EVへの移行とエンジン部品の今(6)エキゾーストマニホールド

エンジン車特有の部品事業の「今」を見ていく本連載。6回目は「エキゾーストマニホールド」に焦点を当てる。鋳鉄からステンレスへの素材転換に伴って一部のプレーヤーが事業の縮小を迫られた一方で、自動車の電動化を受けて、自動車メーカーがエキゾーストマニホールドの生産をサプライヤーに任せるケースも出ている。

シェアする
ポストする

▼EVへの移行とエンジン部品の今(シリーズ通してお読み下さい)
「EVへの移行とエンジン部品の今」シリーズ

エキゾーストマニホールドはエンジン性能を左右する「たこ足」

エキゾーストマニホールドは、エンジンの各気筒から排出されたガスが、外に出ていく際に通る管の一種だ。排ガスは、エキゾーストマニホールドから触媒に送られて浄化され、マフラーで消音され、外に出る。最初の通過点であるエキゾーストマニホールドは、排ガスが効率的に流れるように複雑な形状をしている。「たこ足」とも呼ばれ、エンジンの性能を左右する重要部品だ。

トヨタ系列がシェアトップ3

図表_エキゾーストマニホールドの国内市場シェアのグラフ

出典:総合技研 『2023年版 自動車部品の納入マップの変化と現状分析』

上図はエキゾーストマニホールドの国内市場シェアのグラフ(2022年)だ。アイシン高丘(直近の全売上高約4,200億円)、フタバ産業(同約8,000億円)、三五(同約7,300億円)とトヨタ自動車系列がトップ3を占める。スズキや日野自動車向けが多いプロテリアル(旧日立金属、同約1兆円)が続き、かつての日産自動車系列筆頭だったカルソニックカンセイを前身とするマレリ(同約1兆6,000億円)が5位にいる。

坂本工業(同約1,100億円)はSUBARU向け、ヒロテック(同約500億円)はマツダ向け、ユタカ技研(同約2,100億円)はホンダ向け、IJTT(同約1,600億円、円グラフのその他に含まれる)はいすゞ自動車向けで、それぞれ大半を占める。自動車メーカーごとに有力サプライヤーが存在しており、いわゆる系列色が強いのがこの市場の特徴だ。

マフラー市場と同じ顔ぶれ

マフラー市場と同じ顔ぶれ

エキゾーストマニホールドとマフラーの参入プレーヤーは重複が多い。どちらも排気システムの構成部品であること、素材がステンレスで共通していることが関係している。各プレーヤーは、複雑形状の曲げ加工・プレス加工のノウハウを複数の部品にまたがって生かしている。

三五、ユタカ技研、マレリ、フタバ産業などは、エキゾーストマニホールド、マフラーに加え、触媒コンバーターも生産しており、排気システムを一手に引き受けることで競争優位性を保っている。

ちなみに前回取り上げたインテークマニホールド(EVへの移行とエンジン部品の今(5)インテークマニホールド)は、排気系とは反対の吸気系に装着される管であり、排気系ほど耐熱性能が求められず、樹脂化が進んでいる。素材が違うため、参入プレーヤーの顔ぶれもまったく異なっている。

素材は鋳鉄からステンレスに

これまでの連載で取り上げた燃料タンクやインテークマニホールドと同様に、エキゾーストマニホールドも素材の転換が起きた。排ガス規制強化や軽量化の需要の高まりを受け、1980年代後半から、ステンレス製への置き換えが始まった。それまでは鋳鉄製(鋳物)が主流だったが、現在はターボ車以外のほぼすべてのガソリン車にはステンレス製が採用されている。ターボ付きのガソリン車やディーゼル車は、形状自由度の高さなどから今も鋳鉄製が採用されている。

日産の100%子会社でエンジン製造などを手掛ける愛知機械工業(直近の全売上高約1,400億円)は、鋳鉄製エキゾーストマニホールドを生産していたが、ステンレス製への置き換えを受けて事業を縮小。マツダに鋳鉄製を供給していた北川鉄工所(同約600億円)も、サービスパーツのみの取り扱いに変えた(2019年時点)。各社ともエキゾーストマニホールド以外にも多様な部品を生産しており、注力する生産品目を選択・集中する中で、エキゾーストマニホールド市場で優劣がついた。

シリンダーヘッドと一体化で自動車メーカー内製の動きも

シリンダーヘッドと一体化で自動車メーカー内製の動きも

エキゾーストマニホールド市場は、自動車メーカーによる内製が1割を占める。これには、「シリンダーヘッド」と一体化したエキゾーストマニホールドが一部車両で採用されていることが関係している。シリンダーヘッドは、エンジンを構成する基本的な部位であり、自動車メーカーが内製する割合が高い。このため、シリンダーヘッド一体型エキゾーストマニホールドも、自動車メーカーが内製しているものが一定数あるとみられる。

エキゾーストマニホールドをシリンダーヘッドと一体化する狙いは、エンジンを小型化でき、コスト減や軽量化に寄与するためだ。触媒の位置をエンジンにできるだけ近づけた方が触媒機能を高められるという技術的要因もある。一体化が普及すると、自動車メーカーの内製が増え、エキゾーストマニホールドのサプライヤーには逆風となる可能性がある。

トヨタは三五に生産移管

一方、最近の電動化の流れを受けて、自動車メーカーがサプライヤーに生産を任せる動きも出ている。トヨタは下山工場(愛知県みよし市)が担っていたエキゾーストマニホールドの生産を三五に移管することを決めた。2024年中に移管を完了し、三五の売上高は30億円強増える見込みだ。トヨタは下山工場に電池の生産ラインを新設する計画で、経営資源を次世代投資に振り向ける。

エンジンバルブでも自動車メーカーが内製を部品メーカーからの調達に変えた動きがあった(EVへの移行とエンジン部品の今(3)エンジンバルブ)。電気自動車(EV)シフトでエンジン車特有の部品市場の縮小が見込まれる中で、部品メーカーが自動車メーカーの内製部品の生産を譲り受けるのは、将来投資の原資を稼ぐうえで有用な手段となりうる。

文献
総合技研『2023年版 自動車部品の納入マップの変化と現状分析』
2021/03/12 鉄鋼新聞『食卓から宇宙まで、金属素材の使われ方/(25)自動車排気系部材とステンレス』
本田技研『ホンダPRESS INFORMATION(FACT BOOK) FIT』 
2023/07/26 中部経済新聞『トヨタ系部品メーカー/トヨタから内燃機関部品受注/内外製見直しの一環で/将来投資への原資』
ニュースイッチ『トヨタが電池生産増強、最大7300億円投資|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

※メールアドレスをご記入の上送信いただいた方は、当社の利用規約およびプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

コメントが送信されました。

関連記事