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クロスボーダー経営成功の要諦はPMI リアル×デジタルのバランスが重要
クロスボーダー経営は、多くの企業にとって今後避けて通れない道だ。特にM&Aを活用したPMIは重要な位置づけを占める。難易度の高いクロスボーダー経営/PMIを成功に導くキーワードとして、今回は「ファクトベース」「ロジック」「多様性」「デジタル」を取り上げる。
クロスボーダー経営とは
「クロスボーダー経営」とは海外事業、すなわち国境を越えた経営を指す。日本国外での事業を展開するクロスボーダー経営は、ハードルが高いという印象を抱いている経営者、もしくは実際に海外事業展開で苦労している経営者は少なくないだろう。
一方で、少子高齢化による国内市場の成熟化はすでに始まっているため、海外市場に目を向けることは避けては通れない道だ。
日本企業のグローバル展開における課題
出所:経済産業省「変革の時代における人材競争力強化のための9つの提言」
日本経済団体連合会によるアンケート(図1)では、日本企業がグローバルに事業を展開していく上で、本社および海外の現地におけるクロスボーダー人材が不足していること、そして、海外の現地事情に関する理解が不足していることなどが課題として挙げられている。
クロスボーダーM&A市場の現状
クロスボーダーM&Aは「In-Out」と「Out-In」に大別できる。「In-Out」は日本企業による海外企業の買収、「Out-In」は海外企業による日本企業の買収を意味する。
ここでは、In-Out案件とOut-In案件の直近の推移について見ていく。
In-Out案件の推移
クロスボーダー人材不足という課題を抱えているにもかかわらず、In-Out案件の件数は図2の通り2019年まで増加基調であり、2020年にコロナ影響で減少するも2023年には再び増加している状況だ。
Out-In案件の推移
また、これは立場が逆の話になるが、Out-In案件の件数も図表3の通り増加傾向にあり、日本国内においても競争という観点でクロスボーダー経営を意識するケースは増えている。
クロスボーダーPMIの重要性
「In-Out」、「Out-In」を問わずクロスボーダーM&Aの件数が増加傾向にある中、重要になるのがクロスボーダーPMIだ。PMI(Post Merger Integration)はM&A後の経営に直結する統合プロセスになる。統合する範囲は経営、業務、意識など多岐に渡るため、重要な役目を担っている。
クロスボーダーPMIはIn-In案件、つまり国内企業同士のM&Aよりも難易度が高くなる。例えば、文化や考え方が異なる。日本国内の企業同士でさえ組織風土・文化が異なるため、その統合はより難しい。また、標準化された業務プロセス、業務マニュアルが整備されていない場合、業務統合が長期化してしまうケースも考え得る。そのため、クロスボーダーPMIがクロスボーダー経営の要諦だと言えるだろう。
クロスボーダー経営/PMIを成功させる3つのポイント
続いて、クロスボーダー経営/PMIの課題とその解決策について述べる。
一言でクロスボーダー経営/PMIと言っても色々なパターンが考えられるので、実際には個別に見ていかないと課題解決は難しい。本稿では筆者の経験を踏まえた典型的な課題と解決策について言及する。
なお、以下は日本企業の海外事業展開を念頭に置いているが、外資企業の日本法人経営についても同じことが言えるだろう。
1.ファクトベースのロジカルなコミュニケーション
海外企業のマネジメントや、日本における外資系企業の経営者と話す中でよく聞く言葉がある。
「海外企業は日本よりもファクトベースでロジカルな説明を求められる」
というものだ。
当然ながら、日本でも上記を徹底している企業は数多くあるので、決して「常にそうである」ということを言うつもりはない。
しかし、海外ではいわゆる「阿吽(あ・うん)の呼吸」というものが全く通用せず、すべて明確に説明する、そして文字にして残す、ことが求められるケースが多い。つまり「リアルの見える化」だ。
したがって、このような考え方がベースにある海外子会社の現地経営陣に対しては、日本本社および現地の日本人駐在員もコミュニケーションを取る際に、しっかりと現状分析結果・抱えている課題・そしてそれに対する打ち手・日本本社からの支援というものを明確に示した上で、議論を進めていく必要がある。
2.多様性を前提としたリアルの理解
クロスボーダー経営/PMIを更に難しくしているのが、前提条件の違いである。
経営数値をベースにした説明(ファクトベース)をしても十分に分析結果や対策の意義が伝わらないケースもある。そして、それは文化や考え方、生活習慣などに起因するものが多い。こちらも「リアルの理解」が不可欠となる。
例えば、よくあるのが生活スタイルの違いだ。アメリカは車社会であり、日本では電車をよく使う。もちろん、アメリカでもNYでは電車通勤者は多いし、日本でも地方や郊外に行くと車通勤が一般的なので一概に言えないが、アメリカにおけるドライブスルーの定着度は目を見張るものがある。
ファーストフード店舗は当然のことながら、銀行のATM(これもキャッシュレス化が進むにつれて需要はなくなっていくと思われるが・・)や薬局、そして郵便ポストなども車に乗ったまま手紙や荷物を投函できるようになっている。
更に、新型コロナウィルスの感染拡大により、スーパーやドラッグストアでのドライブスルー(注文や決済は事前に終えているため、ドライブスルーとは区別して「カーブサイドピックアップ」とも呼ばれている)も生活に浸透している。
荷物や商品のサイズなども、車に載せることが前提となっているため、コンパクトにする意識が希薄である。
一方、日本では電車移動で買い物するケースが多いため、駅ビルの位置づけや重要性は海外とは異なる。
また、満員電車の中で持って移動することを考えると、商品サイズやポータブル性といった観点も売上に影響を与える要素となり得る。
これらのことが売上やコスト増減の要因となっている場合には、生活スタイルの違いを理解していないと、それぞれ自国基準で考えてしまうため、空中戦の議論が繰り返されて話がかみ合わない。
このことは「クロスボーダー経営あるある」の一つとしてよく挙げられるが、リアルに経験しないと腹落ちしない点でもある。
3.デジタルの活用
このような多様性を理解した上で、ファクトベースでの説明にデジタルを活用することは効果的なケースが多い。オンライン会議で資料を共有しながら説明することは、当たり前となった。
一方で、中堅・中小企業に関しては、そもそもそれらの資料が準備されていない、資料はあるが準備に時間がかかる、もしくは資料の中で使用されている数値の定義や説明の仕方が統一されていない、といった課題を抱えていることが少なくない。
とは言うものの、大がかりなシステム導入は膨大なコストと時間がかかるため、Quick-win策としては、まずはお互いの目線を合わせるところからスタートすれば良いだろう。
その際、マニュアル対応はエラーも多く、負担も重くなってしまうため、始められるところからデジタル(エクセルやBIツールなど)を活用して効率的に経営ダッシュボードを構築し、タイムリーにクラウドベースで共有できると望ましい。
そして、それらを基にして各国の事情を勘案した経営状況の説明、そして次へのアクションにつなげていける企業が、クロスボーダー経営をうまく軌道に乗せられるはずだ。
このように書くと、やるべきことは一見当たり前でシンプルなように見えるが、それでも苦しんでいる企業が多いところを見ると、やはり冒頭に上げた「クロスボーダー人材不足」というのがまずはクリアするべき社会的課題なのかもしれない。
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