プロスポーツチームの戦略オプション②~スタジアム・アミューズメント化経営の要所

コロナ禍において、プロスポーツチームが取り得る戦略オプションは、どのようなものがあるだろうか。今回は取り組みが活性化してきている「スタジアム・アミューズメント化」経営について、その提供価値と実現スキームに焦点を当てて解説していく。

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スタジアム・アミューズメント化とは

スタジアム・アミューズメント化とは

スタジアム・アミューズメント化経営とは、スポーツ以外のマーケットニーズを獲得し、スポーツ観戦以外での独立、または共存した価値を生み出すビジネスモデルのことを指す。

具体的には、事業パートナーや地方自治体と協業しながらスタジアムを軸としたコンテンツを企画・提供することで集客機能を高度化・多角化。試合日とそれ以外、シーズンのオン・オフにかかわらず、繁閑差のないビジネスモデルを構築することだ。

つまり、これまで主な提供価値であったスポーツを、アミューズメントの1要素として変換していくことで収益の多角化・拡大を図っていくのである。

アミューズメント化の意義

アミューズメント化の意義

前回の記事「プロスポーツチームの戦略オプション コロナ禍でとるべき選択とは」では、コロナ禍に取り得る戦略オプションを4種類紹介した。

そのうち、多くのローカルチームが率先して取り組むべき「地域密着型経営」では、地域課題の解決を企図した周辺事業の創出とコア事業との間のエコシステム確立が重要になる。しかし、チーム単独での活動や限られた地域内での取り組みとなると、期待できる収益の規模が限定的になることは否めない。

そこで重要となるのが、「地域密着型経営」から「スタジアム・アミューズメント」化経営への事業ポートフォリオの拡大である。

提供価値の在り方

提供価値の在り方

アミューズメント化を取り進めていく上では、他のプロスポーツチームは勿論、他業界とも競合することが予想される。そのため、スポーツとのシナジーに加えてコンテンツの独自性を追求することが重要になる。

独自性を出す手がかりとしては、チームが全国に点在していることに着眼すべきであり、具体的には、その”地”ならではの経営資源を活かすことがポイントとなる。

例えば、地域の“地”をコンパクトに楽しむことができる場の提供が一案として考えられる。その地に偏在している経営資源(食・アミューズメント等)を集約し、移動なくその地の全体感を楽しめる。

各自がより興味のあるものを見つけ、その後より深く体験したいものを把握する、旅行・観光等で失敗しないための入り口(スタート地点)的な位置づけとするのである。

1週間の旅行の中で、最初の2,3日は当該施設で楽しみ、それ以降はその中で発見した最も興味のある”地”を楽しみにいくといったイメージとなる。

実現に必要な機能とスキーム

実現に必要な機能とスキーム

提供価値を定めても実現することが出来なければ当然「無用の長物」となる。実施に際しては、必要なスキル・ノウハウを有するビジネスパートナーとのアライアンスが必要となる。具体的に期待される役割は大きく以下3つに大別される。

1 コンテンツ提供機能

“地”をコンセプトにした独自性のあるコンテンツを提供できるチームのスポンサー企業や地元企業

2 事業プロデュース・プロモーション機能

コンセプト策定や事業企画・プロデュースを担う広告代理店(電通・博報堂等)やコンサルティング企業

3 地域を巻き込んだ政策的サポート機能

公的資金援助や地域住民との接点を担う国や地方自治体、地元交通機関

アミューズメント化の好事例を紹介

それでは、以下に2つのスタジアム・アミューズメント化の好事例を取り上げたい。

1 北海道日本ハムファイターズ(プロ野球)における北海道ボールパーク

北海道日本ハムファイターズ(プロ野球)における北海道ボールパーク

北海道日本ハムファイターズが手掛ける北海道ボールパークでは、“北海道のシンボル”となる空間を創造することをコンセプトに、北広島市に2023年3月開業を目途にスタジアム建設が進められている。

同計画は、北海道日本ハムファイターズ、日本ハム、電通グループ、民間都市開発推進機構からの出資を受けて進められている。日本ハムは食の面から“地”を楽しむことができるコンテンツ提供を担い、電通は事業プロデュース/プロモーション機能を担っていると考えられる。

また新会社である㈱ファイターズスポーツ&エンターテイメントは、オール北海道ボールパーク連携協議会を通して、周辺市町村並びに公共交通機関を巻き込み、構想実現に向け協議を実施するといった政策的サポート機能を担い、各ステークホルダーが必要な役割を担っていると想定される。

北海道日本ハムファイターズ(プロ野球)における北海道ボールパーク

ボールパークから北海道の魅力を発信するショーケース機能があり、北海道の自然(アイススケートや温泉)や食(産地直送の素材が揃うファーマーズマーケットの開催などなど)といった多様な魅力を凝縮して発信する予定となっている。

また、ハード面における「ツーリストハブ機能」の整備や自治体・公共交通機関・民間事業者との連携による多彩なモビリティの手配などの観光ハブ機能の向上も考えられている。

札幌駅と新千歳空港の間に位置するという立地を最大限に生かし、多様なモビリティを利用して来場いただくことや、更にはボールパークが北海道滞在の拠点となるように、宿泊施設の設置等まで手掛けていく方針である。

これらを踏まえ、ボールパークエリア及び周辺地域の魅力を高め、北海道内外の旅行者を集客し、ボールパークを起点に道内全域への旅行を促すことを目指している。

2 オーストラリアにおけるシドニー・オリンピック・パーク

オーストラリアにおけるシドニー・オリンピック・パーク

2000年9月に開幕したシドニーオリンピックは、シドニー・オリンピック・パークをメイン舞台として数多くのメダルと収益をもたらし、競技と運営面で成功した事例として取り上げられることが多い。

オリンピック後にはスポーツイベントのみならず、文化・芸術レクリエーション活動も年間を通して注力。また毎年イースター時期に開催される南半球最大のファミリーイベントである「Royal Easter Show」では、地元で生産された食に関するイベントやオーストラリアの文化と農業の伝統を讃えるイベントを楽しむことができ、毎年国内外から多くのファミリーや観光客が集う場として利用されている。

シドニー・オリンピック・パークではPublishing and Broadcasting Limited (オーストラリアの大手メディア企業)がパークの保有・出資と事業プロデュース/プロモーション機能を担い、民間企業が出資と各種コンテンツ提供機能、ニューサウスウェールズ州が地域を巻き込んだ政策的サポート機能を担う。

五輪終了後の2000年から2014年までの15年間で約2,000億円の民間投資があり、その経済算出は約2.5倍の5,000億円にまで達している試算もあり、年間6,000以上のイベント開催などを通して地域発展に貢献している。2030年には1万人以上の居住を予測する地域発展を目指している。

PMOとなる推進役が必要

スタジアム・アミューズメント化を成功させるためには、これまで言及してきた各役割に加え、前提となるグランドデザインの策定や個々のプロジェクトを全体且つ横断的に管理する、いわば全体PMO(Project Management Office)的な機能を担える推進役が必要となる。

その選定が、プロジェクトを推進していく上で重要となる。

最後に

これからの日本のプロスポーツチームにおいては、マーケット環境等に鑑みると、スポーツ事業単独での事業の活性化のみならず、スタジアム・アミューズメント化を通じた地方の活性化や地方創生といったキーワードに官民一体で取り組むことが、自チームの発展・拡大のためにも必要になってくるのではないだろうか。

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