不穏なスタート

不穏なスタート

1993年4月1日。わたしが日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)に総合職として入行したその日、頭取が不良債権問題で国会に招致され、午後になってようやく入行式が開かれた。

1989年に日経平均株価が史上最高値をつけて以来、株価は下がり続けていた。大蔵省(現財務省)の不動産取引の総量規制をきっかけに、地価の下落に歯止めがかからなくなった。

それでも、社会はどこかバブルの余韻に浸り、楽観的な気分が抜けていなかった。

1993年は皇太子殿下と雅子さま(天皇・皇后両陛下)のご結婚、サッカーJリーグの開幕と明るいニュースが続いた。一方で、金融機関の不良債権問題が表面化するなど、今後の「失われた30年」と呼ばれる日本経済の停滞の前兆が見え始めていた。

どうして女性が総合職?

どうして女性が総合職?

日債銀に採用されたわたしの同期は、総合職・一般職・専門職あわせて126名、うち7名が女性総合職だった。

採用や昇進などの女性差別を禁止した「男女雇用機会均等法」が施行されて7年目、ほかのメガバンクと比べれば、女性を積極的に登用していた。

均等法以前は、男性は総合職、女性は一般職(補助的な職務)という採用が、当たり前に行われていた。

面接では「どうして(女性なのに)総合職なの?」と聞かれることも多かった。

だから、総合職として採用された女性は誰もが、総合職を「選んだ」理由を、立て板に水のごとく語ることができた。

日債銀の担当者が何を考えていたのか、今となってはわからない。

当時、不良債権問題で苦しみ始めた日債銀は「何かを変えなければいけない」と思っていたのかもしれない。均等法に即して「仕方なく」女性総合職を採用したのかもしれない。

それでも、日債銀は奇しくも「多様性を重視」を十分に意識した採用を行っていたように思える。

変革を「背負った」女性総合職

仕事に対するパッションや、社会をどうやって「変革」したいか?マネジメントの一躍を担にリーダーシップをとる「覚悟」はあるのか?

面接の段階から厳しく問われ、わたし達もそれを果たすためのビジョンはしっかり持っていた。

自らの思いを発現し、発言する力がなければ総合職として採用を「してもらえ」なかったし、銀行側もあえてそんな人材を選んだのだろう。

彼女たちは底抜けに明るかったし、背も高く、(物理的に)声が大きくよく食べ、夜中まで働くことを厭わなかった。

コッター※のリーダーシップ論などを「愛読書です!」といってしまうくらい「豪快さ」があったりもした。

その書には「リーダーとは、組織をよりよくするための変革を成し遂げる」とあって、彼女らが「指導的な立場になるためのお役目」という大きな(大げさな)ミッションを真剣に女性総合職が「引き受けた」ことは知ってもらいたいと少し、思う。

※ジョン・コッター 米国のリーダーシップ論の権威。「変革の8ステップ」などで知られる

雇用機会均等法、初年度女性総合職の8割が離職

雇用機会均等法、初年度女性総合職の8割が離職

共同通信の報道(2016/01/23)によると、男女雇用機会均等法が施行された1986年に大手企業に入社した女性総合職のうち、約80%が2015年10月時点には退職していた。

つまり「女性総合職の採用は積極化したが結局、定着しなかった」という記事だ。
なんという凡庸な結論だろう。

出所:女性総合職1期の80%退社―雇用均等法30年、定着遠く 共同通信 (2016/01/23)

どこにいっても「紅一点」

どこにいっても「紅一点」

入行してからは、どこに行っても「彼女は女性総合職で…」と紹介された。

「外形的に女性ですが(女性なのに)総合職です」といいたかったのか、摩訶不思議な枕言葉を頂きながら、働いていた。
どこの組織いっても、どこの会議に行ってもわたしは「紅一点」で、それはあまり変わることはなかった。

自身にとっては当たり前の「紅一点のおひとり様」が、全体をみるとどこか「数」の影響力に圧倒されてしまったような気がする。

もっとも、「数」の影響力が極めて大きいことは、世界中の研究結果が一貫して証明しているそうだ。


・集団における女性の割合が10%未満、すなわち「紅一点主義」は人権をも無視されるリスクのある極めて危険な環境。

・同10~15%未満の場合、集団内のマイノリティーとしての地位が与えられるが、意見を言っても無視されたり、相手にされなかったりするため、目に見えない分断が組織内に生じる。

多数派の男性たちは「女性たちは結束すると面倒くさい」「女性たちは徒党を組むから怖い」「女性は勝手だ」などと、偏見から来る“女性の特徴”を言い始め、自分たちの優位性を保とうとする。
引用:日経ビジネス「CAは女性」? 学ばぬトップと淘汰される組織(2021.2.24)

「女性だから」「女性なのに」

「女性だから」「女性なのに」

わたし自身、「せっかく女性をいれたのになんか違う」「期待外れ」「見込み違い」なんども言われた。

顧客から「女性は困ります」「担当を変えてください」といわれるのは当たり前。結果、経験者をもうひとり担当につけられて、その人に「従いなさい」となる。

凡庸な前例を踏襲し、「経験者」を間において顧客と距離をとり、影響度を減らしていく。そんなことは数えたらきりがなかった。

「大変そうだから」「経験したことないのだから」

もっともらしい説明になんど嘆息したことだろう。変革とは「言うは易く行うは難い」のはいうまでもない。

わたし自身は「ただお役にたちたかっただけなのに」。

「80%離職」の背景

こんなエピソードは、もう古臭いのかもしれない。

ただ、均等法最初の女性総合職の80%が離職した背景には、わたしと似たような「体験」が多々あったことは、容易に想像できる。

あきらめるか、黙るか、それでも変えていくのか。

ガバナンス助言会社のプロネッド(東京・港)が2020年7月1日時点で東証1部上場の約2170社を集計した。

女性取締役のうち社外出身は1123人と8割を占め、231人の社内出身者を大きく上回った。全取締役に占める女性比率は7.1%と1.4ポイントアップした。

10年前は100人に満たなかった女性社外取締役が1000人を超えるのは初めて。

社外取締役に占める女性比率は17%と2.5ポイント上昇した。企業が多様性を重視するのは投資家の圧力が高まっているためだ。

投資家への影響力が大きい米議決権行使助言会社のグラス・ルイスは、女性取締役のいない会社のトップ選任に反対する方針を2020年から本格的に適用し始め、上場企業を中心に一気に導入が進んだ。

▼参考記事はコチラ
女性取締役2割増、過去最高に 社外出身がけん引 (民間調べ、生え抜きは微増 2020年9月4日 日本経済新聞)

数値目標の意味

「(女性取締役の)数値目標設定に意味があるのか」との「書き物」をわりとよく目にする。でも、数は重要だ。
1000人超えればニュースになる。

もっとも1000人であろうが、上記の比率から考えて1社の取締役会に女性一人の「紅一点」に変わりはない。

その内訳も法曹や会計士、大学教授が圧倒的に多い。企業内からの内部昇格は、200人あまりと門は非常に狭い。

誰を取締役に選べばいいのか

企業の中において、事業や経営企画にかかわってきた役員就任「適齢」の女性総合職は80%もやめてしまった。
誰を選べばよいのかわからない、と、選任する母数も少ない中、選びたいのに選べない企業の経営者のご苦労はわかる。

かかる経営者は、コロナ禍の令和の時代にはさらに企業は何から何まで「変わる」ことを求められている。

グラス・ルイス同様の議決権行使助言会社に加え、アクティビストファンド、エンゲージメントファンド、企業は様々なステークホルダーから「想定外」の「あらたな」問題提起をされている。

そして、時代は「ボード(取締役会)3.0」。社外取締役がビジネスモデルの構築や戦略立案に積極的にかかわることが想定される世の中が近づいている。

周りに適任者はいるはず

女性役員を探している経営者である「あなた」は、すこし周りを見まわしてみてほしい。何らかの形で出会っているであろう、かつての女性総合職。どこかで新入りの時から「変」を意識し、常に違和感を引き受け、数十年に亙って新たな仕事している。

そんな彼女は実は経営者と同じく「あきらめず」「粘り強く」「会社のお役に立ちたい」ビジョンと覚悟をしっかりもっている。そんな彼女は、どこか声が大きく、「異」に映り「違和感」を感じた人がいるはずだ。彼女はあなた「経営者」が変革に迫られるなか、間違いなく「変」を厭わず一緒に戦ってくれると思うのだ。

「6:4」で初めて壁は崩れる

上記の日経ビジネスの記事の引用には続きがある。

・同30%になると、男性たちは女性たちを「サブグループ」と認め、「女性の視点は興味深い」など、徐々にプラスに評価する傾向が強まる。サブグループの女性たちも息苦しさから解放され、勇気を出して意見する。

・同35%になると多数派はただ単に「数が多い」だけのグループになり、40%になると、バランスが均衡する。

職場で男だの女だのと区別されなくなる比率は「6:4」。男社会で女性が占める割合が同40%になって初めて男女の分け隔てが消え、個人の資質や能力が正当に評価される。
引用:日経ビジネス「CAは女性」? 学ばぬトップと淘汰される組織(2021.2.24)

そして、そんな彼女を選ぶあなたこそ、が変革者としての評価が高まることは想像に難くない。

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