2025年に加速するPBR1割れ企業の淘汰。対抗するための新しい切り札は

2024年の日本経済を振り返ると、ウクライナ戦争やパレスチナ問題といった地政学的リスクや中国経済の鈍化など海外需要に不安要素は確かにあった。しかし、実質賃金の上昇と価格転嫁を背景としたインフレ回帰、コロナ禍からの脱却や日本円の下落を背景としたインバウンド需要の回復、デジタル化、脱炭素、人手不足などを背景に、設備投資の増加などがドライバーとなり、内需リードでの景気の回復が見られている状況だ。

本稿ではこうした現状をふまえ、2025年の日本経済の動向と企業に求められる変化や対応策について考えたい。

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2025年にはPBR1割れ企業の淘汰が加速する

2025年にはPBR1割れ企業の淘汰が加速する

日本の景気が上向いている中、国内の上場企業の収益状況を見てみると、増収増益傾向で順調な状況が続いているように見える。しかしながら、この成長傾向が持続的なものかというと、長期的には人口減に伴う縮小傾向が続く内需リードでの回復なので、決して安心できる状況にはないと筆者は考える。

また持続的成長の鍵となる海外市場での競争を考えると、日本企業の収益構造は決して欧米企業に比べ強いものではなく、低水準なROEやPBR1割れの企業が多い状況はあまり改善していないままだ。そのような状況の中、2025年では、たとえ黒字でも資本効率の低い企業はM&Aのターゲットになるなど日本企業に対する淘汰の動きが加速すると予想されている。

図表1_上場企業の売上高・営業利益の推移
出所:nikkei225fut.jp『3月期決算 上場企業業績推移』
https://nikkei225fut.jp/fundamental/listed_company_profit(2025/1/3)

図表2
出所:東京証券取引所『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する現状と今後の施策(案)について』(https://www.jpx.co.jp/news/1020/20240830-01.html

日本企業がビジネスモデルを進化させられない理由

このような淘汰の動きにのまれないための基本的な考え方として、ROEとPBRを高めることが言われ続けている。しかし多くの上場企業では、既存のビジネスモデルを前提にしたままでも行えるいわゆる“効率性改善”に類する施策に関してはやりつくしてきている場合が多い。それでもPBRが1割れし、M&Aの餌食になるリスクに直面している状況では、ビジネスモデル自体の転換を図る必要があると考えられる。

しかしながら、筆者はコンサルティング、ファンド、事業会社での経営の経験を通じ、日本企業は欧米企業に比べ大きなビジネスモデルの刷新・進化が苦手だと感じている。その理由については、日本企業では、ビジネスモデルの転換を考えるタイミングやプロセスが予算策定の延長線上(予算策定期間が3~5年に伸びただけの中期計画策定)になっている場合が多かったり、現状のビジネスモデルを前提にして機能別に分けられた組織それぞれが別々に検討した施策の積み上げで戦略を作っていたり、戦略検討をリードするべき経営企画部門が各部署の意見集約的な機能の位置づけになっていて抜本的な戦略再検討をリードするスキル・経験が不足していたりするケースが多いからと感じている。

そこで次に企業が考えることが、戦略コンサルなど外部の力を借りて戦略検討をリードしてもらうことだが、この方法でも壁にぶつかるケースが多く見られる。筆者はこの原因が、外部の人間には組織・ガバナンスの問題が表面的にしか理解できない点にあると考える。

ビジネスモデルの変革で陥りがちな失敗パターンとは

ビジネスモデルの変革で陥りがちな失敗パターンとは

ビジネスモデルを変えるためには、「狙う市場や提供する付加価値、競争優位性の出し方を変えることで抜本的に事業構造を変える」「抜本的に事業構造を変えるために必要なオペレーションの組み替えをする」「オペレーションの組み替えをするために、新たな組織形態に対して、新たな責任・役割の分担や意思決定の仕組みを構築し、その新しい仕組みがスムーズに回るカルチャーやマネジメントスタイルを醸成する」という三つの大きく異なるレイヤーにおける変化の因果関係を理解し連動させなくてはならない。

しかしながら、この最後のレイヤーである組織・ガバナンスに関わる変化に関しては、7Sのように多岐で抽象度の高い事象に対して、どこをどのように変える必要があるのかを理解したり、実際に変化を起こすために、誰から誰にどのようにコミュニケーションをして変化を起こすとスムーズにいくのかといった微妙な人間関係を外部の人間が短期的に理解したりすることが難しく、結果、「コンサルを入れて戦略や戦術は描けたが、現場への落とし込みができず実際の結果がなかなか出ない」といった状況に陥ってしまうと筆者は考える。

ビジネスモデルの変革に対する新しい切り札 CSO派遣

そこでビジネスモデルの変革に筆者が有効だと考える手段は、CSO(戦略担当執行役員)派遣だ。当社経営執行部門では、CXO派遣という形での経営支援を行っているが、2024年ではこのタイプの受注が急激に伸びた実績がある。これはコンサルという立場から分析やアドバイスをするのではなく、実際にクライアント企業のCXOなどの経営ポジションに対して、経営経験・コンサル経験の両方を併せ持つプロを半年~2年といった期間で派遣するという支援方法になる。

今回のビジネスモデルの変革に対する場合ならば、CSO、経営企画室長といったポジションに対する経営・コンサル経験者とそのサポートをするジュニア・メンバーやバックに控えるアドバイザーなど数名を合わせたチーム派遣を行うイメージになる。

この支援方法の場合、コンサルが数人のキーパーソンにヒアリングするなど限られた方法で組織・ガバナンスの状況を理解するのと違い、毎月の経営会議や現場会議に出席して、経営陣個々人や現場キーパーソンの発言の癖、人間関係を理解したり、日々の予算統制や労務管理のやり方を実際に体験したりすることで、組織・ガバナンスの課題を深いレベルで理解できるようになる。

また、新しいCSOや経営企画室長を実際に採用するのとは違い、雇ってみたら部下と性格が合わないなどといったケースでも会社(フロンティア・マネジメント)として業務を請け負っているため、人員の交代ができたり、派遣された本人だけでは足りないスキル・経験に関してはバックのアドバイザーがサポートしたり、手足となって動く部下が足りなければ分析作業に慣れたジュニア・スタッフと一緒に派遣したりするなど経営企画機能全体がワークする状態に必要な体制をチームとして派遣することで、実効性を高めている点がメリットになる。他にも日々接点のある上司がコンサル経験を持った人間となるためクライアント企業の経営企画メンバーに対するコーチングもでき、コンサル流の戦略検討メソッドや、現場に落とし込むテクニックといったものが自然と伝授される副次的な効果も生まれる。

CSO派遣という選択肢は、いわゆるコンサルプロジェクトに比べ、戦略検討やその現場への落とし込みに時間をじっくりかけることになるが、時間的な猶予がある場合、ビジネスモデルの刷新といった複雑な活動を成功させるためには有効な切り札となり、2025年ではより普及していくと筆者は感じている。

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