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人間に「残る仕事」は何か?技術革新で「消える仕事」「生まれる仕事」
AIやロボットに代表される技術革新の台頭により、今後は流通・サービス業に従事する労働者にとって「消える仕事」と「残る仕事」の選別が本格化していく。一方で、デジタルサービスの周辺領域では、新たに「生まれる仕事」がある。どんな仕事が人間に残され、そして生まれるのか。最近の企業事例を紹介しながら、第4次産業革命後における流通・サービス業の雇用問題について考察する。
ZOZOCOSMEが奪う雇用
ファッションEC大手のZOZOは、2021年3月にコスメ専門モール「ZOZOCOSME」を開業した。国内外500ブランドのコスメ商品を24時間どこからでも購入できるというEC本来の価値提供に加えて、フェイスカラー計測ツール「ZOZOGLASS」による商品レコメンド機能が導入された。
専用眼鏡(ZOZOGLASS)をかけた状態でスマートフォンを使い、自分の顔をカメラ撮影すると、肌の色を構成する色素(ヘモグロビンとメラニン)が識別され、撮影環境の影響を受けることなくユーザーの肌の色が計測されるとのことだ。
苦境深まる「対面接客」
かたや、コスメ商品の既存の販売チャネルは苦境が続いている。昨年以来のコロナ禍の影響で、訪日外国人の客足が消失したうえに、非接触ニーズの高まりによって、国内顧客への対面接客の機会も減退しているためだ。ZOZOCOSMEの登場は、利用者にとっては朗報だが、百貨店やドラッグストアのコスメ売場に追い討ちをかける脅威となるかもしれない。
保育、教育、医療は「人間」に残したい…
ZOZOCOSMEに代表される技術革新を伴う新規サービスは、労働集約的なサービス業の雇用を代替していくかもしれない。
一橋大学経済研究所の森川正之教授の調査によると、AIやロボットによる代替可能性は、業種やサービス内容によって異なることが分かっている。上の表で示すように、自動車の運転、家事支援、理美容サービス、高等教育等はAIやロボットによる代替サービスへの(消費者の)抵抗感が少ない一方で、保育、初等教育、医療の分野では人間によるサービスへの選好が根強く残っている。
ボーモル効果とは
人間に「残る仕事」は、社会的な意義が大きいと同時に、国民経済における存在感も大きい。前述の森川氏は著書「生産性 誤解と真実」(日本経済新聞出版)の中で、技術革新の速度が異なる産業のGDP寄与度に関する逆説的な現象について指摘している。いわゆる「ボーモル効果」だ。
「ボーモル効果」は、20世紀の米国の経済学者ウィリアム・ボーモルが理論化した。技術革新による生産性改善スピードが速い産業は、生産される財・サービスの価格が低下(いわゆる「良いデフレ」)していくため、結果としてその産業の国民経済(名目GDP)に占めるウェイトが低くなるという逆説的な現象を指している。
「人間に残る仕事」のGDP寄与度はかえって高まる
これとは逆に、技術革新スピードが緩やかで人間に「残る仕事」が多い産業では、サービス価格の低下が緩やかとなるため、結果として名目GDPに占めるウェイトが上昇していく。
代表的な産業は前述の介護や医療だが、この分野での雇用のマッチングの成否が我が国の国民経済に与える影響は極めて大きい。とりわけ、介護分野に対しては、特定技能の在留資格者を中心に、外国からの人材受け入れを官民で強化していく必要がある。
リアルとネットの融合で「生まれる仕事」
人間から消える仕事、残る仕事とは別に、技術革新の登場によって「新たに生み出される仕事」も存在する。
IT領域のエンジニアやUber Eatsの宅配員が代表格だが、筆者が注目したのは、ミニット・アジア・パシフィックが運営する靴・鍵等のリペアサービス店舗「ミスターミニット」とフリマアプリ「メルカリ」の業務提携だ。
ミスターミニットの実証実験店(東京都内6店)が提供する新規サービスは、メルカリで購入した商品のリペアに加えて、出品商品の修繕、梱包、撮影、発送準備のサポートである。フリマアプリから派生的に発現した消費者ニーズに対して、リアル店舗を営む既存事業者が狙いを定めたという点において、興味深い取り組みと言える。
DXと同じくらい、大切なこと
AIやロボットなどの技術革新が既存の産業から雇用を奪うのは免れないが、人間に残る産業や仕事の名目GDP寄与度は逆説的に高まる。加えて、技術革新によって新たに生まれる消費者ニーズや、それに応える産業や仕事も出現してくる。企業戦略や公共政策において、技術革新の積極的な導入(DX)と同様、あるいはそれ以上に重要なことは、人間に残る産業・仕事における人的資源のマッチングであり、新たな消費者ニーズを捕捉する事業・制度設計である。
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