が存在すれば、部門ごとの物理的な距離による断絶も想定されます。

【原因2】過度な競争意識

社内に適度な競争関係が存在している状態は、会社全体の生産性に好影響を及ぼします。
表彰制度やインセンティブを設けることで、社内に競争意識を生み出す施策をとる企業は少なくありません。
しかし、競争意識が過熱してしまうと、セクショナリズムに発展してしまいます。
その結果、ノウハウや技術を独占し、コミュニケーションをとらない社員が増加する可能性があります。

【原因3】組織内でのコミュニケーション不足

企業規模にかかわらず、社内コミュニケーションがあまり活発でなく、部門や部署が縦割り構造になっている企業は、セクショナリズムに陥りやすい状態です。

上下関係が厳しく、自由に意見が言えない閉鎖的な職場で働いていると、他社への関心が著しく低下します。部門間での情報共有が減り、互いに非協力的になってしまうのですいます。

この状態が長く続くことで、排他的なカルチャーが醸成され、セクショナリズムへとつながります。

【原因4】「企業全体として」という俯瞰的な視点の欠落

部署異動がほとんどない企業では、自分の関わる仕事しか知らない社員が多くなります。

そうなると、業務を広い視野で捉えることが難しくなり、組織全体のバリューチェーンのなかで、自分の業務がどのような役割を果たし、事業に貢献しているのかが理解できません。

気づかないうちに、セクショナリズムに陥る可能性が高くなります。

セクショナリズムをなくすための5つの対策

セクショナリズムをなくすための5つの対策

セクショナリズムを解消するには、次の5つの対策が有効です。

【対策1】ジョブローテーションを増やす

ジョブローテーション制度は、本来社員の能力開発を目的とした制度です。社内の流動性を高め、セクショナリズムを改善するのにも役立ちます。

定期的な配置転換を行うジョブローテーション制度を導入し、社内のコミュニケーションを活性化すれば、部門ごとの縄張り意識を減らせるでしょう。
他の業種や部門への理解が深まり、社員が企業全体を俯瞰して考えられるようになります。

しかし、ジョブローテーション制度は時と場合によって、「器用貧乏」を生み出したり、社員のモチベーション低下につながったりするため、過度な配置転換や人事異動は避けましょう。

【対策2】他部署との情報共有や交流を増やす

部署の垣根を超えたミーティングや、組織横断的なプロジェクト、社内サークル、社内SNSなどでの交流の機会を設けましょう。
定期的に情報共有や交流ができる場をつくることでセクショナリズムを改善するための手助けになります。
成功事例や失敗事例など、部門ごとのナレッジ共有は、新たなビジネスチャンスの創出にもつながります。

他部署同士で協力し合うカルチャーが生まれる効果も期待できるでしょう。

【対策3】企業の目標を共有し浸透させる

企業の中長期的な目標を社員全員に落とし込むことも、セクショナリズムの改善につながります。
経営理念の振り返りや中長期的な目標の周知によって、社員は自分が組織の一員であることに気づけるのです。
これが、企業全体で考える俯瞰的な視点を持つことにつながっていくでしょう。

【対策4】業務プロセスの改善

業務プロセスの構築・改善も、セクショナリズムの改善に必要です。
セクショナリズムは人が原因の場合もありますが、業務プロセスの仕組みに問題がある可能性もあります。

例えば、営業部門は顧客から多くの受注を取り付けますが、製造部門では1日に生産できる量が限られています。そのため、営業部門による過剰な受注は、生産部門の余力を超えて不満が生じます。

この場合は、営業部が1日に注文を取り付ける上限を設定するなどの対策が必要です。
互いに納得のいく業務プロセスを構築することが、セクショナリズムの改善には必要になるでしょう。

【対策5】人事評価制度の改善

個人の能力を評価する制度の整備も重要です。
近年、絶対評価制度を導入し、社員のエンゲージメントを高める施策に力を注いでセクショナリズムを防ごうとする経営者が増えています。

客観的な評価、自分の今の立ち位置などを社員に認識してもらうことは、セクショナリズム改善のきっかけになるでしょう。
企業には、評価制度をフレキシブルに変更しつつ運用していくことが求められているのです。

セクショナリズムの改善事例

セクショナリズムの改善事例

さまざまな企業が、セクショナリズムを解消するために独自の施策を打ち出しています。ここでは、3つの成功事例を紹介します。

【事例1】NTTデータ

NTTデータは、同僚との関係性の希薄さや、社内の風通しの悪さを打破しようとした有志社員による企画・社内SNS「Nexti(ネクスティ)」を2006年に導入。

2009年時点で約7,400人が登録しており、Q&Aコーナーではほぼ毎日、質問と回答が寄せられるようになり、セクショナリズム解消の一助となりました。

Nextiは企業組織に「発信」「気づき」「つながり」の3つの場をもたらし、自分や周囲の価値を再発見して、お互いにつながり合う環境の構築に成功したのです。

【参考URL】
NTTデータの社内SNSが“ITマネジメント革新賞”を受賞 2009年2月12日 | ニュースリリース | NTTデータ

【事例2】日産自動車

カルロス・ゴーン氏が日産自動車株式会社の最高執行責任者になり、2000〜2002年に実施された「日産リバイバルプラン(NRP)」の中に、セクショナリズム解消のヒントがあります。

例えば「クロスファンクショナルチーム(CFT)」が企業風土改革の手法として有名です。クロスファンクショナルチームとは、機能の異なる複数の部門から多様な経験・能力を持つ社員が集められた、経営課題の解決をミッションとする全社横断的なチームです。日産の組織風土に大きな影響を与えており、現在もセクショナリズムに悩むさまざまな企業が採用しています。

また、クロスファンクショナルチームの精神を応用し「V-upプログラム」という日産オリジナルの施策も実施されました。日産の成長や収益性をサポートするための課題解決に取り組む「V-FAST」「V-upチーム」の2チームを組み、部署にとらわれない意見交換の場を作り上げたのです。

【事例3】シャープ

シャープでは、1977年に制度化された「緊急プロジェクト」、通称「緊プロ」という施策が実施されてきました。緊プロとは、各事業部や研究所から人材を集めて社長直轄のチームを組み、緊急を要する開発テーマに取り組むプロジェクトです。会社規模が売上高1兆円を超え、顕著になったセクショナリズムを背景に導入されました。

2016年には、取り組みの一環として「S&Tツリー(戦略と戦術のツリー)」を作成。戦略と戦術のつながりを可視化することで、企業部門間の連携や理解の促進につなげました。

2024年5月には緊プロをさらに進化させ、生成AIやEVエコシステムに関連した施策を進める「イノベーションアクセラレートプロジェクト」、通称「I-Pro(アイプロ)」をスタート。緊プロと同様に、全社横断プロジェクトとして推し進められています。

セクショナリズムの原因を知り、速やかな解決策の導入を

円滑な組織運営を行い、企業全体の生産性や収益性を高めるには、セクショナリズムに陥らないような組織づくりが欠かせません。

今回紹介したジョブローテーションなどの対策は、イノベーションの創造や業務改善など、多角的な企業の課題解決につながります。ぜひ本記事を参考に、企業の経営改善に役立ててください。

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