電子政府「エストニア」について

エストニアは、バルト海、フィンランド湾に面した国です。面積は日本の九州地方程度で、人口も132万人と規模の小さな国と言えるでしょう。

そのエストニアは1997年に国家戦略として「e-Governance」を推進し、福利と国家競争力の向上を図るという選択をしました。「e-Governance」とは、コンピュータネットワークやデータベース技術などの情報通信テクノロジーを基盤として、行政手続きのオンライン化や行政情報のオープンデータ化した行政機構を意味し、日本語では「電子政府」や「電子国家」と呼びます。

現在のエストニアでは15歳以上のすべての国民が、電子身分証明書である「eIDカード」を保持しており、2007年には世界ではじめて国政選挙で電子投票を採用しました。

電子政府化がエストニアにもたらしている恩恵

電子政府化がエストニア国民にもたらしている恩恵には、次のようなものがあります。

結婚・離婚・不動産売買以外はオンラインで完結可能

エストニアでは結婚・離婚・不動産の売買以外の事柄については、ほとんどすべてオンライン上で完結できます。子どもが生まれた際の出生届や会社の登記申請なども、わざわざ役所に出向かなくてもオンライン上で手続きを完了できるのです。

さらに、エストニアの確定申告では、約95%もの人が電子納税しています。(所得税申告における日本の「e-Tax」利用率は約58%)

世界中からエストニアの電子国民になれる「e-Residency」制度

エストニアには、世界中からエストニアの電子国民になれる「e-Residency」という制度があります。e-Residencyは、エストニア政府のプラットフォームを外国人向けに解放した世界初の電子国民制度です。2020年4月現在、全世界167カ国の5万2千人以上の人がエストニア電子国民として登録しています。

e-Residencyの申請は、e-Residencyウェブサイトの申請ページから行います。申請の必要なものはパスポート・顔写真・申請料100ユーロ(クレジットカード支払い)です。

この制度のメリットは法人登記が容易にできるという点です。世界中のどこに居住を構えていてもオンライン上でe-Residencyに登録できます。短時間で法人を設立でき、法人税も優遇されているため、起業環境が整っていると言えるでしょう。実際、e-Residencyによる起業数は約7,000社に及びます。

また、EU域外の外国人起業家に向けたビザである「エストニア・スタートアップ・ビザ」の存在ほか、定期的に「ハッカソン」や最新のテクノロジーに関するイベントが開催されています。

エストニア発のユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の未上場スタートアップ企業)は2020年4月現在、4社存在しており、人口一人当たりのユニコーン企業数は世界一です。

2003年に誕生した「Skype」は日本でもサービスの利用者が多く、そのほかにも配車サービス「Bolt」やオンラインゲームソフトウェアメーカー「Playtech」、世界的な国際送金サービスの「TransferWise」が名を連ねます。

なお国土、人口ともに規模がエストニアの何倍もある日本のユニコーン企業数は3社です(2020年4月現在)。

エストニアはe-Health先端国

エストニアは情報通信技術を医療分野に導入し、個人の健康を高める取り組み「e-Health」の先進国でもあります。

病院やクリニックがそれぞれに保管している患者のデータベースを統合したポータルサイト「EHR」や電子処方箋「e-Prescription」、30秒以内に救急車の電話を検出して緊急救急車を必要な場所に迅速に送信できる応答ソリューション「e-Ambulance」などが有名です。

e-Healthの導入および普及により医療の効率化が推進され、医療の高品質化や低コスト化を実現しています。

エストニアはICT教育先進国でもある

エストニアでは、幼児教育の段階において「ICT教育」を導入しています。2012年頃から政府主導でプログラミング教育の推進がスタートし、「プログラミング」や「アプリ開発」などを小学校の選択授業に取り入れています。

一方、日本では2020年度から小学校、2021年度からは中学校でプログラミング教育が必修化されます。エストニアがいかに早くデジタル技術の重要性に気づき、国をあげて取り組んでいるのかが分かる事例でしょう。

エストニアが電子政府を目指した背景

なぜエストニアは電子政府へと舵を切ることになったのでしょうか。その理由を解説します。

1.歴史的背景

1つ目の要因は「エストニアの歴史的背景」です。エストニアは長年に渡ってデンマークやスウェーデン、ドイツやロシアなど、他国から侵略を受けてきた歴史があります。1991年に旧ソ連の崩壊によって独立を果たしましたが、その際に国を立て直すための施策のひとつがITインフラです。
ITインフラを整備することで、領土を失ったとしても、国家情報を再生できるよう国民のデータを集められます。幾度にも渡る他国からの侵略がエストニアの電子政府化推進の発端と言えるでしょう。

2018年には、世界初となる「データ大使館」をルクセンブルクに開設しました。データ大使館は、エストニア政府に関するデータやシステムのバックアップ機能を持ちます。たとえ他国から侵攻を受けたとしても、同盟国のサーバーに保管しておくことで国民のデータは維持することが目的です。
また、当時のエストニアには人工知能などを研究していた最先端技術の研究所があり、電子政府のシステムを構築する地盤が整っていたことも関係しています。

2.電子データ共有システム「X-Road」

2つ目の要因は「X-Road」という電子データ共有システムの存在です。

エストニアは2001年に異なる機関のデータベースを連携させるプラットフォーム「X-Road」を構築しました。X-Roadの技術は、先述した電子身分証明書・eIDカードにも活かされています。例えばこのカード1枚あれば、運転免許証にもなり、健康保険証や、電子投票の投票券、交通系ICカードにもなるのです。

X-Roadの導入によって651の機関と企業、504の公的機関、さらに2,691の異なるサービスが連携。国民はワンストップでさまざまなサービスを利用できるようになりました。

現在、X-Roadはエストニア国外でも導入が進んでおり、アゼルバイジャン・フィンランド・ウクライナ・モーリシャス・ナミビアなどの国で導入されています。

電子政府化の推進が日本経済を動かす

総務省によると「モバイル端末」と「パソコン」の世帯保有率は、それぞれ94.8%と72.5%に及びます。つまり、人口の大半が情報通信機器を所有している時代です。行政に関する手続のオンライン化や情報のオープンデータ化は避けては通れません。

エストニアの事例をそのまま日本に適用することは困難かもしれませんが、デジタル手続法によって日本も今後、e-ResidencyやX-Roadのようなシステム・制度が生まれることが予想されます。その結果、個人だけではなく、企業にとってもメリットが生まれるはずです。時代の先を読み、ビジネスを展開していきましょう。

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参考
デジタル手続法(デジタル行政推進法関係)に基づく政省令及び情報システム整備計画の策定について
マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(令和2年3月1日現在)
外務省「エストニア共和国 基礎データ」
平成 30 年度における e-Tax の利用状況等について
電子国家「e-Estonia」へようこそ
未上場スタートアップ上位20社、企業価値計1兆円超え
平成30年版 情報通信白書|情報通信機器の保有状況

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