深刻化するマイクロプラスチック問題。原因と対策を読み解く

"マイクロプラスチック”とは、投機された後に紫外線劣化などにより粉砕されたプラスチック片や、歯磨き粉などに利用されるスクラブビーズのような、直径5mm以下のプラスチックの総称である。社会的な問題となっているマイクロプラスチックについて、その背景や影響、企業や個人による対策の現状について解説する。

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マイクロプラスチック問題の発生要因と深刻な影響

マイクロプラスチック問題の発生要因と深刻な影響

マイクロプラスチックとは環境中に存在する直径5mm以下の微細なプラスチック粒を指し、近年では海洋汚染の大きな原因と認識されている。最大の発生原因は環境中に投機されたレジ袋やペットボトルを含むプラスチック製品で、紫外線劣化などにより破砕されたものが、河川や下水を経て最終的に海洋に集積していく。

これに加えて、歯磨きなどに含まれるスクラブビーズや工業用研磨剤に含まれるプラスチックビーズ、洗濯により剥がれ落ちる合成繊維くずのように、人工的に1mm以下の微細片や微粒子として製造されたプラスチック(1次マイクロプラスチックと呼ばれる)も深刻な原因である。特に後者には下水ろ過装置をすりぬける微細なものが多く、製造や使用自体が世界的に問題視されている。

蓄積・拡散する海洋汚染

蓄積・拡散する海洋汚染

マイクロプラスチックによる海洋汚染は、自然分解が困難な人工化合物が回収困難な形態で海洋中に存在しているという点で極めて深刻である。効果的な原状復帰の方法が存在しない中で、汚染物質は増加し、延々と蓄積されている。現在、世界では少なくとも年間800万トンのプラスチックごみが海洋に流入しており、世界経済フォーラムによると2050年には海洋プラごみの量が重量ベースで魚の量を超えると予測されている。

微細・軽量なマイクロプラスチックは海流に乗って運搬され、より広い海域に拡散していく。これらのマイクロプラスチックによる問題は初期には海洋生物の目などの開放部や消化器官への蓄積など、物理的な影響が注目されていた。近年ではマイクロプラスチックがダイオキシンなど、海中の残留性有機汚染物質(POPs)等を吸着しやすいことも知られている。

また、プラスチック添加物の多くが環境ホルモンの性質を持つことも指摘されており、誤って摂取した海洋生物にとって、物理的な障害にとどまらない、より広範な健康被害につながっていることが懸念されている。

マイクロプラスチックが人体へ悪影響を及ぼす可能性も高い

海洋生物のマイクロプラスチック誤食などによる汚染は、食物連鎖によってプランクトンから小魚、より大型の生物へと濃縮されていく。このため当然のことながら、魚介類の摂取を通じた、POPsや環境ホルモンによる人間の健康被害も大きな懸念といえる。水俣病のように原因化学物質(メチル水銀)が特定された疾病と異なり、現在のところ人間にマイクロプラスチックを原因とする疾病が発生したことは証明されていない。

しかし、人間を取り巻く環境中に既にマイクロプラスチックが蓄積していることと、POPsや環境ホルモンのようながんや代謝性疾患の発症を引き起こす可能性のある化学物質がマイクロプラスチックから検出されていることは事実であり、人体への健康リスクは否定できない状況である。

マイクロプラスチック問題の改善に向けた様々な取り組み

マイクロプラスチック問題の改善に向けた様々な取り組み

実はマイクロプラスチックによる環境汚染は実は海洋にとどまらない。

河川や海洋に存在するマイクロプラスチックは、水中を浮遊しながらより広い海域に運搬されると共に、風に乗って大気中に浮遊することも発見されている。2017年に英仏の研究チームによって英誌「ネイチャージオサイエンス」に発表された論文ではピレネー山脈山頂の空気中のマイクロプラスチックの存在が報告されている。

このため、マイクロプラスチック削減に向けた対策は、発生源の地域を問わない世界的な課題と認識され、国際機関や各国政府が様々な規制を検討・実施している。

海外では行政による規制が企業などによる対策への取り組みを主導
海外では行政による規制が企業などによる対策への取り組みを主導

対象を1次マイクロプラスチックに限定すると、EU加盟諸国では既にオランダ、フランス、(離脱以前に)英国、デンマーク、アイルランド、イタリア、スエーデンなどでマイクロプラスチックを含む化粧品等の販売を禁止している。

また、EUではREACH規則*による用途を問わない1次マイクロプラスチック制限案の検討が2018年に開始し、原案作成や意見募集を経て現在は欧州委員会による承認への動きが進んでいる。

*EU域内で製造・使用される化学物質管理における法規制。

米国では2015年12月に「マイクロビーズ禁止水質法」が制定され、2017年7月からマイクロビーズを含むリンスオフ化粧品の製造が禁止され、2018年7月からは州をまたいでの流通が禁止された。カナダ連邦政府ではマイクロビーズを含むトイレタリー製品の製造、輸入、販売を2018年7月までで禁止、2019年7月からはマイクロビーズを含む自然健康製品と非処方薬も禁止した。

筆者が担当する化粧品・トイレタリー業界ではグローバル企業はいち早く対応し、米国の法規制に先だつ2014年3月時点で、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、仏ロレアル、英・蘭ユニリーバがスクラブ剤などの天然素材への転換方針を発表していた。

マイクロプラスチックに限らない廃プラスチック削減に向けた規制では長く欧州が先行しており、欧州委員会は2020年3月に以下を含む「行動計画」を示した。

  • プラスチックのリサイクル含有製品を必須とする要件
  • マイクロプラスチックとバイオ・生分解性プラスチックに関する特別な配慮の要求
  • 包装の削減、使い捨て食器類のリユース製品への置換

欧州ではこれに呼応するように企業の対策も進んでいる。

ユニリーバは2025年までに下記1-2を公表している。

  1. )プラスチック包装材の削減とリサイクルプラスチックの使用加速によるバージンプラスチック使用量の2019年比半減
  2. )プラスチック廃棄管理への投資促進により、商品に使用する量を上回るプラスチック包装材を回収すること

ロレアルも下記1-2を開示している。

  1. )2025年までにすべてのプラスチック包装材の詰め替え可能、再利用可能、リサイクル可能、あるいは堆肥化可能なものへの切り替え
  2. )2030年までにパッケージに使用するプラスチックのリサイクル素材やバイオベース素材への切り替えにより、化石由来バージンプラスチック使用を取りやめる方針

グローバルに展開する大手企業は、明確な長期目標を打ち出してプラスチック問題への対応を社会にアピールすることでブランド価値を高め、市場での競争優位性を拡大する機会ともしている。

一方で、投資余力に劣る企業では、商品設計の変更や原材料の置き換えに要するリソース不足が長期的な事業継続のリスクにもなりえる状況といえる。この中で、近年では大手企業が環境NGOやベンチャー企業などとコンソーシアムを構築し、独自での対応が困難な企業を引き込む動きも強まっている。

規制が世界に遅れる中で、日本の政府と企業の取り組みとは

海外では行政による規制が企業などによる対策への取り組みを主導

出所:環境省 平成30年度海洋ごみ調査の結果について

環境省の2014年調査により、日本周辺海域に浮遊するマイクロプラスチックは世界の海域の27倍に達していることが判明した。(出所:海洋ごみとマイクロプラスチックに関する環境省の取組。環境省はこれ以降も調査を継続しており、2018年までの累積データ(上図)によると、日本周辺は日本海域を筆頭にいたるところが膨大なマイクロプラスチック汚染にさらされている。

日本政府の取り組み

世界の認識では、海洋プラスチック問題は2015年のG7エルマウ・サミットで海洋プラスチックごみが世界的課題であることが提起されて以来、G7の大きな議題であり続けている。

2016年に日本で開催した伊勢志摩サミットでも問題意識とアクションプラン実行の再確認がされた。

2018年のG7シャルルボワ・サミットでもG7首脳は「健康な海洋、海、レジリエントな沿岸地域社会のためのシャルルボワ・ブループリント」を採択した。

更にここでは、日本及び米国を除く5ヵ国は、2030年までの数値目標と共に使い捨てプラスチックの削減を推進する「海洋プラスチック憲章」に署名した。

日本が署名しなかった理由について政府は、プラスチックごみの削減には賛成するものの、「国内法が整備されておらず、社会に影響を与える程度が不透明なため署名できなかった」と説明したが、この対応は国内外からの批判を招いた。

シャルルボワ・サミットが開催された2018年、日本では「海岸漂着物処理推進法」の改正が成立している。プラスチックごみ削減のための自治体による地域計画の策定、海洋ごみの回収・処理、発生抑制に関する事業などを財政支援する内容だが、主題はプラスチックごみの発生源ではなく漂着物処理におかれていたが、マイクロプラスチックに関しては、洗顔料や歯磨き粉などについてマイクロビーズを含む製品の製造・販売の「自粛」をメーカーに求めることが明記された。

日本政府は2019年に策定した「プラスチック資源循環戦略」において、達成時期と数値目標を含むプラスチックのリデュース(削減)、リユース(再利用)・リサイクル(再資源化)とバイオマスプラスチックの導入戦略を示した。

同戦略ではマイクロプラスチックの海洋流出抑制対策についても、「2020年までに洗い流しのスクラブ製品に含まれるマイクロビーズの削減を徹底する」「プラスチック原料・製品の製造、流通工程を含むサプライチェーン全体を通じたペレット等の飛散・流出防止の徹底を図る」ことを示したが、いずれも法的な責任や罰則は伴っていない。

日本企業の取り組み

日本企業の取り組み

法規制が進まない中でも、日本におけるマイクロプラスチック問題への対応は、企業が先行している。特にグローバルに事業活動を行う企業では、日本の規制如何に関わらず、海外市場での環境規制や、若年世代を中心としたエシカル消費への関心の高まりに対応することは必須といえるためである。

更に日本においても、社会的問題に対する企業の取り組み姿勢は、金融界や経済界では既に大きな関心事となっている。世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人が、2015年に国連の責任投資原則(PRI)に署名し、2017年から環境要素等を考慮したESG投資を拡大している。

また経団連は2017年に企業行動憲章を改正、SDGs達成を明確な目標として組み入れた。これを機に少なくとも大企業にとっては、海洋プラスチック問題に無関心でいることは長期的な事業継続のリスクとなっている。

マイクロプラスチック問題に対しては、化粧品の業界団体である日本化粧品工業会が政府に先立つ2016年に会員企業1,200社に対してマイクロビーズなどの使用自粛要請をだしている。

花王、ライオン、資生堂、コーセー、ポーラ・オルビス、ファンケル、マンダムといった上場企業のほとんどは、海岸漂着物処理推進法の自粛要請が出された2018年に既に天然由来品への切り替えや製品処方の変更を終え、プラスチック製マイクロビーズの使用・出荷を終了している。

マイクロビーズのデメリットが広く知られている今日では、こういった製品が流通店や消費者に受け入れられることが難しい状況ともいえ、環境省が2020年に実施した洗い流しのスクラブ製品を販売する51企業110製品の調査では、マイクロプラスチックビーズを使用している製品は確認されなかった。

一方で、工業用研磨剤などの産業利用領域や、洗い流しを前提としない紙おむつなどの衛生製品でも、化石燃料由来のマイクロビーズは依然として必需品として使用されているが、リサイクルの困難さを考慮すると2次マイクロプラスチックと比較しても使用量削減などの余地に乏しいといえる。

リサイクルを促進する場合には処理プロセスの中で洗浄工程は避けられず、サプライチェーンを通じて環境中に放出しない確実な利用や廃棄プロセスの開発と管理が依然として大きな課題である。

新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスの影響

マイクロプラスチックによる海洋汚染を進めないという取り組みは、過去10年近くにわたって認識され、国家や地域による濃淡はあるものの、世界的な対策が進みつつあった。しかしここに来てCOVID-19(新型コロナウイルス)感染症拡大の影響により、世界でのプラスチック使用量が確実に増加している。

パーティション、フィルター、ガウンやマスクといった個人防護具から、食品の個別包装に使用するパッケージ類まで、飛沫感染を防ぐ多くの製品はプラスチック製である。例えレジ袋の代わりにエコバッグを持参したとしても、野菜やパンは個別包装されている状態は少なくとも今後数年は続くと見られる。

新型コロナウイルスの影響

海洋汚染に関して大きな影響を及ぼすものの一つが、不織布マスクやフィルターなど、一般市民が利用する使い捨て個人防護具である。これらはポリプロピレンやポリウレタンを原料路する不織布で作られているが、「使用者以外にとっては触りたくない」ものであり、衛生的にも環境的にも不適切な廃棄をされるケースが多い。(路上に投棄されたマスクを見かけたことのある読者は多いと思われる)

香港の環境団体オーシャンズアジアが発表した報告書によると、世界全体で2020年に520億枚のマスクが生産され、このうち3%に当たる15億6,000万枚、プラスチック重量にして4,680~6,240トンが海に流れ込んだとのことである。

マイクロプラスチック問題を「身近な問題」として

マイクロプラスチックによる海洋汚染問題に対する社会的な認識が高まり、消費者の倫理的な意識は高まっており、何らかの貢献を望む個人は若年層を含んで増加している。一方で、歯磨き粉や洗顔剤がそうであったように、マスクが海洋プラスチック汚染につながることを認識している消費者は決して多くはないだろう。

「マスクを利用しない」という選択肢が取れない中で、望まぬ環境破壊を防ぐための啓蒙は供給する企業の責任といえる。まずは路上投棄を減らすための取り組みなど、できることから主体的にマイクロプラスチック問題に向き合っていくことを期待したい。

最終消費財を供給する企業にとっては、製品のライフサイクルを消費者に共有し、使用するメリットと共に、環境に対するリスクなどを伝えることで、正しい廃棄方法やその重要性を伝えることは、使用量の削減と同様に重要なことであろう。

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