M&Aにおける第三者割当増資の特徴を解説

企業が資金を調達したい場合、主に検討される手段は銀行融資等によるデット調達と株式発行によるエクイティ調達に大別されます。エクイティ調達の中でも、公募増資と第三者割当増資という手法があり、それぞれ状況に応じて使い分けられています。 さらに、第三者割当増資はM&Aの際にも用いられます。本記事では、主にM&Aにおける第三者割当増資にフォーカスを当てて、適宜他の手法とも比較しながら解説していきます。

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第三者割当増資とは?

第三者割当増資とは、広く株式市場一般からではなく、特定の第三者から株式の対価として資金を得ることを目的として実施される資金調達手法です。取引や提携関係のある他社との関係性強化を図るときや、何らかの理由で公募増資等ができない場合などによく利用されます。東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループでは、以下のように定義しています。

“業務提携の相手先や取引先等特定の第三者に新株を引き受ける権利を与え、新株式の発行や、会社が処分する自己株式を割り当てることにより資金調達を行います。” (日本取引所グループ)

M&Aの世界においては、しばしば他社からの買収防衛策として用いられることがあります。

第三者割当増資のメリット・デメリット

第三者割当増資やそれが用いられる場面についてはお分かり頂けたかと思いますので、次にそのメリットとデメリットについて解説していきます。

メリット

1. 引受先との関係性強化が見込める

特定の企業を引受人として新株を発行するということは、引受人にはその株式から得る価値を最大化させるインセンティブが生まれます。したがって、より良い配当や含み益に期待し発行体の業績向上に資する取引条件やリソース提供に繋がります。たいていのケースで引受と同時に業務提携を結ぶのはこのためです。

M&Aの文脈では、支配権の獲得を企図しないマイノリティ出資をする際に同じく見受けられる効用です。株式譲渡でも効用としては当然同様のものが期待できますが、事業譲渡の場合は両社の繋がりが残らないことが多いため、このような効用は期待薄と言えます。

2. 比較的短期間で実施が可能

第三者割当増資においては、特定の第三者との間で合意がとれさえすれば素早く実施できるため、当事者が多くなる公募増資と比べて短期間で行うことが可能です。

また、公開買付(TOB)規制(公開企業の株式を一定数以上買い付ける場合、保有株式の状況を報告する義務が発生すること)を受けないことも取引プロセスの簡易化、ひいては迅速化につながります。

TOB規制には、取引所外で5%以上取得した際に報告義務が発生する「5%ルール」や、1/3以上保有した際に報告義務が発生する「1/3ルール」などいくつか細かいルールが存在します。ただし、買付を行った者が10人以下であればこれらのルールは適用外となるため、第三者割当増資の際は基本的に当該規制を受けません。

株式譲渡の場合もスピード感としては同様ですが、事業譲渡となると詳細を決定するのにより時間を要するため、プロセス全体のスピード感としては遅くならざるを得ないでしょう。

3. 敵対的買収を防ぐことが可能

第三者割当増資では公募増資と違い新株の割当先を特定することができるため、発行体にとって都合の悪い先を排除することが可能です。敵対的買収の際は、この手法を用いて友好的と分かっている第三者に新株を発行し、買収者の持分を含めた全株式を希釈化させることで、買収者の持分が支配的水準に到達することを阻止することができます。このような友好的な第三者を正義のヒーロー・白馬の騎士になぞらえて「ホワイトナイト」と呼びます。

株式譲渡も事業譲渡もこの目的を達成するためには使えない(株式持分を希釈化できない)ため、買収阻止の際には第三者割当増資を選択することになります。

デメリット

1. 引受先は発行体の持つリスクを出資相応分受けもつことになる

発行体に対して一定以上の権利行使が可能になる水準の株式を保有するということは、一方でその会社が抱えるコンプライアンス関連等のリスクに関する責任についても、出資相応分受けもつことを意味します。

それは、賠償による金銭的損失の応分負担などの直接的かつ定量的なリスクから、世の中的に同一グループという見られ方をされた場合の引受企業に対する風評被害等の定性的リスクまで様々考えられます。

2. 株式譲渡と比較して同じ議決権を取得するための資金が多額になる

新株を発行するということは発行済株式の希釈化を招くことであるため、発行と同時に発行分の持分割合は発行前のものより低くなります。そうなると、目標の議決権に到達するまでに取得しなければいけない株式総数が増えるため、既存株式の譲渡の場合と比べて当然より多くの資金が必要になってきます。

3. 有利発行の場合、株主総会の特別決議が必要になる

第三者割当増資の場合、公開企業であれば取締役会の決議により任意の条件で株式を発行できます。ただし、時価や直近の取引価格と比べて有利(安価)な条件で発行しようとする場合、株主総会の特別決議(2/3の賛成)が必要です。この決議を通すことは簡単ではないため、実施の際には有利とまでは言えない水準で推し進めることが通常です。一方で、この水準の妥当性・公平性についてはしばしば問題となります。

4. 少数株主が残ってしまう

TOBにおいては少数株主が残らないようにする「スクイーズアウト」という手法がある一方、第三者割当増資の場合、直接的には既存株主の動向に影響を及ぼせないため、少数の株主が残ってしまいます。したがって、完全買収を企図する場合、この手法は使い難いということになります。

第三者割当増資の手法

それでは次に、第三者割当増資の具体的な手法について解説していきます。当該増資には新株発行・自己株式処分、新株予約権の割当、そして現物出資という3つの手法を用いることができます。

1. 新株発行・自己株式処分

自社が持つ自己株式(金庫株)または生株を新たに発行し引受人に割り当てる手法です。割当時点で株価が決定され、引受人が新たな株主として確定します。

2. 新株予約権の割当

生株ではなくその発行のための予約権を割り当てる手法です。これを活用すれば、資本の払い込みを段階的にすることが可能となるため、状況に応じて追加出資をしない、あるいは買収そのものを実行しないという選択肢を持つことができます。

また、この手法の場合、予約権割当時点で株式の発行価格(行使価格)を決定することができるため、その後時価が上昇したとしてもより安価な行使価格で株式を発行させることができます。左記の通り、条件次第では引受人のメリットが大きいため、どの手法のどんな条件で実行するかは発行体の立場の強弱にも影響されます。

3. 現物出資

株式の発行にあたって金銭以外の財産を持ってその対価とする手法です。任意の財産の価値算定を行う必要があり、専門家の助けが必要となります。M&Aの文脈では金銭を用いない本手法はあまり出現しません。

第三者割当増資における規制

第三者割当増資には会社法や金商法、税法上、取引所の自主規制など特有の規制が存在します。それは上述にもある通り、当該増資によって既存株主の持分が希釈化してしまうため、度がすぎたデメリットから株主を守るために作られています。

その中でもとりわけ留意が必要な規制は東京取引所が規定する「25%ルール」及び「300%ルール」です。希釈化率(増資後の株式の議決権数÷増資前の発行済株式の議決権総数)が「25%」もしくは「300%」を超える第三者割当増資は制限されます。

具体的には、25%以上(または支配株主の変更)の場合、原則として第三者割当に係る株主総会等による株主の意思確認の手続、もしくは独立第三者による第三者割当の必要性、相当性に関する意見を入手することが義務づけられています。

また、300%を超える場合は原則として禁止扱いとなっており、「株主及び投資者の利益を侵害するおそれが少ない」と認められる場合を除き、上場廃止処分が下されることになります。

まとめ

第三者割当増資は近年実施例が増えてきています。それはその性質上、企業の統廃合、つまりM&Aの件数が増えてきていることにも起因しているでしょう。しかしながら、当該増資手法は既存株主にとって彼らが好むと好まざるとに関わらず株主構成が大きく変わる恐れがあり、その取扱には十分注意が必要です。

特に、買収企業やホワイトナイトへの割当に際しては、その株価に留意が必要です。なぜなら、市場価格より明らかに低い価格で株式が発行されてしまうと、実質的な利益供与につながるばかりか、既存株主に対する背信行為ともなりかねません。あまり度が過ぎると投資家保護を目的とする証券取引法違反の疑いをかけられる恐れが出てくるため、極端な取引や乱用は禁物です。

このように、株式を巡る各種取引には年々厳しい規制が科せられており、当事者にとっては押さえておかなければいけないポイントは増える一方です。当社ではそんな方のニーズに応える各種スクール・講座を設けております。ご関心のある方は一度お問い合わせいただけますと幸いです。

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