監査等委員会設置会社とは?監査役会設置会社や指名委員会等設置会社などとの違い

監査等委員会設置会社とは、監査役を置かずに、一部の取締役を「監査等委員である取締役」として、監査等委員会を構成する組織形態です。過半数の社外取締役を含む「監査等委員である取締役」が3人以上いる会議体のことを、監査等委員会と言います。なぜ監査“等”なのかというと、取締役の人事や報酬に対する一定の監督機能も備わっているためです。

この組織設計は2014年の会社法改正によって導入されました。では、監査等委員会設置会社という組織設計ができる前から存在する「監査役会設置会社」や「監査役設置会社」、「指名委員会等設置会社」とはどのような違いがあるのでしょうか。

監査役会設置会社とは取締役とは別に置かれる監査役

監査役会設置会社とは、取締役とは別に、監査役を置く会社です。監査役も取締役同様、株主総会で選任されます。監査役会設置会社と監査役設置会社の違いは、監査役が複数人いるかどうかにあります。複数いる場合は「会」が開かれるので、監査役会設置会社になります。監査役を置くことで、代表取締役たちは、自分たちの業務執行の監督をしてもらえるので、経営に注力することが可能です。

しかし、監査役は経営陣に対する人事権や指揮監督の権限を持っておらず、業務の適法性の監査できないため、限界があるとの懸念があります。そこで、監督機能強化を目的として2002年に委員会設置会社という組織設計が生まれ、2005年の会社法制定や2014年の改正を経たのが、現在の指名委員会等設置会社です。

指名委員会等設置会社とは3つの委員会が設置されている

指名委員会等設置会社とは、取締役会が選任する代表執行役その他の執行役が、委任された業務執行の決定を行います。つまり、指名委員会等設置会社の場合も代表執行役がいわゆる経営者、執行役が経営陣に当たります。

指名委員会等設置会社では、監査役を置かない代わりに、取締役会で次の3つの委員会を設置します。

  • 指名委員会:取締役候補を決める
  • 報酬委員会:役員の報酬を決める
  • 監査委員会:監査役の役割を担う

各委員会の委員は3人以上かつ、過半数が社外取締役である必要があり、各委員会の決定は取締役会も覆すことは不可能です。したがって、具体的な業務執行を決定する委員会と、経営の監督に専念できる取締役会を分離することで、素早い意思決定と、高い監督機能を可能にするとされています。

監査等委員会設置会社とは監査委員会だけ置く会社

それでは、なぜ監査等委員会設置会社が生まれたのでしょうか。それは企業にとって指名委員会等設置会社を導入する垣根が高い点にあります。

指名委員会等設置会社は先述した通り、指名委員会が取締役の候補者を決定し、報酬委員会が取締役・執行役などの個別の報酬内容を決定します。つまり、社外取締役が過半数いる委員会に、上記の権限を委ねなければならないのです。経営者にとって、要となる指名と報酬を自ら決定できないとなると、抵抗感は強くならざるを得ません。日本取締役協会の資料によると、指名委員会等設置会社を採用している企業は東証上場企業3673社中78社となっており、約2%しかありません。(2019年8月時点)

3つの形態の特徴の違い

監査役会設置会社と監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社の特徴の違いは次のとおりです。

組織形態の比較

内容が同じものをクリーム色に塗りました。このように並べると、ますます監査等委員会設置会社が「監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の間にある」ことがわかります。

監査等委員会設置会社のメリット

自社を、監査等委員会設置会社にするメリットを考えてみます。

監査機能の強化

企業にとって最も大きなメリットは、監査機能を強化できることです。「監査等委員である取締役」の任期は2年で、短縮できません。そのほかの「監査等委員である取締役以外の取締役」の任期は1年なので、監査等委員取締役のほうが、会社をより深く知ることができ、その分、監査能力も高まります。

また、監査等委員取締役は、株主総会で、そのほかの取締役の選任や解任、報酬について発言できます。さらに、監査等委員取締役は、業務執行取締役を兼務できないことから、監査に注力可能です。しかも、監査等委員取締役は取締役なので、取締役会決議における議決権があります。

一方、監査役会設置会社にも監査役がいますが、監査役は取締役ではないので、取締役会決議における議決権がありません。

取締役を減らせるので報酬の総額を減らせる

監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社より、取締役の総数を減らすことができます。
なぜなら、指名委員会等設置会社の場合、指名委員会、報酬委員会、監査委員会の3つに取締役を置かなければなりませんが、監査等委員会設置会社には監査委員会しかないからです。取締役の総数が減るため、報酬の総額も減らせます。

「窮屈さ」が少し減る?

指名委員会等設置会社の場合、指名委員会があるので、代表取締役は取締役を指名できません。
また、指名委員会等設置会社には、報酬委員会もあるので、代表取締役が取締役の報酬を決められません。

一方、監査等委員会設置会社には監査委員会しかないので、代表取締役は、取締役の指名の決定にも、取締役の報酬の決定にも関与が可能です。

自社にマッチした形態の模索はまだ続く

監査等委員会設置会社にも、デメリットはあります。監査等委員会設置会社の監査委員会は、取締役の指名や報酬に関与することになるので、監査以外の仕事をすることになります。監査だけに専念できる監査役と比べると、負担が大きくなってしまいます。
その分、監査等委員会設置会社の企業は、監査機能が落ちてしまうかもしれません。

さらにこのようなエピソードがあります。
苦戦が続いていた大塚家具は2019年、監査等委員会設置会社から、監査役会設置会社に移行しました。
大塚家具はその狙いについて「迅速な経営判断につなげる」とコメントしています。裏を返せば、監査等委員会設置会社ではスピード感のある経営ができない、と判断したと捉えられます。

監査等委員会設置会社は創設されてから数年の制度なので、まだこの組織設計がベストであると判断はできません。したがって各企業は、自社の特色にマッチしたガバナンス形態を模索する必要がありそうです。

ランキング記事

1

「選択と集中」の誤算㊤ 大いなる誤訳

2020年3月1日、「経営の神様」と呼ばれたジャック・ウェルチ氏が死去しました。 1990年代後半、経済危機の最中にあった日本で、ウェルチ氏の存在はひときわ強い影響力を持ち、その言葉は「格言」として広まっていきました。しかし、最も有名な「選択と集中」という言葉に関しては、ウェルチ氏の意思が「誤訳」されて伝わっていました――。 フロンティア・マネジメントの代表取締役である松岡真宏が、機関誌「FRONTIER EYES vol.23」(2018年11月)に掲載した記事を再掲いたします。

2

ASEAN トピック「コロナ鎖国」に強いアセアン諸国 食料・エネルギー自給率を比較

コロナウイルスの猛威により、世界中が「巣ごもり状態」、いわば世界中が「鎖国状態」という前代未聞の状況となった。中国では他の地域に先行して生産活動に復調の兆しとの知らせも聞こえるが、地球規模の影響は長期化する可能性が高く、体力の弱い国の財政破綻の可能性すらありうる。一方、近隣ASEAN諸国に目を向けると、食料やエネルギーの自給率の面では、案外強いことに改めて気づかされる。

3

村上春樹さんから学ぶ経営②~作品に潜む成功へのヒント~

前回予告いたしましたように、「村上春樹さんから学ぶ経営」を、シリーズでお届けして参ります。今回のテーマは、「差異化」です。まずは次の一文をお読みください。

4

理想のコーポレートガバナンスを考える上で重要な「エージェンシー理論」とは?

多くの企業が、株主の利益を守るため企業経営を監視し、統制するコーポレートガバナンスを推進しています。 コーポレートガバナンスを考えるうえで有効なのが、ハーバード大学のM・C・ジャンセン氏らの論文で有名な「エージェンシー理論」(プリンシパル=エージェンシー理論)です。 コーポレートガバナンスの目的を達成するためには、まずエージェンシー理論の視点に立ち、経営者と株主の利害関係をとらえなおす必要があります。 本記事では、エージェンシー理論の意味やポイントを解説します。

5

「7割経済」時代の事業再生 Withコロナ ㊤バブル後30年の変化

コロナと共に生きるWithコロナ時代は、「7割経済」と言われている。これは、多くの産業で「コロナ前の水準に業績が回復することはない」ことを意味する。これまでの事業再生は、「経営改革を伴う再生計画を実行すれば、いずれ売上高も回復していく」という基本前提に立っているが、その前提が大きく崩れる。Withコロナ時代はこれまでとは異なる手法、事業再生の「ニューノーマル」が求められる。

人気のキーワード