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オープンイノベーションとは?促進税制や日本における事例を解説
技術の進歩によって、グローバル化やデジタル化が急速に進み、市場の予測はより困難になっています。企業間の競争は日々熾烈を極め、「倒産」をテーマにした書籍も話題に上がるほどです。先行きの不透明感が高まっているからこそ、どの企業も技術革新やイノベーションに取り組む必要があります。 しかし、これまで通りのメンバーと、いつも通りの会議室・研究室にこもりっぱなしでは、新たな価値観やアイデアは生まれません。では、新たなアイデアや価値を創造するためには、どうすればいいのでしょうか。 そのために必要になってくるのが、組織の内外を問わずメンバーが関わり合う「オープンイノベーション」という概念です。 本記事ではオープンイノベーションの必要性や、令和2年に創設されたオープンイノベーション促進税制、事例として横浜市の取り組みを紹介します。
オープンイノベーションとは?定義や目的を解説
「オープンイノベーション」とは現在、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスなどで教鞭をとるヘンリー・チェスブロウ氏によって提唱された概念です。チェスブロウ氏はオープンイノベーションを以下のように定義しました。
かつては栄華を極めていた企業が、現在では経営が立ち行かなくなり、事業のみならず会社ごと買収されたケースが多々あります。一昔前までは世界時価総額ランキングの上位に多くの日系企業が名を連ねていましたが、2020年現在、50位以内には「トヨタ自動車」が残るのみです。なぜ日系企業は世界の企業に後れをとってしまったのでしょうか。その理由のひとつが「イノベーション」への考え方です。
クローズドイノベーションとの違いは共創
これまでは技術やアイデアをできる限り社外に流出しないように、ブラックボックス化することで他社との差別化を図っていました。しかし、こうした閉ざされたイノベーション『クローズドイノベーション』には限界があります。なぜなら技術の進歩やニーズの多様化が急速に進み、自社のリソースだけでは対応が追いつかなくなっているからです。
だからこそ、あらゆる組織の垣根を超えて様々なステークホルダーと“共”に新たなアイデアや価値を“創”りあげなければなりません。この考え方を『共創』といいます。オープンイノベーションはまさに共創を推進するための取り組みと言えるでしょう。
ネットワーキングとは?
オープンイノベーションを活発化する上で重要なのが「ネットワーキング」です。ネットワーキングとは、いわゆる異業種交流会のこと。日常の業務では出会わないような企業の人と交流することで、新たなアイデアの発見や、ビジネスチャンスに繋がる可能性が生まれます。
オープンイノベーション促進税制が創設
オープンイノベーション促進税制とは、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に、国内企業がスタートアップと共同で新規事業を行い、新規発行株式を取得する場合、その取得価額の25%が所得控除される制度です。経済産業省が令和2年度税制改正にて創設しました。
経済産業省の経済産業政策局産業創造課が発表した『「オープンイノベーション促進税制」について』によると、この税制における「オープンイノベーション」とは、以下3つの要件を満たす必要があります。
①対象法人が、高い生産性が見込まれる事業または新たな事業の開拓を目指した事業活動を行うこと
②①の事業活動において活用するスタートアップ企業の経営資源が、対象法人にとって不足するもの、かつ革新的なものであること
③①の事業活動の実施にあたり、対象法人からスタートアップ企業にも必要な協力を行い、その協力がスタートアップ企業の成長に貢献するものであること
この税制によって、新たな風を取り入れたい企業と、資金が必要なスタートアップ企業の垣根が低くなったといえるでしょう。
オープンイノベーションの事例:横浜市の取り組み
オープンイノベーションは企業対企業、企業対大学といった構図が一般的ですが、行政が主体となって取り組んでいる事例もあります。今回は横浜市を例にして紹介します。
なぜ横浜市がオープンイノベーションに取り組んでいるのでしょうか。
横浜市は2019年をピークに今後、人口が減少していくとの予想をしています。また、高齢者人口の増加も懸念しており、人口は減少の一途を辿っているにも関わらず2025年には高齢者が100万人に達する見込です。
だからこそ、このままでは経済活動が縮小し、持続・成長可能な社会が実現できないとの危機感を抱いたため、横浜市は様々な関係者を巻き込み、オープンイノベーションに取り組んでいます。
ここでは数ある横浜市の取り組みの中から3つご紹介します。
メーカーのR&D施設集客を担うみなとみらい地域
横浜港に面しているみなとみらい地域では、主にメーカーなどのR&D(研究開発)拠点を積極的に誘致しています。2020年2月現在、富士ゼロックス、京セラ、日立製作所、日産自動車、資生堂などが施設を構えており、今後は村田製作所やLGエレクトロニクスなど、あらゆる産業分野の企業がみなとみらいに集結する予定です。ではR&D施設の集積は、なぜオープンイノベーションに寄与するのでしょうか。
例えば大阪・京都・奈良にまたがる広域都市・関西文化学術研究都市(通称・けいはんな学研都市)は官民学を問わず140を超える施設が立地しており、すでに研究開発が進んでいます。
企業が特定の地域に集まるメリットのひとつは、企業間の連携につながりやすいという点です。所属する組織の外部と関わり合うことは新たなアイデアや技術の開発に発展しやすく、世界的に有名なイノベーション地域であるアメリカのシリコンバレーや、中国の深センなどはその代表例といえるでしょう。
けいはんな学研都市は茨城県に位置する筑波研究学園都市とともに、国家的プロジェクトとしてスタートしましたが、基礎自治体である横浜市も、R&D施設の集積に挑戦しようとしているのです。特に⾃動⾞サプライヤーの世界トップ30のうち約半分の13社が横浜に拠点を置いており、今後に期待が高まります。
ベンチャー企業をつなぐネットワーキングの場「YOXO BOX」
横浜市はベンチャー企業の集積と成長支援にも取り組んでいます。そのひとつが2019年10月、関内地区に開設されたベンチャー企業成長支援拠点「YOXO BOX(ヨクゾ ボックス)」です。
YOXO BOXは通常時、コワーキングスペースとして利用でき、定期的に交流会やビジネスイベントなどのネットワーキングも開催。
また、ベンチャー企業の成長支援プログラム「YOXOアクセラレータプログラム」や個別相談会なども行っており、ベンチャー企業にとって充実した設備です。みなとみらい地域にあるR&D施設との連携も視野に入れています。
リビングラボは市民と企業の架け橋となる
「リビングラボ」という存在も重要になっています。リビングラボとは新たな商品やサービスの開発にあたり、企業や研究機関、NPO法人に加えて市民やユーザーなども参加し、イノベーションを創り出す活動、または拠点のことです。
サービスや商品を開発し販売する側だけでなく、実際に利用する関係者も巻き込むことで、市場のニーズや変化をいち早く察知できる点がリビングラボのメリットといえます。横浜市では少なくとも6カ所以上でリビングラボが設立されています。
例えば横浜市金沢区にある『SDGs横浜金澤リビングラボ』ではNPO法人、農家、お寺、大学などが連携し、栽培や収穫、食育などの体験を提供しています。この他、地元である金沢八景にちなんだ『金澤八味』という唐辛子の販売するなど、地域ブランド商品の開発にも繋がっています。
オープンイノベーションは実践してこそ
今回は行政を主体としたオープンイノベーションの事例を紹介しましたが、もちろん企業が主体となって様々な企業や研究機関と関わり、成功をしている事例も数多くあります。いずれにせよ、自社内だけで課題を解決し、成長することは今後一層難しくなっていくことでしょう。会社の現状を憂慮している方は、一度外の世界とも交流してみてはいかがでしょうか。
参考
けいはんな学研都市とは
ヨコハマ・イノベーターズ・ハブ
横浜市のオープンイノベーションの推進
「オープンイノベーション促進税制」について
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