ZARA越えも視野、中国発ファストファッション「SHEIN」とは

「中国発」の企業といえば数年前まではスマホや家電というイメージが強かったが、最近ではSNS、ゲーム、アニメなど若者向けの文化でも強い影響力を持つようになった。この記事では、不況産業と言われるファストファッションで急成長を続ける「SHEIN」(シーイン)を取り上げたい。

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SHEIN ブランドとは

SHEIN ブランドとは

SHEINは2008年、前身となる企業が中国・南京で設立された。ネット技術を駆使してファッションの「実際の売れ筋」をいち早く把握し、デザインに反映。ZARAなど先行するファストファッションよりも、圧倒的な低価格を実現した。SNSなどを駆使し、若い世代に絞り込んだマーケティングを展開して急成長している。2020年の売上高:Gross Merchandise Value(GMV) は約100億米ドルと、1兆円を超えている。

日本国内でも人気が上昇しており、2021年に入ってから経済系のメディアでも取り上げられる事が増えている。規模の割に、ブランド認知度が低いように思われるかもしれないが、マスメディアよりもウェブマーケティングに特化し、絞り込んだターゲット層に集中的に情報を提供していることが、原因と言える。

急成長するSHEIN

急成長するSHEIN

SHEINは現在非上場だが、企業評価額は150億米ドルとの試算もある(フォーブス報道)。ユニコーン企業(評価10億米ドル以上の未上場企業)の基準をはるかに超え、デカコーン企業(評価額100億米ドル以上)として投資家の注目を集めている。

創業以来母体となる企業、南京領添信息技術有限公司(Nanjing Top Plus Information Technology Co., Ltd.)での資金調達はすでにE-ラウンドとなり、調達状況と企業評価額は上図の通りとなる。

2020年よりIPOの噂がでている。2021年に入り470億米ドルでのIPOとの報道もされたが、同社は本計画を否定するコメントを出している。

SHEIN、ベールに包まれた実態

SHEIN、ベールに包まれた実態

SHEINについての企業、創業者情報は限定的であり、これまで得られた情報を合わせると下記となる。

創業者は許仰天氏(Chris Xu)。1984年出生、2007年青島科技大学卒業後、南京でオンラインマーケテイングに就業。

(中国では山東省出生とされているが、米国生まれでワシントン大学卒業との報道もある)2008年後半に同氏を含む3名(王小虎氏、李鵬氏)で起業。これがSHEIN前身企業であり、SEO及びネット販売を行っていた。

(注:SEO: Search Engine Optimization  検索エンジン最適化)

その後2012年に主にウエディング向けブランド「SheInside」を立ち上げ、2013-2014年より「SHEIN」ブランドでの展開を開始した。

現在、広東省広州市にSHEIN本部がある。先述の親会社、南京領添の出資者は許氏を含め4人。それぞれがSHEIN事業各会社の代表を兼務し、現在のSHEIN経営主要メンバーとなっている。

SHEINのビジネスモデル

SHEINの特長

  • 購買者:ミレニアルからZ世代の女性が中心である。
  • 販売形態:越境ECのみの無店舗販売形式。
  • 販売先:200か国以上で展開しているが、中国では販売していない。
  • 製造:自社工場はなく、他アパレルメーカーとの連携で多品種、少量生産を効率化
  • デザイン:ネット技術を駆使して流行を把握、短期間でデザインに反映。
  • 価格:デザイン、SCMの効率化で圧倒的な安価を実現

SHEINのビジネスモデルは安価、新作アップロードの早さ、商品の豊富さであり、その為のSCM(サプライチェーンマネジメント)効率化とマーケティングに特色がある。

安価は、アクセサリー類では100円台から、アパレルも通常価格自体が500円前後から1,000円台が中心であり、頻繁にセールを行いより安価を強調している。

新作については、毎日の発表数は500-3,000件となり、消費者を飽きさせずサイトに引き込んでいる。サイトで掲載されている商品も豊富で、在庫商品は発注から40時間以内、新規生産品は発注後5日以内の発送としている。

圧倒的な安価の実現

圧倒的な安価の実現

売価を下げるためには製造コストの低減が必要であり、商品数を絞り、大量生産を行う事で安価の実現を図るのが一般的だ。

SHEINは安価を維持しながら、毎日新作をサイトにアップしていく事ができている。C2M方式も行っているSHEINにとり、新作を発表しても消費者の支持を得られなければPV(サイト閲覧数)の減少と共に購買者数も減少する。ファストファッションの代表と言える「ZARA」と比較しても数倍の新作提供が安価で出来るのは下記要因と考える。

(注:C2M: Consumer to Manufacturer 製造者が消費者から直接受注し生産を行うシステム)

中国人デザイナーによる、デザインの効率化

デザイン設計はこれまで中国国内の専門校を卒業した、経験の浅い若いデザイナーを起用している(Designed in China)。SHEINは推定500人以上いるデザイナーの約半数は、社内の従業員と言われている。

既存のアパレル企業は、経験と実績のあるデザイナーを登用し、業界で決められた流行に合わせて、かなり先のシーズンを見据えてデザインの制作に取りかかっていた。

デザインから縫製、販売までのリードタイムは長く、そのため実際の売れ筋が予想とずれると対応が難しかった。ZARAなどの先行するファストファッションは、世界各地のファッションショーや店舗からの販売情報に合わせ、短期間で商品をデザインし、いち早く店舗に並べることで成長した。

SHEINのビジネスモデルは、それをはるかに上回っている。

グローバルITを活用した設計システムを利用し、1人のデザイナーの制作効率を上げているとみられる。

クローラー技術によるトレンド把握

SHEINは創業者の許氏が得意としているSEOとクローラーの活用により、トレンドをいち早く把握。競合品との比較から色合い、材料を組み合わせてデザインを行い、パターン制作に進める。

(注:クローラー:ウエブサイト、画像等情報を取得し、検索ベース作成する巡回プログラム)

また、他オンライン販売企業も行っている様にSHEINもFacebook、InstagramなどSNSを活用し消費者からの意見、自社サイト購買データも当然含めC2M受注量を増やす取組を行っていると考える。

多品種少量生産を効率化

製品にかかわるコスト低減のひとつに在庫の圧縮があるが、特に輸送効率が低いアパレル品を安価で海外輸出供給する為に、製造原価の低減としてSCMの効率化が必要である。

本社機能のある広州市番禺区(Panyu)は、アパレル工場の集積地でもある。中国の賃金上昇から輸出型アパレル製造事業はより低賃金の国に製造移転するケースが続いているし、中国も海外からのアパレル輸入国になっている。

中国の地域別アパレルメーカー数でみると、広東省がトップ。次いで江蘇省、浙江省、山東省、福建省となる。広東省の中でも上記地域に集中しており、特に中小企業が多いのが特徴である。

自動化設備を投入し大量生産モデルはなく、小さい中小規模アパレル製造業との連携により固定費を抑え、多品種少量生産のスピード化と安価を生んでいると考える。

小工場の経営は管理、資金面で不安定であり、突然の閉鎖倒産もありうる。管理面では、自社MES(注)を提携工場に導入し生産及び労働者管理を行っている。また推測となるが、この製造体制が継続出来ている理由は資金面のサポートも行っているのではないだろうか。

(MES:Manufacturing Execution System 製造実行システム)

ウェブに特化したマーケティング

知名度が無く、現物を見る店舗のないブランドが短期間で急成長出来たのは、SNSでの露出度をあげ、KOL(Key Opinion Leader インフルエンサー)を活用し消費者信頼度を高めている。

またSEOツールとしてGoogleとの取組でGoogle Trends Finder等による地域ごとの検索に掛かりやすいキーワード、製品色合い、原材料データから国別にホームページと投入製品の見直しを行っている。顧客数が増えるにつれ KOC(Key Opinion Consumer インフルエンサーの様に専門知識が豊富ではないが、より消費者目線で発信し、他消費者の信頼を得ている)を多く活用している。

SHEINの主要顧客層はミレニアルからZ世代、特に10代後半から20代半ばとなる。マスメディアの広告より、ウェブでの個人写真、意見に同意する層が少なくないと考え、積極的にKOCの生活における同社製品使用写真を積極的に活用している。また自社サイトへの掲載と同時に掲載者へのポイント付与で製品購買特典を与える事により、更に多くの消費者の同社製品の着こなし、使い方を提案、製品開発データに反映させていると考える。

結果として、毎月のPVは1億を超えている。

ZARA越えも視野?

ファストファッション業界において、ユニクロ 売上2兆円(2020年8月期)時価総額8兆円、ZARAを擁するInditex(スペイン)社は同2.6兆円(2020年12月期)同12兆円。コロナ禍により、ユニクロ、Inditexとも売上は前年同期比マイナス12%、マイナス28%であったが、各社ともECは増加している。

店舗を保有せず、かつ早期に製造再開できた中国SHEINにとって、2020年の環境下は拡大時期であり、2021年にはいっても順調に推移している。店舗閉鎖、再開による影響を同業が受けている中、SHEINがZARAの販売額を抜くとの予想も出ている。

競争激化、すでに追われる立場のSHEIN

競争激化、すでに追われる立場のSHEIN

SHEINがアパレル越境ECのパイオニアかというとそうではない。前後して類似ビジネスを興した企業はあり、現在も創業が続いている。

SHEINが創業後まもなくは、SheInsideブランドでウエディング用アパレルの越境ECを行っていたことは、すでに述べた。
このビジネスモデルは2007年創業のLightinTheBox社(蘭亭集勢)のものであった。創始者はGoogle中国CSOであった郭去疾氏だ。

高価だった商品の価格帯を調整し、米国等海外市場へ事業を拡大。2013年に米国ナスダック上場した。

SHEINの前身企業の創業メンバー、李鵬氏(同名の元首相とは別人)は独立して、ROMWEブランドとしてアパレル越境ECビジネスを拡げている。

2015年に資金調達し、更に同時期に米国女性用アパレルオンラインサイトのMakeMeChicのM&Aを行う。

ROMWEはZARAの御膝元スペイン、欧州、中東での販売を得意とし、MakeMeChicは米国を中心に展開している。これによりSHEINと同様の世界販売網が広がり、前述のデジタルマーケティング、SCMを短期間で活かす事が出来たと言える。

第2、第3のSHEIN

第2、第3のSHEIN

同じビジネスモデルで創業した中国企業にZaful、Rosegalがある。両社とも深圳上場企業 GlobalTopE-Commerce Co.,(GTEC:ST跨境)の傘下に入っている。Zaful はROMWEよりも早く2007年に創業。18-25歳欧米女性をコアターゲットとして展開する。

2011年にA-ラウンド5,000万元(8.5億円)資金調達後2014年にGTECに買収される。その後も拡大はしているがSHEINに比較すると緩やかである。今年に入りGTECグループの財務問題が表面化し優良資産のZafulのカーブアウトも噂された。2020年売上は50億元(850億円)で企業価値は40億元(680億円)と推定される。別投資家を引き入れ、再構築により距離が空いたSHEINとの差を詰める事が出来ないかと考える。

北京細刻網絡科技有限公司(CHICV)は2014年末設立、現在はSHEIN同様広州を本部とし、米国でオンラインレディースブランド①StyleWe.com②Just Fashion Now,③Noracoraを運営している。

①②はSHEINより価格帯は高めだが、雇用デザイナーと消費者のコミュニケーションが取れる事を特色とし、③はSHEINとほぼ類似となっている。

今後、既存企業が同様のサービスを導入する可能性や、さらに後進の越境ECアパレル企業が出てくる可能性もある。この場合、中国内の生産施設、流通網の取り合いとなり、かえってコストアップとなる可能性もある。

中国国内での効率的なSCMの維持が、C2M方式の拡大、継続への課題と言える。

新たな取り組み

すでに「追われる立場」となったSHEINは、Z世代の女性中心のアパレル提供から、製品カテゴリを増やしアクセサリー、メンズ、靴等18カテゴリまで増やしている。最近の取組みは下記となる。

1.外部デザイナーの起用

 
自社内保有に限らず外部デザイナーのインキュベーションを行うプロジェクトで SHEIN-Xとしている。従来中国発欧米向けデザインであったものを海外若手デザイナーの登用に広げている。これによる新作アップの速度を上げる事と市場による反応を活かそうとの動きである。

2.プレミアムブランド

 
高級ラインMOTF(旧SheIn Premium)ブランドも立上げている。価格帯は15-100米ドル中心で、素材も化繊だけでなく天然素材の利用を進めている。そして、リサイクルポリ繊維の使用と環境保護にも強い興味を示す、ミレニアル、Z世代を意識している。一方こちらの新作アップは週50件前後としている。

3.コスメ、ビューティ開発

ZARAがZARA Beautyを出したようにSHEINは2019年にSHEGLAMを立ち上げている。価格帯は1米ドル台からと安価で、商品数の多さはSHEINアパレルを踏襲。FACEBOOK、INSTAGRAMからKOL、KOCの引き込みも同様である。商品の包装に費用を掛けないのが特徴で、品質と安価両面を追求している。

欧米との貿易摩擦のきっかけにも

中国発で欧米風デザインを武器にするECビジネス企業は、中国グローバルブランドの上位にも位置付けられる規模に拡大している。

中国国内のSCMの再構築、拡大が同ビジネスの重要課題で将来、海外での生産拠点の構築も進む可能性がある。また、中国発の安価製品の普及が進むと、欧米との政治問題と絡み貿易摩擦問題に突入する可能性もありうる。

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