ポイズンピルの意味や株価への影響 事例まで解説

上場企業にとって自社株式は証券取引所を通じて売買されるため、基本的にどのような個人や法人が株主になるかは選べません。 そのため、株主が自社にとって友好的かどうかはわからず、時として経営陣の意にそぐわない提案を受けたり、株式を多く買占め、買収を仕掛けられたりする場合もあります。 例えば昨今、SBIホールディングスの新生銀行へのTOB(株式公開買い付け)が話題になっています。現時点(2021年10月時点)では、新生銀行はSBIホールディングスの買い付けに対し、「株主共同の利益に資さない」として、条件付きの反対をしており、敵対的TOBに発展しました。 結果、新生銀行は2021年11月に臨時株主総会を開催し、ポイズンピルと呼ばれる買収防衛策を審議することを計画しています。 本記事では、会社にとって意にそぐわない買収に対する防衛策としてのポイズンピルについて、その意味や、株価への影響、事例について説明します。

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ポイズンピルとは

ポイズンピルとは代表的な買収防衛策です。

既存株主に対し、事前に買収者のみが行使できない権利を付与しておき、自社が賛同できない敵対的買収が起こった際に、買収者以外の株主が権利を行使します。
その権利行使によって買収者の持株比率を低下させたり、支配権を獲得するために想定以上のコストを発生させたりすることで買収の阻止を目的とする方法です。

ポイズンピルは「ライツ・プラン」とも呼ばれます。

ポイズンピルのメリットは、上述のとおり、敵対的買収に対する抑止効果です。

一方でデメリットについては大きく3点あります。

ポイズンピルの株価への影響

ポイズンピルを発動すると買収者以外の株主に新株が発行されます。

その結果、市場に出回る株式の数量が増加するため、1株あたりの株価が希薄化する懸念があります。

株価の希薄化は株価下落を招き、既存の株主のメリットにはならないため、結果的に既存株主との関係性が悪化する可能性があります。

新株発行差し止め請求のリスク

株価影響が懸念されるポイズンピルが結果的に株主にとってメリットがないと判断された場合、既存株主から新株発行差し止めを請求される可能性があります。

新株発行差し止め請求をされると、ポイズンピルの発動ができなくなるため、自社が買収防衛に万全を期したつもりであっても、結果的にその効果を享受できないリスクがあります。

ポイズンピル導入そのものへの反対

昨今のコーポレートガバナンス強化の潮流を踏まえ、買収防衛策の導入や、制度の維持をする上場会社は減少しています。

なぜなら、自社の経営陣がしっかりと株主と対話を行い、企業価値の最大限の向上を実現していれば、仮に自社の意に介さない買収提案があったとしても、既存の株主から信任を得ている経営陣に対して株主は味方をするであろうという発想が存在するためです。

また資本主義における株式会社のうち、特に上場企業においては、名実ともに社会の「公器」であり、買収提案が会社のためになるか否かは株主が決めるため、会社側が意図的に買収防衛することは正しいガバナンスのあり方ではないといった考えもあります。

加えて実務的には、仮にポイズンピルを含む買収防衛策導入を株主総会に諮ったとしても、ISSやグラスルイスといった議決権行使助言会社は案件を個別精査するものの、その議案に対して反対推奨することが多く、機関投資家を中心とする反対票が集まり、議案そのものを可決に導くことが困難といった点があります。

仮に可決できたとしても、多くの反対票が集ることが想定される買収防衛策を強硬に導入することはよくないとの判断から、買収防衛策の導入を見送ったり、その維持をやめたりする上場会社が増えてきています。

ポイズンピルの種類

ポイズンピルの種類は大きく分けて「事前警告型」と「信託型」の2つです。

両者について解説します。

事前警告型ポイズンピル

事前警告型ポイズンピルは、日本の買収防衛策の中で最も一般的といえます。

買収者が出現した場合のポイズンピル発動のフローとしては以下のとおりです。

  1. 第三者が自社に対して敵対的買収を仕掛ける
  2. 買収者に事業計画や買収する目的などの情報開示を求める
  3. 有効な(納得のゆく)回答が得られなかった場合、新株発行を実施する

事前警告型のポイズンピルで買収者に求められる事業計画などの開示情報は、一般的に既存株主に公開されます。

公開された情報を確認した既存株主が、買収者の提案に納得し、現経営陣よりも企業価値を高めることができそうだと判断した場合、逆に買収がスムースに進む可能性があります。
そのため、確実にポイズンピルを発動できるとはいえず、何としても買収を阻止したいと考える場合は別の対抗策を練る必要があります。

信託型ポイズンピル

事前警告型ポイズンピルほど一般的ではありませんが、確実に新株予約権を行使させることができる手段として信託型ポイズンピルがあります。
信託型ポイズンピルのフローは以下の通りです。

  1. 自社経営陣により買収リスクがあると判断される
  2. 自社の新株予約権を発行し、それを信託銀行に預ける
  3. 買収者が自社に敵対的買収を仕掛けた際、株主に対して新株予約権が交付される

信託型ポイズンピル導入の注意点は、新株予約権が買収者の手に渡る可能性もあることから、譲渡制限を付すなどの制度設計に注意を払っておく必要があります。

国内におけるポイズンピルの最新動向

近時話題となっている、国内におけるポイズンピルをめぐる動向について紹介します。

東京機械製作所とアジア開発キャピタル

新聞輪転機大手の東京機械製作所に対し、同社の株式の40%程度を保有するアジア開発キャピタル(ADC)が仕掛けた敵対的買収の事案です。

ADC社は東京機械の株式を2021年3月から買い進め、現在は40%程度を保有しています。

更に保有株式の増加を進めようとするADCに対し、東京機械は強烈ともいえるポイズンピルの導入を検討し、2021年10月22日に開催された臨時株主総会でそのポイズンピルが可決されました。

東京機械が導入したポイズンピルは、同社がすべての株主に対し新株予約権を無償で付与するものの、ADCは「非適格者」とみなされ、予約権を新株に交換する権利を与えないというものです。

結果、ADCの保有割合は低下し、ADCによる買収を阻止しようとしています。

また、ポイズンピル導入に関する株主総会決議において、ADCは「議案の当事者」として40%程度の株式を保有するにも関わらず議決権の行使を認められないとすることも驚かれています。

議決権行使助言会社であるISSなどは、買収防衛策議案に対して反対推奨することが多いと説明しましたが、本議案については会社側提案に対して賛成推奨しています。

その理由として、以下の2点を挙げています。

  • 買収者であるADCが支配権取得後のプランを開示していない
  • ADCが過去5期間にわたって赤字かつ営業キャッシュフローがマイナスであり、継続企業の前提について監査法人が疑義注記を付している

いずれにせよ、ポイズンピルの発動は東京機械の株主総会で承認可決しましたが、今後はADCの差止め請求に対する司法の判断を待つことになりました。

新生銀行とSBIホールディングス

こちらも連日メディアで報道されている、SBIホールディングスによる新生銀行に対する敵対的買収案件です。

現状20%程度の新生銀行株式を保有するSBIホールディングスが新生銀行株式の議決権を最大48%まで引き上げ、社長を含む複数の取締役を派遣して連結子会社化することを計画するものです。

これに対し新生銀行は「条件付き反対」を表明し、敵対的買収の位置づけとなりました。

新生銀行は2021年11月下旬に開催予定の臨時株主総会でSBIホールディングス以外の株主に対して新株を交付するポイズンピルの発動の是非を問う準備をしており、ポイズンピルが発動されると、SBIホールディングスが保有する株式割合が低下し、買収が困難となることが想定されます。

本件については大手銀行に対する敵対的買収案件であると同時に、新生銀行の株式の多くを保有する国の動向も含め、その動向が注目されています。

まとめ

昨今、友好的、敵対的買収を問わず、上場企業を含むM&Aが増加しており、M&Aがかつてのような「乗っ取り」のイメージではなくなったため、経営戦略の一環としてM&Aに取り組む企業も増えています。

M&Aは友好的に行う方がデューデリジェンス(買収監査)への協力や、買収後の統合作業が円滑に進むといったメリットがあります。

一方で、経営戦略の一環として是が非でも対象会社を傘下に収めようとする企業も必然的に増加しており、今後、敵対的買収も増加することが想定されるでしょう。

企業経営においては企業価値の改善が最優先事項であることは間違いないですが、現在の株価水準が現経営者にとって意図しない水準に放置されてしまっているケースもあり、改善の過程においてはポイズンピルを含む買収防衛策の導入も一考です。

導入に際しては慎重を期す必要がりますが、買収される側としての経営戦略として、効果的にポイズンピルの導入も検討する必要があるでしょう。

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