グローバルで愛されるためのアイデンティティ・デザインとは?

「アフターコロナにおける海外事業をどう展開すべきか」と頭を悩ませる企業の声が寄せられている。今回は、コロナ禍においても数々の海外プロジェクトを手掛けているPlacecraft Tenの井上氏から、特に欧米で話題となっている「アイデンティティ・デザイン」とその重要性について話を伺った。今後、海外事業展開を成功させるために、今企業に必要な考え方とは何か。

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Placecraft Ten共同代表 井上修輔氏(写真・右)
フロンティア・マネジメント ディレクター 花生洋平(写真・左)

ミッションは「未来の場所作り」

ミッションは「未来の場所作り」

フロンティア・マネジメント 花生 洋平(以下、花生):井上さんはこれまでに、ヨーロッパ屈指の建築設計事務所Herzog& de Meuronとファーストリテイリングで数多くのグローバルプロジェクトに関与され、昨年ご自身の会社を立ち上げられたということですが、現在はどのような活動をされているのでしょうか。

Placecraft Ten 井上 修輔氏(以下、井上):まず、私が会社を立ち上げた理由についてお話します。私は35年ほど海外に住んでいましたが、令和に入ってから日本に帰国しました。日本に帰ってきて自分の子どもの頃の思い出になった場所というのをいくつか回ってみたら、どれももう存在していませんでした。素晴らしい場所があっても、それを継続していく仕組みがなければ存在しなくなってしまうのは、残念なことです。

こうした「思い出に残る場所を次の世代に残していきたい」という思いから、昨年会社を立ち上げました。

花生:会社のミッションについて教えていただけますでしょうか。

井上:基本的には場所を作るということですが、すぐに消えてしまう一過性のものではなく次の世代まで続くもの、「未来の場所作り」というのをミッションとして掲げています。

帰国してから、九州や大阪、東京、山形など様々な場所を訪れていますが、どこも似てきているような印象があります。アイデンティティという価値観が海外とは少し違うということもありますが、弊社ではそうした新しいアイデンティティや価値を生み出す活動をしていきたいと思っています。

花生:これまで数多くのプロジェクトに関わられてきたと思いますが、今お話の中であった「アイデンティティ」という観点で、これまでのプロジェクトについてお伺いできますでしょうか。

井上:はい。まず、2020年は日本にとって大きな年、オリンピック・パラリンピックイヤーでしたね。実際には叶いませんでした(延期されました)が、ユニクロでも様々なことを見直して新しく生まれ変わろうとしていました。見たことのないユニクロを海外の人に発信していくという企画では、3つの店舗を2ヵ月ごとにオープンして、2020年7月のオリンピックを迎えるという計画でした。

たとえば、ファミリーをターゲットにした店舗をオープンさせました。ベビーカーで入れて授乳室があって子どもたちが遊べる、これまでとはまったく異なるオペレーションの店舗です。建物を買い物するだけの場所にしないという趣旨で、建物自体も商標を取っていて、とても珍しい例でした。

アイデンティティ・デザイン

ユニクロ 以外ですと、駐車場が持っている「いかに便利に街の中に駐車できるか」というこれまでのアイデンティティや概念、機能を覆したプロジェクトがありました。駐車場が駐車する場所としてだけでなく、レンタルスペースとしても借りることができ、今ではヨガスタジオやちょっとしたパーティー会場としても使われているのです。さらには住宅や、ちょっとしたショッピングリテールなど、街のアイコンとなるような建物となっています。

アイデンティティ・デザインとは

アイデンティティ・デザインとは

花生:ユニクロでのプロジェクトを筆頭に、井上さんが手掛けるプロジェクトはこれまでの価値観や考え方を一新する事例ばかりですが、その肝となるアイデンティティ・デザインとは一体どのようなものでしょうか。

井上:アイデンティティ・デザインを別の言葉で言い換えると、ブランディング活動です。ブランディングという言葉には大きく2つ意味があって、1つはマーケティングの延長線上にあるブランディングです。広告や宣伝のやり方、ロゴ、商品、パッケージ、メディアを使ったものなどを指します。

今回我々が言うアイデンティティ・デザインとは、ブランディングがどこを目指していて、ブランドがお客様に正しく認知され共感されているかどうか、というプロセスです。現在をしっかり把握して、目指すべき理想の姿をしっかりと位置づけ、そこに到達するまでの仕組みを作っていくのがアイデンティティ・デザインです。

アイデンティティ・デザイン(ブランディング活動)とは?

株主資本主義からステークホルダー主義の時代へ

株主資本主義からステークホルダー主義の時代へ

井上:アイデンティティ・デザインの起点となったのは、株主資本主義というシステムからステークホルダー主義に変わったことではないかと思います。ステークホルダーは株主だけではなくて、社会、従業員、顧客、地球、環境も含めてすべてがステークホルダーで、すべてが連動する仕組みです。

時代の流れによって会社に対する投資の見方が変わり、アイデンティティをしっかりと形成していかないと事業の継続が難しくなっていると感じます。ヨーロッパやアメリカでは、すでに一般的ですね。

花生:なるほど。それらが消費者の皆さんに伝わってきているということですね。

アイデンティティ・デザイン 3つのステップ

アイデンティティ・デザイン 3つのステップ

井上:アイデンティティ・デザインを行うためには3つのステップがあります。

1つ目は、パーパスブランディング。何のためにこの会社は存在しているのか、誰のために貢献しているのかなどを明確化していく必要があります。ここが一番頭を使いますし、正直に自分たちに問いかけないといけないところです。

2つ目は、そのアイデンティティを中心に各領域の戦略を策定すること。店舗のデザインや商品構成、ロゴ、コストなどの戦略をどんどん具体化していく過程です。1つ目のパーパスブランディングで策定したアイデンティティがしっかりしていればそれが判断軸となって、「ミッションを達成するためにはどんな戦略を立てないといけないか」という行動が定まります。

最後の3つ目が、戦略を実行し振り返ること。同時に、KPIの設定が肝となります。

アイデンティティ・デザインに必要な3つのステップ

花生:KPIを設定する際のポイントがあれば教えていただけますか。

井上:基本的には企業によって違うので決まった手法やメソッドはありません。自分たちの現状の姿をしっかりと把握することが大切で、目指すビジョンに基づいてきちんと成長しているか測るためのKPIを設定しなければなりません。

花生:いわゆる定量的・定性的な目標があって、われわれも定量的な設定をしがちではありますが、どちらかというと定性的で抽象的な指標も見ながら動かしていく、ということでしょうか?

井上:最近よく「何を売るかというのは大事ではなく、価値観を売り、共感してもらうのが大事」と言いますが、まさにそういうことです。

また、これらのステップのうち、デザインは3割くらいで残りは議論です。自分たちは今どういう状況にいて、どういう姿になっているか。社内でも把握できていない部分があると思いますので、正直になって見つめ直すのが大事なポイントだと思います。

そして今、こういったパーパス・ビジョンを作ったとしても、5年後・10年後には変わってしまうため、常に見直しを続けていかなければいけません。

花生:弊社でも、小売業の企業様からお問い合わせを受けるケースがありますが、どうしても戦略を振り返らずに先に進んでしまう企業様がいらっしゃいます。ステップ3の後、再びアイデンティティに戻って、微修正しながらサイクルを回していく“ステップ4”が重要だと思います。

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