今、ビジネスが「熱い」ベトナム

フロンティア・マネジメント 花生 洋平(以下、花生):こちらはJETROの資料ですが、日系企業の経営者のアンケートでも常にベトナムは、拡大を国・地域の2位に属しています。非常に注目されているエリアですね。

トライブ・ホールディングス・ジャパングループ 代表取締役会長 山本 雄一郎氏(以下、山本):ベトナムは東南アジアの中で、人材の質が良く、日本の国民性と一番合致しています。また、20代30代が人口ピラミッドで一番多い層になり、これから20~30年は発展していくでしょう。さらに地政学的な観点でも日本から東南アジアで一番に進出するのはベトナムになるのではないか、と言うのが私の考えです。

花生:ありがとうございます。ベトナムへ進出した日系企業は既に2000社を超えました。この流れは続いていくでしょうか。

山本:現地で法人登録していない企業を含めると、実際はその倍以上、4000~5000社ほど進出しているのではないかという印象があります。最近のトレンドでは、外資規制の緩和に伴い、小売や飲食業界が進出している傾向にあります。

花生:ユニクロも、小売市場のポテンシャルが非常に高いため、国民ブランド化を目指して2019年に進出しています。私はフロンティア・マネジメントに参画する前はユニクロを展開するファーストリテイリングの海外事業、とりわけ新興国の立ち上げを統括していました。ベトナム事業に関しては、私も立ち上げメンバーの一人となります。ベトナムで国民ブランド化に成功している企業では、エースコックさんが非常に有名です。

山本:そうですね、エースコックさんのフォーは現地の市場に入って、人も含めてしっかり現地化したのが成功のポイントですね。

ユニクロがベトナムで成功した要因とは


花生:ベトナムのコロナも収束に向かっており、事業進出も今一度検討すべきタイミングであると思っています。ただ、大企業の62%、中小企業の68%が10年以内に海外事業から撤退しています。10年以上海外事業を継続できている企業は、3~4割ほどです。

山本:中小企業は何となくイメージできますが、大企業でも6割近くが撤退するのは全く想像できなかったです。

花生:多くの企業が海外進出で失敗している中、ユニクロは総じて成功していると考えています。早期にネットとリアル、両方の計画を入念に行い、SCMを構築できました。事業1年目から出店の計画を仕掛けたましたが、1号店が開いた時にはもう4号店まで決まっていました。ECも実は水面下で始めており、それに伴い商品もローカライズ化していく予定です。それらを通じて政府や行政との関係を強化し、成功できたのではないかと考えています。

山本:素晴らしいですね、ユニクロさんの成功から、他の日系企業が学べる点はありますか。

花生:大きく2つあります。まず1つ目が中長期の準備をしっかりした点。2つ目はより重要で、それらを支える人材獲得、さらには体制構築をした点です。決して特別なことをした訳ではありません。

山本:中長期ということはやっぱり事前の調査ですか。

花生:ベトナムは各種規制のプロセス、解釈が不明瞭であるという難しさがあります。しかし、それを徹底的に調べました。デスクトップリサーチだけではなく、実際に関連省庁の方々と話しました。その上で事業を安定的に継続するための戦略を練り、実行に移しました。

山本:ユニクロのベトナム事業を立ち上げるときに一番重要視された点はありましたか。

花生:本日のテーマとも関係する「サステナブルな成長ができるか」というのが1つのポイントだと思います。海外に進出したものの、1年で事業を撤退した企業を数多く見てきましたが、それはその国の消費者に対する裏切り行為だと言えます。1つの国で事業を立ち上げるというのは、その国の人々に奉献するというミッション・スキルが必要ではないかと思います。山本さんも数多くの企業を見てきた中で、何か面白い特徴がある案件を教えていただけますか。

山本:紙の印刷を中心に求人誌・広告などの制作を請け負っている昭栄印刷さんという、15年以上お付き合ある会社があります。印刷業界は紙からデジタルへ転換する中で、市場が国内でも縮小しています。そのため、新規事業を展開しなくてはならない状況で、日本では紙の印刷物がメインだった企業でしたが、ベトナムでは箱のパッケージやデジタルにシフトしました。海外を上手く利用して事業転換、あるいは拡大したという成功した事例です。

花生:昭栄印刷さんが成功した理由はどこにあるとお考えでしょうか。

山本:様々な要因がありますが、人材養成、適材適所の人材配置が挙げられます。ミドルマネジメント層の人材をしっかり自社で養成しながら、開業時にノウハウがあるトップマネジメントの人材や、現地市場に人脈のある人材をスポットとして採用していました。あるいは社長自ら現地に乗り込み、現地のスポット人材やミドル人材に戦略や企業理念をしっかり浸透させて、信頼関係も構築していました。そこは一番の成功の一つだと捉えています。

花生:逆に海外事業がうまくいかなかった企業さんも数多くあると思いますが、いかがでしょうか。

山本:失敗した事例は本当にたくさんあります。中でも、初めての進出で社内のチームだけで行くパターンはなかなか続きません。数回程度の視察で進出を決め、現地の人脈もなく、ベトナムもよく分からない状態だと、立ち上げまで時間がかかります。そうなると、現地で採用した人も会社の企業理念や方針、日本でどうするのか分からず、時間とコストを消費して最後に撤退というケースは多いですね。

長生きする企業の特徴


花生:海外進出に失敗した企業を数多く見てきた山本さんは「企業が長生きするポイント」をどのようにお考えですか。

山本:理念・戦略・組織が重要だと考えています。特に企業理念・ビジョン・目標に共感した人材をしっかり確保した上で養成し、マネジメント層が戦略を立てないと海外事業はサステナブルに続かないでしょう。

花生:なるほど、理念・戦略・組織が大事だということですね。理念に関しては6月のウェビナーでお話ししますので、次回もよろしくお願いいたします。一般的にサステナブルな体制を構築していくためには採用・育成・リテンションが重要と言われています。

山本:リテンションの観点では、今のアジアの若者、特にミドル層は今「何のために働くのか」を重要視しています。給料が下がっても、自分でやりたい・将来の目標に繋がっている企業に転職する傾向があります。「お金さえあげれば良い」という考えだと人材は集まりません。この点はこれから進出する日系企業が意識すべきだと考えます。

花生:そこにまだ気づいていない企業が多いかもしれません。採用、育成ではいかがですか。

山本:理想としては社内ですべてやるのがベストです。しかし、社内だけだとリソースに限りがあります。海外でサステナブルに継続するとなると、自社の理想を分析して短期・中期で計画を立てる必要があると思います。採用、特にトップマネジメントは多少コストがかかってもスポットで外から招き入れることも必要でしょう。

花生:現場の責任者・ミドル層は自社で育てるということでしょうか。

山本:長期的にはミドル層が「日本で何をしているのか」「この会社は何を目指しているのか」「今回の進出の目的は何なのか」などを分かってないと上手くいかないと思います。したがって、ミドル層は外からスポットで一時期だけ、というよりは十分に準備した育成が非常に重要です。

花生:昨今ESG経営の対応に、多くの企業の方が優先度高く取り組まれています。採用・育成・リテンションに関してはESGの「S:Social」や「G:Governance」両方に関係するため、一つひとつ確実に戦略を持って丁寧にやっていく必要がありますね。

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